出前館配達代行「シェアリングデリバリー」の開始と、注文取次から配達までへの事業範囲の拡大
毎期黒字の取次モデルを守るか、赤字を抱えて配送網を自ら築くか——夢の街創造委員会が選んだ事業の範囲
- 概要
- 2016年8月、夢の街創造委員会が、加盟店に代わって出前を配達する「シェアリングデリバリー」を始めた経営判断。宅配機能を持たない飲食店の注文を、地域ごとに置いた拠点のバイクと配達員が運ぶ仕組みで、注文を取り次ぐだけだった収益構造を配達工程まで広げた。中村利江社長の主導による。
- 背景
- 2000年10月の「出前館」開設以来、収入は加盟店から受け取る注文金額に応じた手数料とサイト上の広告で、2006年8月期から2015年8月期まで毎期2億円台から5億円の経常黒字を保った。一方で会員1人当りの注文数は伸びず、2010年8月期の流通金額は食品宅配市場全体の約1%にとどまっていた。
- 内容
- 地域内の複数店舗の出前配達を1つの拠点に集約して請け負う。最初の提携先は新聞販売店で、2016年12月に朝日新聞社と業務提携し、2017年3月に朝日新聞の販売店ASAで拠点を開いた。1拠点がカバーする配達エリアは半径2キロまでを目安とした。
- 含意
- 拠点数は2020年8月期末に384まで増え、配達代行手数料は同期の連結売上高の22.6%を占めた。一方で営業損益は2019年8月期に赤字へ転じ、2020年8月期の営業損失は2,623,102千円に達した。2016年9月に日本へ上陸したウーバーイーツとの競争も同時に始まった。
取り次ぐ会社が、運ぶ会社になるということ
2010年の中期経営計画が自ら記した、流通金額約160億円・食品宅配市場全体の約1%という数字は、営業努力の不足ではなく、取り次ぐだけという事業の形が抱えていた限界を指していたとみられる。配達手段を持たない店は加盟しようがなく、加盟店が運べる量がそのまま取次の上限になる。中村氏がシェアリングデリバリーで動かしたのは加盟店の数ではなく、その上限そのものであった。毎期黒字の商売を手放してまで着手した理由は、そこに求められる。
その後の数字は素直ではない。営業損失は2019年8月期の39,194千円から2020年8月期には2,623,102千円へ広がり、拠点を増やすほど費用が先に出る関係は残った。中村氏が2018年に語った半径2キロの地域インフラ——ドラッグストアやスーパーの商品配達、介護関連の手伝いまでを含む像も、2020年8月期の時点では飲食の配達にとどまっている。転換の当否は、配送1件あたりの採算がどこで立つかにかかっているとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
取り次ぐだけで利益が出ていた16年
夢の街創造委員会がデリバリー総合サイト「出前館」を開いたのは2000年10月であった。利用者がサイトで店とメニューを選ぶと、注文情報はファックスで加盟店へ送られ、直後に自動確認電話がかかる。同社が受け取るのは注文金額に応じた手数料と基本掲載料・初期加盟料、それにサイト上のバナー広告やメール広告の収入であり、料理を運ぶ工程は加盟店の側に残していた[1][2]。
この形は手離れがよく、利益も安定していた。2006年8月期から2015年8月期まで、経常利益は毎期2億円台から5億円の黒字で推移している。決断の年度にあたる2016年8月期も、連結売上高4,154,833千円に対して営業利益572,754千円、経常利益579,045千円を計上した。従業員は連結で160人、提出会社では64人にとどまり、13,656店の加盟店を抱えながら配達要員は一人も置いていなかった[3]。
食品宅配市場の1%という自己認識
成長の鈍りは、同社自身が先に認めていた。2010年10月8日に公表した中期経営計画は「出前館の弱み」という頁を設け、会員数は伸びているのにオーダー数と連動していないこと、会員1人当りの注文数が増えていないこと、店舗が首都圏と近畿圏に集中して地方は大手チェーン以外の加盟が少ないこと、そして大手チェーンの加盟がほぼ完了していることを課題として並べた。伸ばせる先が、加盟店の開拓では見えにくくなっていた[4]。
同じ計画には、2010年8月期の流通金額は約160億円で食品宅配市場全体の約1%程度に過ぎない、と記されている。市場規模は矢野経済研究所の推計で1.6兆円台に達しており、取り込めていない注文のほうが圧倒的に多かった。ただし取り次げる注文は、加盟店が自前で配達できる範囲に縛られる。配達手段を持たない店は、そもそも「出前館」に載せる商品を持たなかった[5][6]。
決断
運ぶ側に回る
