大王製紙創業家との資本関係の解消と、北越紀州製紙を介した関連会社等株式の取得

創業家が手放さない関連会社株を、どうグループへ戻すか——同業を挟んだ資本の組み替え

時期 2012年6月
意思決定者(推定) 取締役会・佐光正義 大王製紙 社長
論点 創業家支配の解消とグループ資本構成の再編
概要
2011年度の第2四半期に判明した元会長への貸付金問題を受け、大王製紙が創業家との資本関係を解消し、2012年6月26日の取締役会決議に基づいて同年8月15日付で北越紀州製紙から関連会社等株式を取得した経営判断。創業家に代わって北越紀州製紙が19.59%を持つ筆頭株主となった。
背景
2011年9月30日時点の連結子会社37社のうち、大王製紙が直接・間接に議決権の過半を持つのは5社にとどまり、残る32社は創業家とファミリー企業が保有していた。貸付金問題を機に創業家一族が財務諸表等規則の「緊密な者」「同意している者」の要件を外れると、連結子会社は37社から8社へ減った。
内容
創業家が株式売却の意図がない旨を書面で回答したため、北越紀州製紙が創業家保有の大王製紙株と関連会社等株式をいったん買い取り、そのうち関連会社等株式を大王製紙が譲り受けた。被取得企業は29社、取得価額は第三者価値算定機関の評価の範囲内で合意し、非公開とされた。
含意
再発防止策は連結子会社の株主構成の再編と社外取締役の招聘という構造に向けられ、2013年2月には持分法非適用関連会社を非関連会社化する方針が決まった。一方で筆頭株主の座は同業他社へ移り、大王製紙は新たな大株主と向き合う関係を抱えた。
筆者の見解

支配を決算の外へ出すために払ったもの

創業家から関連会社株を直接買い取るという最短の道は、2012年3月14日の書面回答で閉ざされた。大王製紙が選んだのは、同業の北越紀州製紙にいったん創業家の持株を引き取らせ、そこから関連会社等株式だけを買い戻すという回り道である。連結子会社37社のうち自社で議決権の過半を持つのは5社という状態を解くには、創業家に売却先を用意するほかなかったとみられる。資本の出し手を替えることでしか、連結の範囲は決算の内側へ戻せなかった。

2013年3月末の大株主には愛媛製紙・カミ商事・大王海運といった創業家に連なる会社が並び、持分法非適用関連会社を非関連会社化する方針が固まったのは取引の半年後であった。筆頭株主となった北越紀州製紙も、同じ2013年2月に特別調査委員会の設置を求めている。支配を決算の外へ出す代わりに、大王製紙は同業の大株主と向き合う関係を抱え込んだとみることができる。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

連結子会社37社のうち、過半を握っていたのは創業家であった

2011年9月30日の時点で、大王製紙の連結子会社は37社を数えた。ところが、そのうち大王製紙自身が直接・間接に議決権の過半を持っていたのは5社にすぎず、残る32社は創業家と、創業家が株式を保有するファミリー企業が過半を握っていた。連結の根拠は持株比率ではなく、創業家が会社と同じ内容の議決権を行使する者にあたるという関係に置かれていた[1]

その関係が崩れたのは、2011年度の第2四半期であった。大王製紙は、代表取締役会長(当時)への貸付金問題が判明したことを公表した。貸付を行っていたのは連結子会社7社で、2012年3月期末時点の貸付金残高は53億3,700万円、うち元会長に対するものが49億7,700万円、エリエール商工に対するものが3億6,000万円であった。これに対し37億2,000万円の貸倒引当金が積まれた[2]

連結の範囲が37社から8社へ動いた

貸付金問題が明るみに出たことで、創業家一族は財務諸表等規則にいう「緊密な者」および「同意している者」の要件を満たさなくなった。判定が変わった第3四半期に、前期末には37社あった連結子会社は8社まで減り、23社が持分法適用関連会社へ移り、5社が連結の範囲から外れた。創業家の意思を通じて成り立っていた連結が、その裏づけを失って一挙に縮んだ[3]

