出前館LINE・未来Fund有限責任事業組合を引受先とする総額300億円の第三者割当増資
独力で投資を続けるか、議決権の6割を委ねるか——ウーバーイーツとの店舗獲得競争のなかでの資本調達
- 概要
- 2020年3月26日、出前館の取締役会がLINE株式会社との資本業務提携契約と株式引受契約の締結を決議し、4月24日を払込期日として、LINE株式会社と未来Fund有限責任事業組合へ発行価格730円で合わせて41,096,000株を割り当てた資本政策。新株の発行額は30,000,080千円で、増資後の資本金は16,113,422千円となった。
- 背景
- 2016年8月に始めた配達代行の拠点新設と配送員採用で費用が膨らみ、2019年8月期の営業損益は39,194千円の損失へ転じていた。2016年9月に日本へ上陸したウーバーイーツの提携店舗は2020年2月初旬で1万7000店を超え、出前館の2万1000店超(2020年1月末)に迫っていた。
- 内容
- 割当後の議決権比率はLINE株式会社が35.8%、未来Fund有限責任事業組合が25.0%となった。中村利江社長の持株比率は13.93%から6.68%へ下がり、主要株主から外れた。未来Fundへ90%を出資するNAVER J.Hub株式会社の親会社であり、LINE株式会社の親会社でもあるNAVER Corporationが、出前館の親会社に該当した。
- 含意
- 2021年3月1日のLINE株式会社とZホールディングス株式会社の経営統合により、NAVER Corporationは出前館の親会社に該当しなくなった。以後、LINE・LINEヤフーは一貫して「その他の関係会社」である。2021年9月には総額834億円を追加調達したが、2022年8月期の営業損失は364億円へ膨らんだ。
6割を渡して買った時間
議決権の6割と引き換えに得た300億円は、2019年8月期の売上高67億円の4倍を超えていた。ウーバーイーツの提携店舗が1万7000店へ伸びて出前館の2万1000店に迫るなかで、拠点と配送員に費用を積み増す以外に首位を守る道は乏しく、営業活動によるキャッシュ・フローが98,120千円まで細った会社の自力では、その原資を作れなかった。支配を手放してでも規模を取るという中村社長の判断は、当時の競争条件のもとでは合理的だったとみることができる。
入れた資本が赤字を止めたわけではない。中期経営計画が2023年8月期に置いた営業利益120億円は123億円の損失に終わり、2022年1月には積み上げたばかりの資本金を1億円まで落としている。資本を出した側も、出前館を抱え込みはしなかった。NAVER Corporationが親会社であった期間は11か月にとどまり、以後はLINEヤフーもNAVERも「その他の関係会社」に並ぶ。議決権の6割が動いても連結には取り込まれない関係が、5年を超えて続いている。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
配達代行への投資と、反転した損益
出前館は2016年8月に配達代行のシェアリングデリバリーを始め、拠点と配送員を自ら抱える事業へ踏み込んでいた。売上高は2018年8月期の5,430,796千円から2019年8月期の6,666,183千円へ伸びた一方、経常損益は849,035千円の利益から7,121千円の損失へ反転し、営業損益も39,194千円の損失となった。仲介の手数料で得ていた利益は、拠点新設と配送員採用の費用に吸い上げられていた[1][2]。
損益の反転と同時に、投資へ回せる手元資金も細っていた。2019年8月期の営業活動によるキャッシュ・フローは前期の433,133千円から98,120千円へ落ち、現金及び現金同等物の期末残高は2,185,728千円まで減った。自己資本比率も50.1%から39.8%へ下がっている。出前館は2019年4月に行使価額修正条項付き新株予約権を第三者割当で発行しており、拠点を増やす費用を自力では賄いきれなくなっていた[3][4]。
ウーバーイーツとの店舗獲得競争
同じころ、加盟店の数では米国発の競合が背後に迫っていた。2016年9月に日本へ上陸したウーバーイーツの提携店舗は2020年2月初旬で1万7000店を超え、2000年から仲介サイトを運営してきた出前館の2万1000店超(2020年1月末)に近づいていた。中村利江社長は当時、新規参入も増えて競争が激しく、早急に利用者を確保しなければならないと語っている[5]。
市場そのものは伸びていた。エヌピーディー・ジャパンの調べでは2019年度の出前の市場規模は前年同期比18%増の4182億円に達し、店舗の売り上げが伸び悩む飲食チェーンの参入も続いていた。出前館は拠点新設と配送員採用の費用増から2020年8月期に15億円の営業損失を見込みながら、4〜5年後に提携店舗5万以上、利用者1000万人以上を掲げ、規模の拡大への投資を優先する構えを示していた。1月末の利用者数は317万人であった[6]。
