三菱電機 長崎製作所の不正と社長辞任 長崎製作所の検査不正発覚と、漆間啓体制での3つの改革
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2021年6月、長崎製作所が製造する鉄道車両用空調装置等の一部で、購入仕様書の記載とは異なる検査の実施や検査の不実施、検査成績書への不適切な記載が判明した。杉山武史社長は7月に引責辞任し、同月28日に事務系出身の専務・漆間啓氏が執行役社長・CEOへ昇格する。
全社レベルの点検と真因究明を委嘱した調査委員会からは2021年10月1日、12月23日、2022年5月25日と報告書を受け取り、そのつど一部の拠点で新たな品質不適切行為が判明した。漆間啓社長は品質改革推進本部の新設とビジネスエリア体制への移行で、縦割りの組織そのものの立て直しに着手した。
- 背景
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調査委員会が示した直接の原因は、「手続き」による品質保証概念の欠如、品質部門の脆弱性、ミドルマネジメント層の疲弊、本社と現場の距離の4項目であった。その背景には拠点単位の内向きな組織風土、独立性の高い事業本部制、経営陣の本気度という3項目があり、いずれも複数の製作所で課題となっていることが具体的な事例をもって示された。長崎製作所ひとつの逸脱ではなく、1921年以来の製作所単位の運営そのものに根があった。過去に実施した全社再点検でも、この不正は確認できていない。
- 内容
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2021年7月に杉山武史氏が社長を退き、漆間啓氏が執行役社長・CEOに就任した。同年10月には社長直轄の品質改革推進本部と、内部統制システムや役員の経営責任を検証する外部専門家のガバナンスレビュー委員会をあわせて設置している。
2022年4月には外部から招聘したCQOの下で共通施策を全拠点・全グループ会社へ広げ、同時に縦割りの事業本部制を、インフラ、インダストリー・モビリティ、ライフ、ビジネスプラットフォームの4つのビジネスエリアを軸とする体制へ移した。役員報酬は2021年4月・5月と2022年1月から3月、さらに2022年4月と同年11月から2023年1月にかけて減額されている。
- 含意
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2022年10月の最終報告で品質不適切行為は累計197件に達し、柵山正樹元会長も課長時代の関与が認定された。2023年4月には関係会社の調査結果も公表し、そこで判明した行為はいずれも契約違反であった。判明した分の点検・交換費用等は各期に計上したものの、今後の影響額は合理的に見積もることが困難として連結財務諸表には反映されなかった。その一方で売上高は2022年3月期の4兆4,767億円から2026年3月期の5兆8,947億円へ伸び、営業利益も2,520億円から4,330億円へ広がっている。
いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
縦割りを廃したのは品質のためだったのか
この決断が突きつけたのは、不正の温床を製作所の現場に求めるか、それを許した本社の構えに求めるかという問いであった。調査委員会が挙げた直接の原因4項目のうち、品質部門の脆弱性もミドルマネジメント層の疲弊も現場の状態を指すが、背景として並べられた3項目は拠点単位の内向きな組織風土、独立性の高い事業本部制、経営陣の本気度である。つまり真因の分析は現場ではなく統治の構造を名指していた。社長交代から3カ月で品質改革推進本部とガバナンスレビュー委員会を同時に置いたのは、その名指しを受けた形をとるためだったと推察される。
もっとも、2022年4月に踏み切った4つのビジネスエリアへの組み替えは、品質問題への対応としてだけ読むには大きすぎる。事業本部の壁を越えた資源配分とポートフォリオの見直しは、不正がなくとも遅かれ早かれ必要だったはずのもので、危機がその実行の口実を用意したと見ることもできる。実際、売上高は2022年3月期の4兆4,767億円から2026年3月期に5兆8,947億円へ伸び、営業利益は2,520億円から4,330億円へ広がった。風土改革が数字に効いたのか、それとも数字の伸びが風土改革の未完を覆ったのか——2025年4月にカルチャー変革室という恒久組織へ引き継がれたこと自体が、まだ終わっていないという自認だと思われる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
経緯と対応
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 不正の判明 | 2021年6月 | 長崎製作所が製造する鉄道車両用空調装置等の一部で判明した |
| 不正の内容 | 購入仕様書と異なる検査の実施 | 検査の不実施、検査成績書への不適切な記載もあわせて行われていた |
| 調査委員会の設置 | 2021年7月2日公表 | 委員長は西村あさひ法律事務所の木目田裕氏。全社レベルの点検と真因究明が目的 |
| 社長の引責辞任 | 2021年7月 | 2018年4月就任の杉山武史氏が退き、28日に専務の漆間啓氏がCEOへ昇格 |
| 調査報告書の受領(第1回) | 2021年10月1日 | 一部の拠点で新たな品質不適切行為が判明し、顧客への報告と協議に入った |
| 調査報告書の受領(第2回) | 2021年12月23日 | 調査は全製作所等へ広がり、報告のたびに対象の拠点が積み上がった |
| 調査報告書の受領(第3回) | 2022年5月25日 | 2022年3月期末の時点でも調査は継続していた |
| 判明した件数 | 197件 | 2022年10月の最終報告時点の累計。調査の進行に伴い積み上がった数 |
| 真因(直接の原因) | 4項目 | 手続きによる品質保証概念の欠如、品質部門の脆弱性、ミドル層の疲弊、本社と現場の距離 |
| 真因(組織風土) | 3項目 | 拠点単位の内向きな組織風土、独立性の高い事業本部制、経営陣の本気度 |
| 顧客への対応 | 状況の報告と協議 | 判明した品質不適切行為に係る点検・交換費用等は各期に計上した |
