資本提携と政策保有
戦後の日本企業は、生産技術の多くを外国企業から導入した。完成品を大量に輸入するだけの外貨はなく、国内で生産するには技術の導入に依存するほかなかった。自力で開発する資金も時間もなく、量産実績のある技術を取得するほうが早い。しかし特許の使用許諾だけでは、材料の配合も工程の管理も伝わらない。技術を供与する企業は、指導に人員を割き、品質にも責任を負う。その対価は使用料だけでは足りず、供与先への出資で支払われる場合が多かった。つまり出資比率は技術の対価であり、提携先の発言力でもあった。パナソニックはフィリップスと対等の条件を交渉し、デンソーはボッシュに品質基準を学び、アズビルは米ハネウエルと50対50の折半出資で工業計器へ参入した。
国内では別の理由から株式の保有関係が築かれた。高度成長期の企業集団では、部品を購入する会社と供給する会社、融資する銀行と借り入れる企業が互いの株主になった。持ち合った株式は売却しない前提で保有され、取引は安定し、外部から買い集められる株式も減少した。株価が上がれば取得価格を上回る評価益である含み益が信用を補い、下がっても売却しないかぎり決算には現れない。株式は資金の調達手段であると同時に、取引関係を固定する担保でもあった。
ところが技術提携の出資と国内の持ち合いは、それぞれ別の理由で保有の根拠を失った。自社で開発できるようになれば、提携先への出資を続ける根拠は薄れる。資産価格が下落すると、持ち合いの含み益を保有の理由に挙げる説明も成り立たなくなった。アズビルは自己株式の取得で49年続いた提携を終え、マツダは36年に及んだフォードとの資本関係を解消している。
2015年以降、取引関係の維持を目的に保有する政策保有株式は、保有目的と検証結果の開示を求められている。取引先の株式を保有する理由を、取引の維持ではなく資本の運用として説明しなければならない。保有を続けるなら、同じ資金を設備や研究開発へ投じる案と比較した結論を示す必要がある。東京海上HDは2029年度末までに上場株式の残高をなくすと決め、ヤマハはヤマハ発動機株1,800万株を売却して自己株式の取得に充てた。
持ち合いの時代、それらの株式に投じた資金は関係の維持に固定され、帳簿上は動かなかった。同じ資金が、現在は株主還元に回っている。
財務諸表のどこを見るか
見るのは「株式の保有状況」である。純投資目的以外の投資株式について、銘柄数と貸借対照表計上額の合計、個別銘柄の株式数の増減、保有目的と定量的な保有効果、取締役会の検証結果が書かれる。合計額を純資産で割れば、資本のどれだけが取引関係の維持に使われているかが出る。売却が進めば特別利益の投資有価証券売却益が立ち、包括利益のその他有価証券評価差額金は縮む。提携は関係会社の状況で持分比率と持分法適用の別を確かめる。