1997年10月、慶應義塾大学藤沢キャンパス出身の[1]佐野陽光氏が有限会社コインを設立し[2]、当初はシステムの受託開発事業を手がけた。翌1998年3月には自社サービスとしてキッチン・アット・コイン[3](現在のクックパッド)の提供を始めた。パソコンを通じたインターネット環境から、誰もがレシピの投稿と検索を行える画期的なサービスであり、1999年1月にはサービス名称を現在の『クックパッド』へ変更[4]している。佐野氏自身が一人で開発を手がけていた時期からのスタートであり、日本におけるUGC型サービスの草分けのひとつとなった。インターネット黎明期における個人発の挑戦が、のちの上場企業の原型をかたちづくった。
2002年3月には広告掲載を開始して[5]本格的な収益化に着手し、2004年9月には有料課金サービスである『クックパッド[6] プレミアムサービス』を始めた。同月には有限会社コインからクックパッド株式会社へ組織変更している[7]。2005年4月時点の従業員数は正社員わずか4名と臨時雇用者9[8]名という零細な規模の企業だったが、広告収入と有料会員課金という二つの収益源を整えたことで、のちの急成長を支える事業基盤が整った。小さな編集体制とユーザー投稿によるコンテンツ量産という組み合わせが、資本効率の高いインターネット型事業モデルを成立させた。以後10年間の爆発的な成長に向けた助走期間である。
2008年、クックパッドは自社システムをアドビ・コールドフュージョンから、当時注目を集めていた新しいウェブ開発フレームワークであるRuby on Railsへ全面的に移行した。Ruby on Railsの公式サイトでも、世界でも指折りのRails製サイトの一つとして紹介されるほどの規模で、国内のエンジニア界隈からも関心を集める事例となった。同年11月にはNTTドコモ向けのガラケー用コンテンツ[9]としてサービスの提供を始め、翌2009年にはauおよびソフトバンク向けに『モバれぴ』[10]と名付けた専用サービスを開始した。ガラケーという当時の日本市場に固有の端末環境へ早期に対応した点が、その後の有料課金収入の拡大に直結した。
キャリア決済という手軽な決済手段がレシピサイトの有料課金収入を押し上げ、その勢いに乗って2009年7月には東証マザーズへ株式上場を果たした[11]。ユーザーが投稿したレシピの蓄積量がそのまま検索精度とSEO上の優位性に直結するUGC型モデルの強みで、クックパッドはレシピ検索分野で寡占的な地位を築いた。佐野氏は上場時に、毎日の料理を楽しくすることが同社の役目であるとサービス思想を端的に示した。投稿数が増えるほど検索体験が良くなり、良くなるほど新たな投稿と検索が集まる正のフィードバックが働き、他社が後発で追いつきにくい構造となった。上場によって資金調達の選択肢が広がり、以降の多角化と海外買収の原資が確保された。
2012年5月、創業者の佐野氏が代表執行役を退任し[12]、価格比較サイトを運営するカカクコムの元社長であった穐田誉輝氏[13]が新たに代表執行役社長に就任した。佐野氏自身は筆頭株主であり取締役の立場で経営に関与[14]し続けた。2013年10月にはパーソナル教室の予約仲介サービスを展開するコーチ・ユナイテッド社をおよそ10億円で買収した[15]。本業以外への資本配分の比重が高まる時期であり、インターネット料理事業の先にあるライフスタイル全般の接点拡大をねらう布石が打たれた。
2014年1月には、海外のレシピサービスの買収を集中的に実施し、北米のオール・ザ・クックスをおよそ5億3000万円、スペインのイティス・シグロ21を11億1000万円で取得した。[16][17]続く2015年1月には、アラビア語圏のネットシリア社をおよそ16億円で取得した[18]。2015年8月には結婚情報サービスのみんなのウェディング[19]を子会社化し、のれん残高はおよそ20億5000万円に達した[20]。同年12月期には年間売上高100億円を突破し[21]、翌2016年12月期には東証上場以来7期連続の増収を達成[22]する高成長となった。同じ時期に取得した海外のレシピ事業群の統合運営には難しさもあったが、株価は高水準を維持し、日本のインターネット業界を代表する成長銘柄となった。
2016年3月、議決権のおよそ43.6[23]パーセントを握っていた創業者の佐野氏と当時の穐田誉輝社長との間で、経営方針をめぐる対立が表面化した。取締役会において穐田氏は代表執行役(社長)を解任され[24]、クックパッドは創業者である佐野氏の意向を軸とする経営体制へと移行した。経営権をめぐる対立が株主提案という形で表面化したことは社内外に衝撃を与え、大口投資家のひとつであったひふみ投信は紛争発覚とともにクックパッドの全株式を売却する判断を下した。市場からの信頼が揺らぐ結果となった象徴的な事件である。上場企業における創業者の影響力の大きさと難しさが露呈した場面でもあった。
