クックパッド「レシピ集中」への方針転換と食領域の新規事業への再投資
- 概要
- 2016年の"お家騒動"で創業者・佐野陽光氏が前社長・穐田誉輝氏を退けたのち、岩田林平社長の下でクックパッドは『レシピへの集中化』を新方針に掲げた。穐田体制が買い集めた結婚情報や海外レシピの各社を売却する一方、動画・生鮮EC・スマートキッチンといった食領域の新規事業へ再投資した経営判断。
- 背景
- 穐田誉輝氏は2012年の社長就任後、みんなのウェディングの子会社化や海外レシピサイトの買収を重ねて業容を広げた。だが2016年3月、議決権約43.6%を握る創業者の佐野陽光氏が株主提案で穐田氏を退け、多角化路線そのものが否定された。同じ時期、テキスト投稿型のレシピは動画勢の台頭で陳腐化し始めていた。
- 内容
- 岩田林平社長は2017年3月の株主総会で『今後約10年は投資フェーズ』との見方を示し、買収各社を次々に売却しながら本業へ資源を戻した。2017年12月に流通向け動画『cookpad storeTV』、2018年9月に生鮮EC『クックパッドマート』を投入。storeTV子会社は三菱商事を引受先に約40億円の増資を実施した。
- 含意
- 事業領域を料理・食へ狭める判断は、多角化のリスクを断つ一方で、動画勢との競争と重い先行投資に縮小均衡の芽を残した。生鮮ECは赤字が続き、売上は縮小を続けた。2023年には人員削減と本業回帰の縮小均衡へと連なり、佐野陽光氏が11年ぶりに社長へ復帰した。
筆者の見解
筆者見解
この転換は、多角化のリスクを断つという意味では筋が通っていたとみることができる。穐田体制の広げた結婚情報や海外レシピの事業は、料理という本業との距離が遠く、統合の負担も小さくなかった。それらを売り払い、食という一つの領域へ資源を集めた判断は、創業者の一貫した主張とも重なっていた。ただ、集中の先で選んだ動画・生鮮EC・スマートキッチンは、いずれも先行投資が重く回収に時間を要する事業で、本業が細るなかで支え続ける原資は乏しかったとみられる。
結果として、集中化は失った成長を取り戻す道ではなく、残った本業を守る守勢の入り口になった側面がうかがえる。動画で先行したクラシルなどが規模でクックパッドを追い抜き、賭けた新事業が柱へ育つ前に会社は人員半減の縮小へ向かった。領域を狭める判断そのものより、狭めた先で何に賭け、どこまで投資を続けるかの見極めが、その後の明暗を分けたとみることができる。集中と投資のあいだの均衡をどう取るかは、いまなお同社に残された課題といえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
- クックパッド 有価証券報告書(2016年12月期・連結)
- クックパッド 有価証券報告書(2017年12月期・連結)
- クックパッド 有価証券報告書(2018年12月期・連結)