特別調査委員会の設置と社長辞任(2023年・タムロンの決断)

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論点社長の支出を誰が監視するか
タムロン:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
社長の交代と、社外取締役が過半数の取締役会による経費監視

何をなぜ決めたか:社長の交代と、社外取締役が過半数の取締役会による経費監視

概要

2023年8月22日、タムロンの取締役会は鯵坂司郎氏から出された代表取締役と取締役の辞任の申し出を受理し、取締役副社長だった桜庭省吾氏を後任の社長に選んだ。辞任の理由は、鯵坂司郎氏が少なくとも過去5年間、月に複数回、特定の飲食店での飲食費を会社に負担させていたことである。同じ取締役会で、外部の弁護士と独立社外取締役による特別調査委員会の設置も決めた。

調査報告書は2023年11月2日に公表された。私的な飲食費の会社負担は鯵坂司郎氏にとどまらず、前任の社長である小野守男氏にも及んでいた。会社は11月21日の取締役会で、再発防止策の策定、現経営陣の報酬減額、元役員への損害賠償請求の方針を決めた。

背景

タムロンの社長は社内から選ばれてきた。小野守男氏は2002年3月から2016年3月まで社長を務め、退任後も2018年12月まで相談役として会社に残った。後任の鯵坂司郎氏は2010年3月に取締役となり、2016年3月から社長を務めた。桜庭省吾氏も1981年4月に入社し、光学開発本部長を経て2016年3月に取締役副社長となった。

社長の飲食費は、秘書室が管理する役員室の経費として処理されていた。2015〜2019年の役員室の交際費は年56.7〜90.3百万円で、役員室を除く全社の交際費(年4.1〜12.5百万円)のおよそ5〜14倍にのぼる。それでも役員室経費は、監査計画と内部監査計画の項目から外されていた。

内容

発端は2023年7月9日、内部通報制度の外部窓口に届いた通報である。鯵坂司郎氏が出張に第三者の女性を同伴させ、経費を私的に流用したという内容で、監査役と社外取締役が事実を調べた。支出を管理していた元常務取締役にも関与が疑われ、取締役会は8月22日にその常務取締役の地位を解いた。

特別調査委員会は水野信次弁護士を委員長とし、社外取締役の片桐春美氏(公認会計士)と野宮拓弁護士が委員に入った。調査は2023年8月22日から10月31日まで続いた。単独での飲食費の会社負担は、小野守男氏が2013〜2018年に1,136件・122.9百万円、鯵坂司郎氏が2013〜2023年に316件・26.1百万円と認定された。

含意

2023年11月21日、関与が認められた大塚博司取締役が辞任した。牽制が不十分だったとして、桜庭省吾社長は月額基本報酬を20%、常務取締役3名は10%、いずれも3か月減額した。経理部による役員室経費の事前チェック、接待交際費の上限設定、取締役会への役員室交際費実績の毎月の配布も始めた。

2024年3月27日、会社は監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。取締役12名のうち社外取締役は7名で、過半数を占める。一方、不適切な経費が連結財務諸表に与える影響は軽微として、過年度の決算は訂正していない。元役員への損害賠償請求の結果は、2025年12月期の有価証券報告書まで開示されていない。

いつ何が起きたか12件
当時の取締役10名

当時の取締役(2023年3月株主総会決議)

考察:内から選んだ社長を外から監視する
考察

考察:内から選んだ社長を外から監視する

なぜ社長の辞任と外部の調査を同じ日に決めたのか。不正の当事者は社長本人であり、社内の者が調べても結論は信用されにくい。しかも、支出を管理していた常務取締役にまで関与が疑われていた。取締役会は社長を代えるだけでは足りないと判断し、外部の弁護士が率いる委員会に調査を委ねたと思われる。その結果、前任の小野守男氏の飲食費まで掘り起こされた。問題は1人の社長ではなく、2代続いた経費の仕組みにあったことになる。

もっとも、後任に選んだのも社内の人材である。桜庭省吾氏は1981年に入社し、2016年3月から副社長として取締役会にいた。11月の処分で自らの報酬を20%減額したのは、牽制が働かなかった責任を認めたからである。外部から社長を招く選択肢もあったはずだ。それでも会社は社内の技術者に経営を任せ、監視は社外取締役に担わせる分担を選んだ。この分担が機能するかどうかは、制度の設計より日々の運用で決まるとみられる。

決断から2年あまりの到達点は、次の2つの数字に表れている。社外取締役は2024年3月に取締役12名中7名となり、過半数を占めた。業績も崩れず、2024年12月期の売上高は884億円で過去最高を更新した。経営の混乱が本業に及ばなかったことは、社内から後任を選んだ判断を裏づける。ただし、元役員への損害賠償請求の結果はまだ開示されていない。責任追及の帰結を公表できるかが、再建を締めくくる条件になるだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

