ネクステージ 営業インセンティブ全廃 押し売りの芽を断つ商慣行の見直しと創業者の社長復帰

更新:

時期 2023年9月
当時の社長 広田靖治
論点 不祥事対応と報酬制度
何をなぜ決めたか
概要

2023年9月、保険契約の捏造などの不適切事案を受けて浜脇浩次社長が辞任し、創業者の広田靖治会長が社長を兼任、創業から27年続けた営業インセンティブを全廃した不祥事対応。

背景

業界の保険金不正請求問題で信頼が揺らぐなか、8月23日には社内調査で不正な案件は確認されなかったとしたが、9月1日の報道機関への回答で、タイヤ保証の不正申請と保険契約の捏造という過去の事案を公表した。

内容

9月11日に浜脇浩次社長が辞任し広田靖治会長が社長を兼任。販売台数に応じたインセンティブが不正発生の温床にもなりかねないと見て、翌10月に全インセンティブを廃止し、成果ではなく価値提供プロセスを評価する制度へ一本化した。

含意

中古車販売業界では異例の報酬制度刷新で、成果連動を外した現場でどう売る力を保つかが新たな課題になった。特需の一巡と重なり2023年11月期は減益となり、2025年8月には保険募集をめぐる業務改善命令を受けた。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

成果連動の報酬を、どう設計し直すか

この対応の核心は、辞任という個人の責任のとり方にとどまらず、不正を生んだ構造そのものへ着手した点にある。販売台数に応じて報酬が増える仕組みは、営業現場を後押しする力であると同時に、行き過ぎれば顧客本位から外れる圧力にもなる。広田靖治会長は、自社の成長を支えてきたその仕組みを全廃するという、痛みを伴う選択をとった。創業者が現場を知るからこそ、成果連動の効きと副作用の両方を見て決めた判断だといえる。

残る課題は、成果連動を外した現場で、どうやって売る力を保つかにある。付帯サービスを集約して顧客の生涯価値で稼ぐネクステージの収益構造は、営業の熱量を前提に組み立てられてきた。成果ではなく価値提供プロセスを評価する制度でその熱量を保ちつつ、売り込みが顧客本位を損なわない現場をどう設計するか。不正の再発防止と、創業以来のクロスセルの継続を両立させることが、社長へ戻った広田靖治会長の次の課題として残った。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
事案と対応の条件

事案と対応の条件

科目 概要 備考
事案の性質 タイヤ保証の不正申請と自動車保険契約の捏造 会社は「過去に数件の不適切事案」と表現し、組織的なものではないとした
発覚の端緒 報道機関からの質問状 2023年9月1日午前に受領し、同日中に回答して内容を自社サイトで公表した
対象期間 2018年10月〜2020年10月 会社が認識した最初の事案から、保険契約の捏造が判明した時点まで
関与した組織 複数店舗の従業員 保険契約の捏造は起点の1名に加え、同一店舗で3名、他店舗で4名の類似事案
調査主体 社内調査 第三者委員会・特別調査委員会の設置は公表されていない
会社が認めた原因 結果としてのインセンティブを優先する考え 仕組みを構築しプロセスを重視する評価体制を用いても取り去れていなかった
内部統制の評価 財務報告に係る内部統制は有効 2023年11月30日現在。開示すべき重要な不備の記載はない
責任の取り方 浜脇浩次代表取締役社長が辞任 2023年9月11日の取締役会が辞任届を受理。グループ各社の全役職から離れた
社長の後任 広田靖治会長が社長を兼任 1998年に当社を創業した代表取締役会長。同じ9月11日付で会長兼社長に就任した
従業員の処分 出勤停止3か月・降格・懲戒処分 保険契約を捏造した社員は出勤停止3か月と保険募集行為の停止。類似事案も処分
再発防止策(報酬) 全インセンティブの廃止 創業から27年続けた販売台数に応じた歩合を、2023年10月に廃止した
再発防止策(評価) プロセス評価への一本化 売上や利益ではなく、あるべき価値提供プロセスの実行を評価する制度へ
再発防止策(組織) 店舗単位のチーム制 3〜5人のチームを編成し、案件を共有して複数人で顧客に対応する体制へ
再発防止策(体制) リスク・コンプライアンス統括室 2023年10月に新設。店長・ブロック長経験者が全店の業務規範遵守を監査する
行政処分 東海財務局長の業務改善命令 2025年8月6日、保険業法第306条。立入検査で不適切事案が確認された
改善計画の提出 命令から1か月以内 実施完了までの間、履行状況を3か月ごとに報告することを求められた
訴訟(会社から報道機関へ) 法的措置を検討 事実と異なる報道をした報道機関と、報道に協力した個人を対象とする

出所:ネクステージ「報道機関様からのご質問状につきまして」2023年9月1日 / 同「当社に対する報道等につきまして」2023年9月8日 / 同「代表取締役の異動に関するお知らせ」2023年9月11日 / 同「株主の皆様へ」2023年9月13日 / 同「東海財務局による業務改善命令について」2025年8月6日 / 同 統合報告書2024 / 有価証券報告書 第25期(2023年11月期)【従業員の状況】【内部統制報告書】

平均年間給与の推移

ネクステージ:平均年間給与の推移

(千円) 平均年間給与 備考
2018年11月期 5,391 対象を営業担当社員に限る注記は、この期の有価証券報告書にはない
2019年11月期 5,176
2020年11月期 5,289
2021年11月期 5,400
2022年11月期 5,320
2023年11月期 5,071 10月にインセンティブを廃止。賞与及び基準外賃金を含む営業担当社員の平均
2024年11月期 5,057 廃止後の初めての通期。前期からさらに14千円下がった
2025年11月期 5,258 廃止前の2022年11月期の水準には戻っていない
平均年間給与
平均年間給与(千円)

出所:ネクステージ 有価証券報告書 第20期(2018年11月期)〜第27期(2025年11月期)【従業員の状況】提出会社の状況

主要KPIの推移

ネクステージ:主要KPIの推移

(台) 小売販売台数買取台数車検台数 備考
2018年11月期 57,74526,39827,094
2019年11月期 76,15337,66944,105
2020年11月期 81,54050,55458,517
2021年11月期 93,25879,92971,653
2022年11月期 120,440155,87584,345
2023年11月期 155,003202,010108,100 廃止は10月。9月以降は来店数が減少し、11月以降は回復に転じた
2024年11月期 177,742254,699129,445 廃止後の初めての通期。小売販売台数は前年比114.7%
2025年11月期 184,823283,017151,934 小売販売台数は前年比104.0%
小売販売台数
小売販売台数(台)

出所:ネクステージ 2018年11月期〜2025年11月期 決算説明資料(主要KPIの状況)

従業員数の推移

ネクステージ:従業員数の推移

(人) 連結従業員数提出会社の従業員数 備考
2018年11月期 1,9441,808
2019年11月期 2,7312,559
2020年11月期 3,0092,834
2021年11月期 3,7253,471
2022年11月期 5,3514,929
2023年11月期 6,7516,125 提出会社は前事業年度から1,400名増。新規出店に要する新規採用が主な要因
2024年11月期 7,6356,581 廃止後も884名増えた。新規採用に加えて子会社の取得が要因
2025年11月期 7,5376,492 上場後はじめて前期から減った
連結従業員数
連結従業員数(人)

出所:ネクステージ 有価証券報告書 第20期(2018年11月期)〜第27期(2025年11月期)【従業員の状況】

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参考文献

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