ネクステージの営業インセンティブ全廃と創業者社長の復帰
保険の不適切契約はなぜ生まれたのか——成果連動報酬に踏み込んだ広田靖治会長の判断
更新:
- 概要
- 2023年9月、保険の不適切契約を受けて浜脇浩次社長が辞任し、創業者の広田靖治会長が社長を兼任、営業インセンティブを全廃して報酬を固定給中心へ組み替えた不祥事対応。
- 背景
- 2023年7月のビッグモーター保険金不正請求問題で業界の信頼が揺らぐなか、ネクステージでもタイヤ保証や任意保険契約をめぐる不適切事案が判明し、9月1日に公表した。
- 内容
- 9月11日に浜脇浩次社長が辞任し広田靖治会長が社長を兼任。契約台数や利益に連動する成果連動報酬が不正の温床だと見て全インセンティブを廃止し、固定給中心の報酬で店舗運営を組み替えた。
- 含意
- 中古車販売業界では異例の報酬制度刷新で、成果連動を外した現場でどう売る力を保つかが新たな課題になった。特需の一巡と重なり2023年11月期は減益となり、採算選別の出店へ進んだ。
成果連動の報酬を、どう設計し直すか
この対応の核心は、辞任という個人の責任のとり方にとどまらず、不正を生んだ構造そのものへ踏み込んだ点にある。契約台数や付帯販売の成果で報酬が増える仕組みは、営業現場を後押しする力であると同時に、行き過ぎれば顧客本位から外れる圧力にもなる。広田靖治会長は、自社の成長を支えてきたその仕組みを全廃するという、痛みを伴う選択をとった。創業者が現場を知るからこそ、成果連動の効きと副作用の両方を見て決めた判断だといえる。
残る課題は、成果連動を外した現場で、どうやって売る力を保つかにある。付帯サービスを束ねて顧客の生涯価値で稼ぐネクステージの収益構造は、営業の熱量を前提に組み立てられてきた。固定給中心の報酬でその熱量を保ちつつ、売り込みが顧客本位を損なわない現場をどう設計するか。不正の再発防止と、創業以来のクロスセルの継続を両立させることが、社長へ戻った広田靖治会長の次の課題として残った。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
業界を揺らした保険金不正と、自社での不適切事案
2023年7月、中古車販売最大手のビッグモーターで、保険金の不正請求が明るみに出た。車体をわざと傷つけて保険金を水増しする手口は社会問題となり、中古車業界全体の信頼が揺らいだ。ネクステージも例外ではなかった。同社ではタイヤ保証のセールストークや申請などで不適切な行為があり、自動車保険契約の捏造を含む事案が社内で判明した。同社は2023年9月1日にこれを公表した[1][2]。
決断
浜脇社長の辞任と広田会長の社長復帰、全インセンティブ廃止
2023年9月11日、浜脇浩次社長が不適切事案の責任をとって辞任した。後任には、創業者で会長の広田靖治氏が社長を兼任する形で就いた。浜脇氏は1993年にビッグモーターへ入社し、中古車販売の営業実績を買われて2022年2月にネクステージの社長兼COOへ昇格したばかりだった。営業畑の社長のもとで過去最高益を更新した矢先の不祥事に、広田靖治会長は自らトップへ戻り、経営の立て直しを引き受けた[3][4]。
広田靖治会長が打ち出した中心の施策が、営業インセンティブの全廃だった。中古車販売では、契約台数や利益に連動して報酬が増える成果連動の仕組みが一般的で、それがノルマ達成のための保険契約偽造を招く温床だと見た。報酬を成果連動から固定給中心へ組み替え、不正の構造要因そのものを断つ。会社は「全てのインセンティブの廃止とともに、新たな経営体制のもと、経営をしていくべきだと判断[5]」したと説明した[6]。
結果
採算の選別へ、そして減益
報酬制度の刷新は、短期の業績に代償を伴った。2023年11月期の連結売上高は4635億円と前期から1割増えた一方、営業利益は161億円へ前期比で減り、営業利益率は前期の4.6%から3.5%へ低下した。新車不足による中古車特需が一巡した需要調整に、報酬制度の切り替えと店舗運営の見直しが重なった。広田靖治会長は、採算の劣る中型店の統廃合や新車ディーラーの事業譲渡へ進み、量の拡大から店舗ごとの採算を見極める選別へ、出店の方針を改めた[7][8]。
- BSRweb(2023年9月12日)「ネクステージ浜脇浩次社長が辞任、創業者の広田靖治会長が社長を兼任」
- レスポンス(2023年9月12日)「ネクステージ浜脇社長が辞任…タイヤ保証などで不適切な行為」
- 日本経済新聞(2023年9月12日)「ネクステージ社長辞任 保険不適切契約」
- ネクステージ 有価証券報告書(2023年11月期・連結)
- ネクステージ 決算説明会(2023年11月期)