| 損失の見積り | 合理的な見積りは困難 | 今後の顧客との協議や調査の進捗次第。連結財務諸表には反映していない |
| 役員報酬の減額(第1次) | 2021年4月・5月と2022年1月〜3月 | 取締役・執行役の基本報酬と2021年度の退任慰労金の一部を減額または自主返納 |
| 役員報酬の減額(第2次) | 2022年4月と2022年11月〜2023年1月 | 関係する執行役の基本報酬について、報酬委員会の決定で一部を減額した |
| ガバナンスレビュー委員会 | 2021年10月設置 | 外部専門家で構成。内部統制システムと役員の経営責任の検証を委嘱した |
| 品質改革推進本部 | 2021年10月新設 | 社長直轄。2022年4月に招聘したCQOの下で全拠点・全グループ会社へ展開した |
| 経営体制の移行 | 2022年4月 | インフラ、インダストリー・モビリティ、ライフ、ビジネスプラットフォームの4BA |
| 再発防止の枠組み | 3つの改革 | 品質風土、組織風土、ガバナンス。取締役会の下に3つの改革モニタリング委員会 |
| 関係会社の調査結果 | 2023年4月14日公表 | 判明した行為はいずれも契約違反。牽制機能の強化策を関係会社へ展開する |
| 組織風土改革の恒久化 | 2025年4月 | 3年半続けた全社変革プロジェクトを引き継ぎ、カルチャー変革室を設置した |
出所:三菱電機 有価証券報告書 第151期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【偶発債務】【役員の報酬等】、第152期(2023年3月期)【対処すべき課題等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】、第155期(2026年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】、三菱電機「品質不適切行為に関する調査状況」
連結業績の推移
三菱電機:連結業績の推移
| (百万円) | 売上高 | 営業利益 | 親会社株主に帰属する当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 4,238,666 | − | 210,493 | 米国会計基準。IFRSへの移行日は2017年4月1日で、営業利益は比較していない |
| 2018年3月期 | 4,444,424 | 364,578 | 255,755 | |
| 2019年3月期 | 4,519,921 | 290,477 | 226,648 | |
| 2020年3月期 | 4,462,509 | 259,661 | 221,834 | |
| 2021年3月期 | 4,191,433 | 230,195 | 193,132 | 杉山武史社長の下での最後の通期 |
| 2022年3月期 | 4,476,758 | 252,051 | 203,482 | 6月に不正が判明し7月に社長交代。判明分の点検・交換費用等をこの期に計上 |
| 2023年3月期 | 5,003,694 | 262,352 | 213,908 | 4月にビジネスエリア経営体制へ移行した期 |
| 2024年3月期 | 5,257,914 | 328,525 | 284,949 | |
| 2025年3月期 | 5,521,711 | 391,850 | 324,084 | |
| 2026年3月期 | 5,894,747 | 433,095 | 407,758 | 中期経営計画の売上高5兆円、営業利益率、ROEの目標をいずれも達成した |
出所:三菱電機 有価証券報告書 第146期・第149期・第154期・第155期【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書】
従業員数と平均年間給与の推移
三菱電機:従業員数と平均年間給与の推移
| (人) | 連結従業員数 | 提出会社の従業員数 | 平均年間給与 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 138,700 | 33,977 | 7,957 | |
| 2018年3月期 | 142,340 | 34,561 | 7,924 | |
| 2019年3月期 | 145,817 | 35,203 | 8,169 | |
| 2020年3月期 | 146,518 | 35,649 | 8,069 | |
| 2021年3月期 | 145,653 | 36,162 | 7,963 | |
| 2022年3月期 | 145,696 | 36,700 | 8,067 | 提出会社の平均年間給与は8,067,252円。人員は不正の判明後も減っていない |
| 2023年3月期 | 149,655 | 35,136 | 8,273 | |
| 2024年3月期 | 149,134 | 36,520 | 8,298 | |
| 2025年3月期 | 149,914 | 31,213 | 8,695 | 2024年4月に自動車機器事業を分社化し、提出会社の人員が減った |
| 2026年3月期 | 150,386 | 29,949 | 9,134 | 提出会社の平均年間給与は9,134,603円で、対前事業年度5.1%増 |
出所:三菱電機 有価証券報告書 第146期〜第155期【従業員の状況】
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- 三菱電機 有価証券報告書「第151期(2022年3月期)【事業等のリスク】【偶発債務】」
- 三菱電機 有価証券報告書「第151期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
- 三菱電機 有価証券報告書「第151期・第152期(2022年3月期・2023年3月期)【役員の報酬等】」
- 三菱電機 有価証券報告書「第152期(2023年3月期)【対処すべき課題等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
- 三菱電機 有価証券報告書「第155期(2026年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】」
- 三菱電機 企業公式サイト「品質不適切行為に関する調査状況」