リクルートによる米Indeedの買収
2012年実施国内で首位を占めた情報企業は、無名で赤字の米求人検索エンジンになぜ1,000億円超を投じたのか
- 概要
- 2012年9月、リクルート(同年10月に持株会社リクルートホールディングスへ移行)が、同年4月に社長へ就いた峰岸真澄のもとで、米国発の求人検索サービスIndeedの株式100%を取得することで合意した買収。取得価額は非公表だが、報道では約10億ドル(1,000億円超)と伝えられ、同社にとって初の巨額M&Aであった。
- 背景
- 国内の就職・住宅・生活情報と人材派遣を軸に成長してきたが、海外売上比率は約3.7%にとどまっていた。HRの主な戦場が紙からオンラインへ移るなか、峰岸社長は人材ビジネスで世界一を掲げ、中国単独進出の失敗を踏まえて海外はM&Aで攻める方針を選んだ。
- 内容
- 複数の買収候補のうち、2004年創業ながら赤字が続くIndeedを選び、株式100%を取得して完全子会社とした。安定収益が見込める派遣型の候補より高い価格であったが、検索という技術がHRの結びつき方を変えるとの見立てに賭けた。買収後は統合を急がず、現地の経営陣に裁量を委ねる体制を敷いた。
- 含意
- 情報誌を核とする企業像から、HRテクノロジー企業への転換を鮮明にする一手であった。Indeedはその後、世界最大級の求人検索サービスへ成長し、2014年の上場ストーリーの中核資産となった。
「規模の派遣」ではなく「技術の検索」に賭けた選択
この買収の核心は、海外へ出る際に、確実なコスト削減が見込める既存型の人材会社ではなく、赤字を抱えた技術系の新興企業を選んだ点にあるとみられる。前年のスタッフサービス買収が規模の獲得をねらった買収であったのに対し、Indeedの買収は、検索というテクノロジーが求人と求職の結びつき方そのものを変えるという見立てに賭けたものであった。社長就任の年に、失敗すれば経営への信任にかかわりかねない規模の案件を、しかも社内で議論が割れるなかで決めた点に、峰岸社長の判断の性格がうかがえる。
同時に、この決断は自前主義からの転換という一貫した流れの上にあったとも読める。中国での失敗を経てM&Aへ舵を切り、買収後は統合を急がず現地に裁量を委ねるという型を、リクルートはIndeedで広げた。紙の情報誌で培った収益力を土台に、海外・オンライン・技術という次の柱を外から取り込むこの選択は、その後のグラスドア買収などにも引き継がれ、同社を国内の情報企業から世界のHRテクノロジー企業へと押し上げる分岐点となったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
国内で首位、海外比率3.7%という出発点
リクルートは、就職・住宅・生活情報などの情報事業と人材派遣を国内で幅広く手がけ、主要な領域で首位を占める非上場の大手企業であった。ただし事業の中心は国内にあり、2012年時点で海外売上比率は約3.7%にとどまっていた。2012年4月、9年ぶりの社長交代で峰岸真澄が社長に就くと、国内でさらに強い首位を狙うか、海外へ打って出るかという選択が最初の経営課題となった。峰岸社長は、自社の原点である人材ビジネスで世界一を目指す道を選んだ[1]。
中国での失敗が導いた「M&Aで海外へ」
海外へ出る手段について、峰岸社長は自前の進出ではなく企業買収を選んだ。2000年代初頭に中国へ単独で進出した際、商習慣の違いや日本流のビジネスモデル・マネジメントの持ち込みがうまくいかず、自前主義の限界を経験していたためである。「人材ビジネスのナンバーワン企業になる」と掲げたうえで、世界中の人材サービス各社を候補に交渉を重ねていた[2]。
決断
「何だ、その会社は」——無名の赤字テック企業を選ぶ
複数あった買収候補の一つが、米国発の求人検索サービスIndeedであった。2004年創業のIndeedは、ネット上に散らばる求人情報を集めて無料で検索できるアグリゲート型のエンジンを武器に欧米で急成長していたが、積極的な投資で赤字を抱え、日本ではほとんど知られていなかった。峰岸社長自身、買収候補として名前が挙がったときには戸惑ったと振り返っている。当時新規事業を率いていた出木場久征氏が創業者と事業に将来性を見出して強く推したことが、案件を前へ進める力となった[3][4]。
候補の中には、古い事業モデルながら買収すれば間接コストの削減で確実なリターンが見込める、Indeedより安い会社もあった。それでも峰岸社長は、赤字続きのIndeedに1,000億円規模を投じる判断を選んだ。派遣で規模を積み上げる道ではなく、検索という技術がHRの結びつき方そのものを変えるという見立てに賭けた選択であった[5]。
2012年9月、全株式取得での合意
2012年9月25日、株式会社リクルートはIndeedの株式100%を取得することで合意したと発表した。リリースでは、欧米を中心に急成長するIndeedが自社のグローバルプラットフォームになりうると判断したこと、Indeedの技術力とユーザー基盤に自社が培ってきたメディア運営のノウハウを組み合わせ、世界各国でより多くの就業機会の提供を目指すことを買収の狙いに挙げた。当時のIndeedは世界50カ国以上・26言語に対応し、月間約8千万人が利用していた。取得価額は公表されなかったが、報道では約10億ドル(約1,130億円)で、これは2012年度売上の約7倍にあたる規模とされた[6][7][8]。
買収後もIndeedは独立した子会社として現地の経営陣が引き続き率いる体制とし、リクルートは統合を急がず現地に裁量を委ねる方針を採った。のちにIndeedのCEOには、買収を推した出木場氏が就いた。日本流の経営を持ち込んで失敗した中国の教訓を、Indeedでは踏まえた形である[9]。
結果
検索型求人の急成長と、オンラインへの転換
買収後、Indeedは検索型の求人サービスを中心に北米・欧州で拡大を続けた。2012年度に約1億5,600万ドル(約180億円)だった売上は、2011年から2015年にかけて年平均約67%増のペースで伸び、2016年度は9カ月で約7億9,500万ドル(約918億円)に達した。月間の利用者は2億人規模へと広がり、リクルートの収益は紙媒体中心からオンライン中心へと移っていった[10]。
この成長は、リクルートが総合人材企業からHRテクノロジー企業へと自己定義を改める後押しとなった。2014年10月、リクルートホールディングスは東京証券取引所第一部へ上場し、初値・終値とも公開価格を上回り、時価総額は約1.9兆円に達した。Indeedを中核とするHRテクノロジー領域は、この上場を経て同社の成長を支える柱へと育っていった[11]。
- リクルート ニュースリリース 2012年9月25日「米国Indeed Inc.の株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ」
- Indeed, Inc. プレスリリース 2012年9月25日「Indeed to be Acquired by Recruit」
- ダイヤモンド・オンライン 2019年7月26日「「何だ、その会社は」と思ったIndeedとリクルートが恋に落ちたワケ」
- ITmedia 2014年7月4日「リクルートの最年少役員が語る、求人サイト『indeed』買収の舞台裏」
- 日経ビジネス電子版 2017年3月14日「リクルートの米Indeed買収がお得だった件」
- 日本経済新聞 2014年10月16日「リクルート上場、終値3330円 公開価格230円上回る」