MS&ADインシュアランスグループホールディングス企業保険の保険料調整行為:独占禁止法違反の処分を受けた損保2社の再発防止と政策株式の放棄
更新:
- 概要
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2023年12月、傘下の三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険が、企業保険分野における保険料調整行為に関して金融庁から保険業法に基づく業務改善命令を受けた。両社は経営責任の明確化のための役員報酬の減額を含む業務改善計画を策定し、金融庁へ提出している。同じ月には、独占禁止法違反の疑いがあるとして公正取引委員会の立入検査も受けた。
2024年10月には公正取引委員会から排除措置命令及び課徴金納付命令を受け、2025年3月期の課徴金支払額は13億91百万円となった。
- 背景
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複数の損害保険会社が共同で引き受ける企業向けの保険で、保険料の水準をめぐるやり取りが行われていた。独占禁止法に抵触すると考えられる行為、および同法の趣旨に照らして不適切な行為が発生したという位置づけである。
要因の一つに挙げられたのが政策株式だった。総合的な取引関係の維持・強化を目的として長期保有を前提に持ち続けてきた株式が、損害保険業界の適正な競争環境を損なう誘因になっていたという認識に立つ。
- 内容
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再発防止では、同業他社に対するメールのモニタリングなど営業部門への注意喚起、リスクの予兆検知や第1線のコンプライアンスの実態把握といった第2線の機能強化、独占禁止法を踏まえた社員の行動ルールの明確化とマニュアルの整備、そしてお客さま第一の業務運営を通じて収益性を確保する考え方に則った営業部門の評価基準の見直しを掲げた。
2024年度からは社外の有識者も出席するグループリスク対策会議を新設し、必要と判断した事項を取締役会とグループ経営会議へ直接報告する経路を設けている。
- 含意
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突かれたのは個別の行為だけではなく、株式を持ち合うことで取引関係を支えてきた損害保険業の慣行そのものだった。上場の政策株式は2030年3月末までに保有をゼロとする方針が定まり、2024年3月末に619あった三井住友海上の上場保有銘柄のうち214銘柄は1年のうちに全株が売却されている。削減簿価は492億円にのぼる。
保険料調整行為等の不適切事案の発生を受けて改正された保険業法は、2026年6月に施行された。
処分が解いた持ち合いの結び目
この処分を保険会社の法令違反としてだけ読むと、話の半分が落ちる。会社が調整行為の要因の一つに挙げたのは政策株式であり、取引先の株式を持つことで保険の引受けを確保するという商慣行そのものが問われた。株式を持ち合う相手との間では、価格で競い合う動機が働きにくい。だからこそ是正の要は行動ルールの整備ではなく、上場の政策株式を2030年3月末までにゼロにするという資産側の決断に置かれたのだとみられる。行政処分が、長く手をつけられなかった持ち合いの結び目を外から解いた形である。
もっとも、株式を手放せば競争が健全になるとは限らない。企業向けの保険は複数社が共同で引き受ける仕組みが残り、同じ案件で顔を合わせる関係は変わらない。会社が再発防止に挙げた項目のうち、営業部門の評価基準の見直しが最も重いのはそのためだろう。収益性を問わずに契約を取る評価が残れば、価格の底が抜けるか、あるいは元の調整へ引き戻される。処分から3年目にあたる2026年6月には改正保険業法が施行され、競争のルール自体が書き換えられた。持ち合いを解いた後にどのような競争を作るのかは、これからの実務が答えを出す。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 行政処分 | 2023年12月 | 金融庁が三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保に保険業法に基づく業務改善命令を発出 |
| 処分の対象となった行為 | 企業保険分野における保険料調整行為 | 独占禁止法に抵触すると考えられる行為及び同法の趣旨に照らして不適切な行為 |
| 業務改善計画 | 策定し金融庁へ提出 | 経営責任の明確化のための役員報酬の減額を含む |
| 公正取引委員会の立入検査 | 2023年12月 | 独占禁止法違反の疑いがあるとして両社が受けた |
| 排除措置命令と課徴金納付命令 | 2024年10月 | 公正取引委員会が三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保の両社へ発出した |
| 課徴金支払額 | 1,391百万円 | 2025年3月期のその他の経常費用に含む。両社の合計額 |
| 政策株式の方針 | 保有しない | 政策株式の保有が保険料等の調整行為を生じさせた要因の一つであるとの認識に至った |
| 上場政策株式の削減期限 | 2030年3月末 | 損害保険業界の適正な競争環境確保のため、保有をゼロとする |
| 削減の初年度実績 | 214銘柄・492億円 | 三井住友海上の2024年3月末の上場619銘柄のうち1年で全株を売却した分 |
| リスク管理体制 | グループリスク対策会議の新設 | 2024年度より。社外の有識者も出席し、必要な事項は取締役会へ直接報告する |
| グループ重要リスクの区分 | 2つへ分割 | 法令等違反行為・重大な労務問題等と、ステークホルダー視点の欠如・コンダクトリスク等 |
| 第1線・第2線の管理 | メールの監視と機能強化 | 同業他社に対するメールのモニタリング、リスクの予兆検知、第1線の実態把握 |
| 行動ルール | 明確化とマニュアルの整備 | 独占禁止法を踏まえた社員の行動ルールを定めた |
| 営業部門の評価基準 | 見直し | お客さま第一の業務運営を通じて収益性を確保する考え方に則って改めた |
| 情報漏えい事案の処分 | 2025年3月 | 保険代理店を通じた保険会社間の情報漏えいで、両社が保険業法に基づく業務改善命令 |
| 改正保険業法の施行 | 2026年6月 | 保険料調整行為等の不適切事案の発生を受けて改正された |
出所:MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書 第16期(2024年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】【事業等のリスク】・第17期(2025年3月期)【同】【株式の保有状況】【連結財務諸表注記】
MS&ADインシュアランスグループホールディングス:上場政策株式の保有銘柄数
| (銘柄) | 三井住友海上 | あいおいニッセイ同和損保 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2019年3月期 | 766 | 595 | 保有目的が純投資目的以外である投資株式のうち、非上場株式以外の株式の銘柄数 |
| 2020年3月期 | 752 | 582 | |
| 2021年3月期 | 736 | 575 | |
| 2022年3月期 | 706 | 559 | |
| 2023年3月期 | 667 | 538 | この期から政策株式の内訳が併記され、計上額の大半が政策株式と示された |
| 2024年3月期 | 624 | 523 | 2023年12月に業務改善命令。保有総額を縮減する方針から保有しない方針へ転じた |
| 2025年3月期 | 410 | 380 | 削減が本格化した最初の期。三井住友海上は1年で214銘柄の全株を売却した |
| 2026年3月期 | 249 | 296 | |
| 2027年3月期 | − | − | 第19期は未到来 |
| 2028年3月期 | − | − | 第20期は未到来 |
| 2029年3月期 | − | − | 第21期は未到来。上場の政策株式は2030年3月末までに保有をゼロとする方針 |
出所:MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書 第11期〜第18期【株式の保有状況】
同じ問いに直面した会社
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書「第16期(2024年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書「第16期(2024年3月期)【事業等のリスク】」
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書「第17期(2025年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書「第17期(2025年3月期)【連結財務諸表注記・その他の経常費用】」
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書「第11期〜第18期【株式の保有状況】」
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス 決算説明会 質疑応答要旨「2024年度第2回インフォメーションミーティング(2024年11月26日)」
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス 有価証券報告書「第18期(2026年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」