自己株式取得を6,000億円へ(2022年・リクルートHDの決断)

更新:
論点持合い株の売却を自己株式で吸収するか
リクルートHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
上限1,500億円から3年で拡大した株主還元と、消却による発行済株式の削減

何をなぜ決めたか:上限1,500億円から3年で拡大した株主還元と、消却による発行済株式の削減

概要

2022年10月17日、リクルートホールディングスが取締役会で上限1,500億円・4,200万株の自己株式取得を決議した経営判断。以後、2023年5月に764億円、10月に539億円、12月に2,000億円、2024年7月に6,000億円、2025年2月に4,500億円と枠を積み増し、2025年3月期の取得による支出は8,244億円に達した。取得した株式は2024年3月29日に46,118,081株、2025年3月24日に85,929,800株を消却し、発行済株式総数は16億9,596万株から15億6,391万株へ減少した。

背景

同社はキャピタルアロケーションの優先順位を、既存事業の開発・マーケティング費用、安定的な1株当たり配当の継続、HRテクノロジー事業を中心とした戦略的M&A、市場環境と財務状況を考慮した自己株式取得の順に置いている。加えて、事業法人株主が保有株を市場で断続的に売却すると株価に下落圧力がかかるとの懸念を認識しており、まとまった株式を一度に売却できる機会として自己株式の公開買付けを繰り返し用いてきた。2023年5月の決議は、最大の事業法人株主である大日本印刷が保有株の半数を2024年3月までに売却する意向を示したことを受けたものになる。

内容

取得の手法は2つに分かれる。事業法人株主の売却を受けるものは自己株式の公開買付けで、2023年5月が1株3,326円、10月が1株4,148円。純粋な還元を狙うものは取引一任方式による市場買付けで、2023年12月の2,000億円枠と2024年7月の6,000億円枠がこれにあたる。2025年2月28日決議の4,500億円枠は、株式市場の動向を踏まえて4月25日に取得し得る株数だけを5,200万株から6,200万株へ広げ、取得価額の上限は据え置いた。

含意

市場買付けの枠は上限をほぼ使い切っており、2023年12月決議は199,999百万円、2024年7月決議は599,999百万円、2025年2月決議は449,999百万円を取得している。一方、公開買付けは応募が買付予定数に届かず、2023年5月決議は18.14%、10月決議は18.61%が未行使のまま終わった。基本的1株当たり当期利益は2023年3月期の168.59円から2025年3月期に271.44円へ、親会社所有者帰属持分当期利益率は18.0%から22.6%へ動いた。

いつ何が起きたか11件
当時の取締役7名

当時の取締役(2022年6月株主総会決議)

考察:買い戻す金額が利益に追いついた三年間
考察

考察:買い戻す金額が利益に追いついた三年間

三年の動きを金額だけで並べると、上限1,500億円から6,000億円への拡大は単なる増額に見える。ただ、決議の中身を読むと二つの別々の目的が同じ枠に同居していたことが分かる。2023年5月と10月の公開買付けは、事業法人株主が持ち株を市場で売り崩すことへの懸念に応え、その売却株を引き受ける措置で、買付価格も相手方と合意した水準に置かれている。これに対し2023年12月以降の取引一任方式による市場買付けは、相手を特定しない純粋な還元にあたる。前者は応募次第で不発になり得るため上限の18%前後を残して終わり、後者は上限をほぼ使い切った。同じ「自己株式取得」の語で括られる決議が、実行率という一点でこれほど割れている。

2025年3月期の取得による支出8,244億円は、同期の親会社の所有者に帰属する当期利益4,085億円の二倍にあたる。一年の稼ぎを超える金額を株式の買い戻しに充てられたのは、営業活動によるキャッシュ・フローが6,103億円まで伸び、手元の現金及び現金同等物が1兆1,368億円まで積み上がっていたからにほかならない。取締役会が2025年度末のネットキャッシュを6,000億円とする目標を掲げたことは、貯め込んだ現金の水準そのものを引き下げる意思の表明とみてよい。基本的1株当たり当期利益は168.59円から271.44円へ動いたが、そのうちどれだけが株数の削減によるものかは、発行済株式総数が16億9,596万株から15億6,391万株へ、率にして8%弱しか減少していない点に照らして測るべきであろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る4表

数字で見る

図と表

リクルートHD:自己株式の取得と配当の推移

自己株式の取得による支出(百万円)配当金の支払額(百万円)
リクルートHD:自己株式の取得と配当の推移
(百万円)自己株式の取得による支出配当金の支払額親会社の所有者に帰属する当期利益備考
2018年3月期1,08154,552151,667
2019年3月期1,32342,616174,280取締役会決議による自己株式取得はない
2020年3月期81,34649,268179,8802019年8月28日決議の上限800億円枠を執行した期
2021年3月期70,66740,414131,3932020年11月30日決議の上限700億円枠を執行した期
2022年3月期124,56834,317296,8332022年1月28日決議の公開買付け(1株4,581円)による
2023年3月期152,45434,638269,7992022年10月17日決議の上限1,500億円枠を執行した期
2024年3月期218,92835,374353,654公開買付け2件と2,000億円枠の市場買付けが重なった期
2025年3月期824,46535,644408,5046,000億円枠を使い切り、4,500億円枠の執行も始まった期
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第59期(2019年3月期)〜第65期(2025年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書】【主要な経営指標等の推移】
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第59期(2019年3月期)〜第65期(2025年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書】【主要な経営指標等の推移】