数字で見る

図と表

タムロン:交際費の計上額と特別調査関連費用

役員室の交際費(百万円)役員室を除く交際費(百万円)
タムロン:交際費の計上額と特別調査関連費用
(百万円)役員室の交際費役員室を除く交際費特別調査関連費用備考
2018年12月期74.55.3−交際費は社内飲食費が計上される科目。海外子会社役職員との会食は別科目に入る
2019年12月期56.74.1−
2020年12月期23.67.5−会食の機会が減少し、役員室の交際費は前年の半分以下に減少した
2021年12月期17.71.3−
2022年12月期35.44−役員室の交際費は再び増加した。この期の秋以降の会計票が調査で入手できた資料
2023年12月期20.9274交際費は1〜9月の累計。特別調査関連費用74百万円は営業外費用に計上した
2024年12月期−−0交際費の集計は調査報告書の9月までで終わる。関連費用の計上はない
2025年12月期−−0特別調査関連費用の計上はない
出所:特別調査委員会「調査報告書(開示版)」2023年11月1日(第七部 タムロンにおける交際費及び交際費(社外飲食)の使用状況) / タムロン 有価証券報告書 第77期(2023年12月期)〜第79期(2025年12月期)【連結損益計算書】営業外費用
出所:特別調査委員会「調査報告書(開示版)」2023年11月1日(第七部 タムロンにおける交際費及び交際費(社外飲食)の使用状況) / タムロン 有価証券報告書 第77期(2023年12月期)〜第79期(2025年12月期)【連結損益計算書】営業外費用

タムロン:役員の報酬等

取締役(社外取締役を除く)(百万円)社外役員(百万円)
タムロン:役員の報酬等
(百万円)取締役(社外取締役を除く)社外役員備考
2018年12月期47359対象となる役員の員数は取締役15名、社外役員7名
2019年12月期52950対象となる役員の員数は取締役10名、社外役員7名
2020年12月期49148対象となる役員の員数は取締役10名、社外役員5名
2021年12月期51854対象となる役員の員数は取締役9名、社外役員6名
2022年12月期46262対象となる役員の員数は取締役9名、社外役員7名
2023年12月期35265取締役7名、社外役員8名。社長の交代と現経営陣の報酬減額を含む期
2024年12月期31870監査等委員会へ移行。318は監査等委員を除く取締役4名分、社外役員は7名
2025年12月期38567318と同じ区分の取締役4名分。ほかに監査等委員である取締役1名に16百万円
出所:タムロン 有価証券報告書 第72期(2018年12月期)〜第79期(2025年12月期)【役員の報酬等】
出所:タムロン 有価証券報告書 第72期(2018年12月期)〜第79期(2025年12月期)【役員の報酬等】

事案と対応の条件

事案と対応の条件
科目概要備考
事案の性質代表取締役社長らによる会社経費の私的流用単独飲食費とホステスとの同伴飲食費のほか、タクシーチケットの横流しと社用Suicaの再貸与
発覚の端緒内部通報制度の外部窓口への通報2023年7月9日、社長が出張に第三者女性を同伴させ経費を私的に流用した旨の通報があった
対象期間2013年〜2023年損害賠償請求権の消滅時効10年に合わせた。帳票やデータの保存状態でより短い項目もある
関与した組織秘書室が管理する役員室の経費交際費は役員室の計上が全社の大半を占め、監査計画・内部監査計画から除外されていた
影響額単独飲食費 小野氏122.9百万円・鯵坂氏26.1百万円同伴飲食費は小野氏9.2百万円、鯵坂氏3.2百万円、鯵坂・大塚両氏の同席分2.5百万円
調査主体特別調査委員会(委員長 水野信次弁護士)委員は片桐春美社外取締役(公認会計士)と野宮拓弁護士。日弁連ガイドラインの独立性要件
調査期間2023年8月22日〜11月1日委員会を10回開催。虎ノ門有限責任監査法人の会計士6名とKPMG FASが調査を補助した
報告書の公表2023年11月2日に開示版を公表11月1日に受領。プライバシー・個人情報・機密情報保護の観点から部分的な非開示措置
会社が認めた原因社長のモラルハザードと社長領域の聖域化ほかに社内飲食費のルール未策定、予算策定と交際費承認プロセスのチェック体制の不備
責任の取り方代表取締役社長が辞任2023年8月22日付で鯵坂司郎氏が代表取締役および取締役を辞任し、取締役副社長の桜庭省吾氏が就任
関与した取締役の処分取締役1名が辞任2023年11月21日付。調査報告書で関与が認められた大塚博司取締役が辞任を申し出た
現経営陣の処分社長は月額基本報酬を20%減額(3ヶ月)常務取締役3名は10%を3ヶ月減額、常勤監査役2名は10%を1ヶ月自主返納した
再発防止策5項目の策定とガバナンス検討委員会の設置接待費の上限設定と社内飲食費ルールの新規制定、役員室経費への経理部の事前チェック
取締役会の組み替え監査等委員会設置会社へ移行し社外取締役を過半数に2024年3月27日移行。取締役12名のうち社外取締役は7名(うち監査等委員3名)となった
有報の訂正行っていない不適切な経費の使用が連結財務諸表に与える影響は軽微と判断し、過年度の訂正はしない
訴訟(会社から元役員へ)損害賠償請求の方針を決議2023年11月21日、元役員に請求し訴訟提起も視野に入れると決議。その後の進展は未公表
出所:タムロン 有価証券報告書 第77期(2023年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【連結損益計算書】、第78期(2024年12月期)【役員の報酬等】 / 特別調査委員会「調査報告書(開示版)」2023年11月1日 / タムロン「再発防止策の策定、ガバナンス検討委員会の設置および関係者処分並びに元役員等に対する責任追及方針に関するお知らせ」2023年11月21日
出所:タムロン 有価証券報告書 第77期(2023年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【連結損益計算書】、第78期(2024年12月期)【役員の報酬等】 / 特別調査委員会「調査報告書(開示版)」2023年11月1日 / タムロン「再発防止策の策定、ガバナンス検討委員会の設置および関係者処分並びに元役員等に対する責任追及方針に関するお知らせ」2023年11月21日
当時の取締役10名

当時の取締役(2023年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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