連結の範囲が動いた影響は、決算の数字に直に出た。2012年3月期の連結従業員数は前期の7,465人から5,182人へ減り、売上高4,089億円に対して営業利益は104億円と21.6%の減益、当期純損失は53億円となった。加えて大王製紙は、過年度の有価証券報告書と四半期報告書を金融商品取引法に基づいて訂正し、東京証券取引所へ2011年12月29日付で改善報告書を提出した[4][5]

決断

買い戻しの要請と、創業家の拒否

連結から外れた会社を取り戻す作業は、株式の買い戻しから始まった。2012年2月、大王製紙は持分法適用関連会社などから株式を譲り受け、連結子会社を8社から19社へ戻している。しかし核心にあたる創業家・ファミリー企業保有の関連会社株については、買取の要請に対して2012年3月14日、大王製紙への売却の意図がない旨の書面回答が返ってきた[6]

回答を受けた大王製紙は、連結子会社19社を軸とする企業グループ体制を前提にガバナンス体制を組み直し、今後の事業計画の骨子を策定した。ただし有価証券報告書は、企業価値を最大化しコーポレートガバナンスを最も効果的に統制できる理想の姿は関連会社の連結子会社化であったと記している。19社体制は当座の妥協であり、創業家の持株が動かないかぎり解けない問題が残っていた[7]

同業を挟んで買い戻す組み立て

打開の方法は、創業家から直接買うのをやめ、第三者を挟む形で組まれた。2012年6月26日の取締役会は北越紀州製紙との株式譲渡契約の締結を決議し、同日付で契約を結んでいる。北越紀州製紙がまず創業家保有の大王製紙株と関連会社等株式を買い取り、そのうち関連会社等株式を大王製紙が譲り受ける組み立てである。ただし大王製紙株の8.4%の議決権を持つ大王商工は対象から除かれた[8]

関連会社等株式の取得価額は、第三者価値算定機関がDCF法と株価倍率法で示した分析結果の範囲内で合意し、取引の前提条件として非公開とされた。取得は2012年8月15日付で実行され、被取得企業は29社にのぼる。6月末に19社であった連結子会社は24社を加えて43社となり、北越紀州製紙は発行済株式の19.6%、議決権の22.1%を持つ主要株主となった[9][10]

結果

連結の回復と、資本の出し手の交代

連結の姿が戻ったことは、2013年3月期の数字に表れた。売上高は4,073億円と前期からほぼ横ばいであったが、営業利益は115億円、経常利益は66億円へ増え、当期純利益は151億円と黒字に転じている。黒字化を押し上げたのは本業ではなく、関連会社を子会社化したことで生じた段階取得に係る差益194億円であった。連結従業員数も5,182人から7,348人へ戻った[11]

株主構成の側では、資本の出し手が入れ替わった。2013年3月31日現在の大株主は、北越紀州製紙が2,528万株・19.59%で筆頭に立ち、同社は前事業年度末に主要株主ではなかったと注記されている。一方、愛媛製紙4.13%、カミ商事3.64%、大王海運3.57%と、創業家に連なる会社は上位株主として残った。創業家の影響が株主名簿から消えたわけではない[12]

再発防止策が向かった先

再発防止策の中身は、人の入れ替えよりも構造の組み替えに寄っていた。東京証券取引所へ提出した改善報告書に沿って掲げられた8項目には、「役職員の意識改革及び連結子会社の株主構成の再編」と「取締役間の相互監視機能の強化 ― 社外取締役の招聘」が並ぶ。2012年6月28日の定時株主総会では社外取締役2名が選任され、翌2013年1月28日には改善状況報告書が東証へ提出された[13][14]

残された関連会社の扱いも、2013年2月28日に定まった。持分法非適用の関連会社については、原則として資本関係を解消し、役員派遣も中止して非関連会社化するという方針である。同じ2013年2月、北越紀州製紙は川崎紙運輸による北越紀州製紙株式の買付けなど3点について特別調査委員会の設置を要請した。二つの外部委員会が企業統治改革委員会の委嘱を受けて検証し、買付けに違法性のないことを確認した[15][16]

出典・参考
  • 大王製紙 有価証券報告書(2012年3月期・連結)
  • 大王製紙 有価証券報告書(2013年3月期・連結)

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