決断
730円で41,096,000株
2020年3月26日、出前館の取締役会は、LINE株式会社との資本業務提携契約と、LINE株式会社および未来Fund有限責任事業組合との株式引受契約を締結することを決議した。払込期日は2020年4月24日。発行価格730円で両者へそれぞれ20,548,000株、合わせて41,096,000株を発行し、新株の発行額は30,000,080千円となった。資本金は15,000,040千円増えて16,113,422千円となり、資本準備金も同額増えている[7][8]。
割当後の議決権比率はLINE株式会社が35.8%、未来Fund有限責任事業組合が25.0%となり、2社で6割を超えた。2020年8月31日現在の大株主にも、LINEが29,428,000株・35.79%、未来Fundが20,548,000株・24.99%で並ぶ。LINEは出前館へ取締役3名と監査役1名を派遣した。有価証券報告書は、経営方針と政策決定は独自の意思決定によるとしたうえで、議決権の行使が事業運営に影響を及ぼす可能性を挙げている[9][10]。
主要株主から外れた社長と、韓国の親会社
資本の系統をたどると、増資は韓国の企業を出前館の親会社へ押し上げていた。未来Fundへ90%を出資するNAVER J.Hub株式会社の親会社であり、LINEの親会社でもあるNAVER Corporationが、被所有議決権60.8%で出前館の親会社に該当した。出前館は2020年3月26日に親会社の異動と主要株主の異動に関する臨時報告書を提出し、2020年8月期の有価証券報告書も金融商品取引法上の親会社等をNAVER Corporationと記している[14][15]。
結果
親会社であった11か月
親会社としてのNAVER Corporationは、1年ももたなかった。2021年3月1日にLINE株式会社とZホールディングス株式会社の経営統合の効力が発生し、LINE株式会社の親会社がNAVER CorporationからZホールディングス株式会社へ移ったため、NAVER Corporationは出前館の親会社に該当しなくなった。払込から数えて11か月ほどで、出前館に親会社のいない状態が戻っている[16]。
その位置づけは、その後も変わっていない。2025年8月期の有価証券報告書では、ソフトバンクグループとLINEヤフーが議決権の35.3%、NAVER Corporationが27.7%を持ち、いずれも「その他の関係会社」に並ぶ。2024年11月26日の定時株主総会で出前館は、LINEヤフーが同年7月12日の任意開示で非連結の持分法適用関連会社として維持する方針を示したと説明し、翌年11月27日の総会では、LINEヤフーは親会社ではないと注記している[17][18][19]。
834億円の続きと、計画との開き
資本を受け入れた後の出前館は、さらに大きな調達へ進んだ。2021年9月30日を払込期日として、有償一般募集で16,053,900株を発行価格1,736円・払込金総額26,754,787千円で発行し、第三者割当29,527,500株はZホールディングス株式会社が19,158,900株、NAVER Corporationが10,368,600株を引き受けた。調達額は総額834億円にのぼる。加盟店舗数は2021年12月に10万店舗を超えた[20][21]。
調達した資金は、赤字を止めるには至らなかった。2020年10月15日公表の中期経営計画は2023年8月期に連結売上高970億円・営業利益120億円を掲げたが、売上高が2020年8月期の103億円から2022年8月期の473億円へ伸びる一方で、営業損失は26億円から364億円へ膨らみ、2023年8月期も123億円の損失にとどまった。2022年1月6日には、資本金を55,020,686千円減らして100,000千円とする無償減資を実施している[22][23][24]。
- 出前館 有価証券報告書(2019年8月期)【大株主の状況】
- 出前館 有価証券報告書(2020年8月期)【沿革】【関係会社の状況】【事業等のリスク】【株式等の状況】【大株主の状況】【経営上の重要な契約等】
- 出前館 有価証券報告書(2021年8月期)【関係会社の状況】【株式等の状況】
- 出前館 有価証券報告書(2022年8月期)【沿革】【株式等の状況】
- 出前館 有価証券報告書(2023年8月期・連結)
- 出前館 有価証券報告書(2025年8月期)【関係会社の状況】
- 週刊東洋経済 2020年2月29日号
- 出前館「中期経営計画策定に関するお知らせ」(2020年10月15日公表)
- 出前館 第25期定時株主総会 株主の皆様からのご質問に対する回答(2024年11月26日開催)
- 出前館 第26期定時株主総会 株主の皆様からのご質問に対する回答(2025年11月27日開催)