さらに同年12月には、みんなのウェディングとの資本業務提携も解消[25]され、取締役最高技術責任者を務めていた舘野祐一氏もクックパッドを退職した[26]。技術部門のテックブログの年間投稿数は過去最高となる147件を記録し、Rubyエンジニアにとっての梁山泊とまで評される技術組織だったが、経営混乱とともに有力な人材の流出に直面した。上場企業でありながら43パーセントを超える議決権を単独で保有する創業者[27]という存在が、同社におけるコーポレートガバナンスの構造的な脆弱性を露呈させた。株主総会でのチェック機能が働かないという課題が、この時期に業界内へ共有された。
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|---|---|---|---|---|
| 1997〜2009年レシピプラットフォームの創出と本格的な収益化 | コインを設立 | ★ | ||
| クックパッドの創業とレシピ投稿サービスの段階的な収益化 レシピを無料で集めて規模をつくり、広告と有料会員で段階的に回収する料理特化の収益モデルを確立した創業期の設計 詳細を読む | ★★★ | |||
| サービス名称をkitchen@coinからクックパッドに変更 | ★ | |||
| 広告掲載を開始(クックパッド収益化) | ★ | |||
| 有料課金を開始(クックパッドプレミアムサービス) | ★ | |||
| クックパッドを設立 | ★ | |||
| 期末時点の従業員数4名 | ★ | |||
| 佐野陽光 | システムを全面改修。Ruby on Railsを採用 | ★ | ||
| 佐野陽光 | 大手携帯キャリアへのサービス提供を開始 | ★ | ||
| 佐野陽光 | 東京証券取引所マザーズに株式上場 | ★ | ||
| 2010〜2016年穐田誉輝氏在任中の成長と経営統治の揺らぎ | 穐田誉輝 | 穐田誉輝体制での多角化と海外レシピ買収 2012年5月、社外取締役だった穐田誉輝氏が創業者・佐野陽光氏に代わり社長に就き、国内料理レシピへの依存を『一本足打法』と捉えて多角化した経営判断。習い事・海外レシピ・結婚・求人へ相次いで買収と出資を重ね、約2年でM&Aと大型出資に総額およそ90億円を投じて、生活領域全般のプラットフォーム化をめざした。 詳細を読む | ★★★ | |
| 穐田誉輝 | コーチユナイテッドを買収 | ★ | ||
| 穐田誉輝 | ALLTHECOOKS, LLCを買収 | ★★ | ||
| 穐田誉輝 | Netsilia S.A.L.を買収 | ★ | ||
| 穐田誉輝 | みんなのウェディングを子会社化 | ★ | ||
| 岩田林平 | 創業者による経営権の奪還(穐田誉輝社長の更迭) 2016年、議決権の43.581%を握る創業者・佐野陽光氏が、株主提案と委任状争奪戦を背景に、多角化を進めた穐田誉輝氏を代表執行役(社長)の座から退けた経営権の奪還。3月24日の株主総会で佐野側が取締役の過半を占め、総会後の取締役会で社長の首がすげ替えられた。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 岩田林平 | みんなのウェディングとの資本業務提携を解消 | ★ | ||
| 2017〜2023年動画レシピサービスの台頭と業績の落ち込み | 岩田林平 | 「レシピ集中」への方針転換と食領域の新規事業への再投資 2016年の"お家騒動"で創業者・佐野陽光氏が前社長・穐田誉輝氏を退けたのち、岩田林平社長の下でクックパッドは『レシピへの集中化』を新方針に掲げた。穐田体制が買い集めた結婚情報や海外レシピの各社を売却する一方、動画・生鮮EC・スマートキッチンといった食領域の新規事業へ再投資した経営判断。 詳細を読む | ★★★ | |
| 岩田林平 | 年間30億円の減益 | ★ | ||
| 岩田林平 | 動画レシピ台頭による凋落と縮小均衡への転換 2016年前後に台頭したスマホの短尺動画レシピにテキスト投稿型のクックパッドが出遅れ、有料会員と売上が縮むなか、希望退職と6事業廃止で費用を削り、規模を追わず縮小均衡へ転じた経営判断。2023年10月には創業者・佐野陽光氏が11年ぶりに社長へ復帰し、2024年に黒字へ戻したが売上は58億円まで縮んだ。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 岩田林平 | 営業赤字に転落 | ★★ | ||
| 岩田林平 | 2期連続の営業赤字に転落。40名の希望退職者を募集 | ★★ | ||
| 佐野陽光 | 3期連続の営業赤字に転落。1年でが減少 | ★ |
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事実根拠:出所(クックパッド)