2016年8月、夢の街創造委員会は配達代行「シェアリングデリバリー」を始めた。宅配機能を持たない飲食店でも、「出前館」に加盟する複数店舗で配達機能を分け合えば宅配ができる仕組みである。注文が入ると飲食店とシェアデリ拠点の双方に情報が届き、店が指定時間に料理を仕上げ、拠点に所属するバイクと配達員が個人宅へ運ぶ。取り次ぐだけだった会社が、運ぶ側に回った[7][8]。
中村利江社長は後に、この判断をデータの蓄積と結びつけて説明している。2018年6月の対談時点で加盟店は1万6000店以上、流通金額は500億円規模に達しており、デリバリーの状況を解析すると、このエリアには中華が足りない、ここに天丼屋があれば月の売上はこのくらい、といった明確な予測が出せるようになったと中村氏は述べた。どこに配達網を敷けば注文が立つかを、数字で見通せる位置に来ていた[9]。
最初に組んだ相手は新聞販売店
もう一つの根拠は、店の側の事情にあった。人手不足の時代に飲食店が自前で配達を始めるのはリスクが大きい。そこで、ある地域の中で複数の店舗の出前配達を集約して請け負えば成り立つのではないか——中村氏はそう考えたと語っている。取っ掛かりに選んだ相手は新聞販売店であった。2016年12月に朝日新聞社と業務提携し、翌2017年3月に朝日新聞の販売店ASAで最初の拠点を開いている[10][11]。
配達員とバイクを日々動かしている販売店にとって、朝夕の配達の合間は空いている。2018年6月の対談で中村氏は、開始から1年たたないうちに新聞配達より「出前館」の売上が多くなった販売店も出てきたと明かした。1拠点がカバーする配達エリアは半径2キロまでで、その範囲で配送網が成り立てば、ドラッグストアやスーパーの商品配達から介護関連の手伝いまで担えると見ていた。中村氏はこれを第2創業期と呼び、インフラの構築はやっと2割くらいと述べている[12]。
結果
拠点を増やし、黒字を手放す
拠点は緩やかに増えたのち、加速した。2017年8月末で10拠点、2019年2月に100拠点、同年8月に200拠点を突破し、2019年8月期末は215拠点に達した。拠点の新設と配達員の採用は費用を先に生む。2018年8月期に837,299千円あった営業利益は、2019年8月期には39,194千円の営業損失へ転じた。売上高は6,666,183千円と22.7%伸びており、赤字は需要の不足ではなく投資の結果であった[13][14]。
会社はこの赤字を意図したものとして説明している。2018年10月11日に公表した中期経営計画は、シェアリングデリバリーが利用者・飲食店・配送拠点の3者にとって利益になる仕組みだと確信したと述べ、その拡大を重要戦略の一つに掲げた。そのうえで、短期的な利益よりも中長期的な事業規模を重視すべきと考え、積極的な投資を行うと明記している。同計画の2019年8月期の営業利益目標は、前期実績837百万円から100百万円へ切り下げられた[15]。
ウーバーイーツとの競争と2020年8月期
配達を自ら抱えると決めた翌月、競争相手が海を渡ってきた。2016年9月に米国から日本に上陸したウーバーイーツは、アプリ上で飲食店と個人事業主の配送員を直接結ぶ仕組みで、2020年2月初旬の提携店舗は1万7000店を超えた。出前館の提携店舗は2020年1月末で2万1000を超え、なお国内最大手であったが、中村氏は新規参入も増えて競争が激しく、早急に利用者を確保しなければならないと語っている[16]。
規模を優先する構えは、そのまま数字に出た。中村氏は4〜5年後に提携店舗5万以上、1000万人以上の利用者確保を目指すとし、2020年8月期に15億円の営業損失を見込むと説明していた。実績はそれを上回る。同期の連結売上高10,306,463千円のうち配達代行手数料は2,324,379千円と前期の7.1倍に膨らみ、構成比22.6%を占めた。拠点は384、加盟店は約3.3万店。営業損失は2,623,102千円であった[17][18]。
- Reed : Kansai University newsletter 2018年6月号(関西大学)「Tops Interview 挑み続ける生き方 対談 中村利江・芝井敬司学長」
- 週刊東洋経済 2020年2月29日号
- 夢の街創造委員会 中期経営計画(2010年10月8日公表)
- 夢の街創造委員会 中期経営計画(2018年10月11日公表)
- 夢の街創造委員会 有価証券報告書(2016年8月期)
- 夢の街創造委員会 有価証券報告書(2017年8月期)
- 出前館 有価証券報告書(2019年8月期)
- 出前館 有価証券報告書(2020年8月期)