リクルートHD:発行済株式総数と自己株式の推移

取得した自己株式数(株)
リクルートHD:発行済株式総数と自己株式の推移
(株)発行済株式総数取得した自己株式数消却した自己株式数備考
2018年3月期1,695,960,0305660取得は単元未満株式の買取りのみ。2017年7月1日に1株を3株へ分割
2019年3月期1,695,960,03000
2020年3月期1,695,960,03022,259,6340
2021年3月期1,695,960,03015,157,1310
2022年3月期1,695,960,03026,555,8380
2023年3月期1,695,960,03035,004,9450
2024年3月期1,649,841,94947,518,36846,118,0813件の決議による取得が重なった期
2025年3月期1,563,912,14991,941,37785,929,8003件の決議による取得が重なった期
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期(2018年3月期)〜第65期(2025年3月期)【自己株式の取得等の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第58期(2018年3月期)〜第65期(2025年3月期)【自己株式の取得等の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】

リクルートHD:1株当たり指標の推移

基本的1株当たり当期利益(円)
リクルートHD:1株当たり指標の推移
(円)基本的1株当たり当期利益希薄化後1株当たり当期利益1株当たり親会社所有者帰属持分備考
2018年3月期90.7990.6500.2
2019年3月期104.31104.11578.04
2020年3月期108.27108.07599.65
2021年3月期79.8379.7667.96親会社所有者帰属持分当期利益率は12.6%
2022年3月期181.68180.83847.45親会社所有者帰属持分当期利益率は24.2%
2023年3月期168.59167.441,030.33親会社所有者帰属持分当期利益率は18.0%
2024年3月期225.99222.91,295.4親会社所有者帰属持分当期利益率は19.5%
2025年3月期271.44268.321,102.86親会社所有者帰属持分当期利益率は22.6%
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第60期(2020年3月期)・第65期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第60期(2020年3月期)・第65期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】

自己株式取得の条件

自己株式取得の条件
科目概要備考
取得の位置づけキャピタルアロケーションの第4順位開発・マーケティング費用、安定的な配当、戦略的M&Aに次ぐ
株式の種類当社普通株式会社法第155条第3号及び第7号による取得
2022年10月17日決議上限42,000,000株・150,000百万円取得期間2022年10月18日〜2023年3月14日
同決議の取得実績35,004,100株・149,999百万円2023年3月期に取得。株数は6,995,900株、価額は0が残枠
2023年5月17日決議上限23,000,100株・76,498百万円取得期間2023年5月18日〜7月31日。自己株式の公開買付け
同公開買付けの条件1株3,326円・買付予定数23,000,000株買付期間2023年5月18日〜6月14日の20営業日。決済開始日は7月6日
同決議の取得実績18,827,759株・62,621百万円応募数が買付予定数に届かず、上限の18.14%を残して終了
2023年10月2日決議上限13,000,100株・53,924百万円取得期間2023年10月3日〜11月30日。自己株式の公開買付け
同公開買付けの条件1株4,148円・買付予定数13,000,000株買付期間2023年10月3日〜10月31日の20営業日。決済開始日は11月24日
同決議の取得実績10,580,722株・43,888百万円上限の18.61%を残して終了
2023年12月13日決議上限46,000,000株・200,000百万円取得期間2023年12月14日〜2024年7月17日。取引一任方式の市場買付け
同決議の取得実績30,807,200株・199,999百万円2024年3月期に108,699百万円、2025年3月期に91,300百万円
2024年7月9日決議上限87,000,000株・600,000百万円取得期間2024年7月10日〜2025年2月12日。取引一任方式の市場買付け
同決議の期間変更取得期間を2025年2月12日まで短縮2025年2月12日決議。当初は2025年7月9日までとしていた
同決議の取得実績64,634,700株・599,999百万円2025年3月期に取得。株数は22,365,300株、価額は0が残枠
2025年2月28日決議上限52,000,000株・450,000百万円取得期間2025年3月3日〜12月23日。市場買付けとToSTNeT-3
同決議の株数変更上限62,000,000株(取得価額は据え置き)2025年4月25日決議。株式市場の動向を踏まえた拡大
同決議の取得実績55,612,500株・449,999百万円2025年6月18日に終了。うち41,003,800株は2025年4月以降の取得
自己株式の消却46,118,081株・195,832百万円2024年3月29日。発行済株式総数は1,649,841,949株へ
自己株式の消却85,929,800株・660,705百万円2025年3月24日。発行済株式総数は1,563,912,149株へ
取得した株式の用途株式報酬・M&Aの対価・消却新株予約権行使時の交付、従業員向け株式報酬、株式対価のM&A、消却
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第63期(2023年3月期)〜第65期(2025年3月期)【自己株式の取得等の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】、連結財務諸表注記【後発事象】
出所:リクルートホールディングス 有価証券報告書 第63期(2023年3月期)〜第65期(2025年3月期)【自己株式の取得等の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】、連結財務諸表注記【後発事象】
当時の取締役7名

当時の取締役(2022年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

次に読む決断

免責事項およびポリシー