マネックスグループNTTドコモとの共同持株会社の設立と、マネックス証券の持分法適用会社化

独立を保つか、通信会社の顧客基盤に入るか——手数料無料化に追随できなかったネット証券の判断

時期 2023年10月
意思決定者(推定) 松本大(取締役会長)・清明祐子 代表執行役社長CEO
論点 独立系ネット証券の存続と資本提携
概要
2023年10月、マネックスグループがNTTドコモと資本業務提携を結び、中間持株会社を通じて中核子会社マネックス証券を持分法適用会社へ移した判断。1999年の創業から25年目に、独立系ネット証券としての立場を手放した。
背景
手数料無料化の競争でSBI証券と楽天証券が国内株の売買手数料を無料にし、マネックス証券は追随できなかった。共通ポイントによる経済圏を持たない分、顧客一人あたりの獲得費用も重かった。
内容
単独株式移転で中間持株会社を設立し、株式の約51%をマネックスグループ、約49%をドコモが保有する。取締役の過半をドコモが選任するため実質支配力基準でドコモの連結子会社となり、株式価値は970億円、連結での売却益は182億円とされた。
含意
口座数と預かり資産の目標を500万口座・15兆円へ引き上げ、マネックスグループは資産運用と暗号資産へ資金を振り向けた。2026年3月期には送客の効果が口座開設に表れた一方、連結の損益は残った事業の振れを受けやすくなった。
筆者の見解

独立の値段を、買い手の側から決められた

970億円という値づけが、この判断の性格を映している。マネックス証券の純資産は486億円、純利益は26億円で、手数料の無料化にも追随できなかった。それでも純資産のほぼ2倍の値がついたのは、証券会社としての実績にではなく、9,600万人のdポイント会員へ口座を差し出せる立場に値が付いたためだとみられる。松本大会長が「プラットフォームとの提携は避けられない」(週刊東洋経済 2023/10/21)と述べたとおり、単独で口座を集める時代の終わりを、マネックスグループは値段の側から認めた。

売却益182億円を計上した翌年、ほぼ同額の一過性費用が反対側に立った。2025年3月期はコインチェックグループの米国上場に伴う費用が約182億円のしかかり、営業損失46億円に沈んでいる。ドコモが払った970億円に対し、初年度に持分法利益として戻ったのは19億8,000万円である。送客が月間の口座開設で過去最大となったのは2026年1月で、発表から2年余りを要した。送客がこの比率をどこまで動かすかは、まだ数字に出ていない。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

無料化に追随できない側に立つ

ネット証券の手数料無料化は、最大手のSBI証券が仕掛けた。ただし2020年2月の時点では、現物取引の委託手数料を実際に無料にした会社はまだ一社もない。各社が打ち出した無料化のほとんどは投資信託の販売手数料で、信託報酬が後から入るため赤字にはならない。代替の収入がない現物では、取引が増えるほど損が出る。マネックスグループの松本大社長は「追随していく。ただ先には行かないし、様子見でもない」(週刊東洋経済 2020/2/15)と述べた[1][2]

マネックスグループの答えは、注文を取り次いで手数料を得るブローカー業からの離脱であった。松本社長は2019年10月末の中間決算会見で資産運用業への移行を宣言し、2020年1月16日には日本株を運用するカタリスト投資顧問の設立を発表した。運用部門に専念するため、子会社マネックス証券の代表権も手放している。証券会社ごと手放すのではないかと取り沙汰されたが、松本社長は「それは絶対にありえない」(週刊東洋経済 2020/2/15)と否定した[3][4]

経済圏を持たない証券会社の集客費用

値下げそのものより重かったのは、顧客を集める費用の差であった。楽天証券は広告費から逆算すると一人あたり6,840円で新規の顧客を得ていたのに対し、1万円を超えるネット証券も並んでいた。共通ポイントで顧客を囲い込む「経済圏」に加われば、獲得費用を経済圏の全体で分け合える。auカブコム証券はKDDIとの提携が本格化した2019年12月からの1カ月で、新規口座の約3割をauの利用者から得ている。マネックス証券には、その経済圏がなかった[5][6]

業績にも差が出た。マネックスグループの連結税引前利益は2022年3月期の208億円から2023年3月期には9億6,600万円へ落ち込み、マネックス証券単体の2023年3月期の純利益は26億円、純資産は486億円にとどまった。そこへ2023年秋、SBI証券と楽天証券が国内株の売買手数料を無料にした。マネックス証券と松井証券は追随できなかった。値下げで競い合う余力はすでに乏しく、残る道は経済圏を持つ相手と組むことであった[7][8]

決断

51%を残したまま子会社でなくなる仕組み

2023年10月4日、マネックスグループはNTTドコモとの資本業務提携を発表した。単独株式移転で中間持株会社を設け、その新会社がマネックス証券の全株式を持つ。新会社の株式は約51%をマネックスグループ、約49%をドコモが保有する。持分では過半を残しながら、新会社の取締役の過半をドコモが選任するため、実質支配力基準によってマネックス証券はドコモの連結子会社となり、マネックスグループにとっては持分法適用会社に変わった[9][10]

利益の取り分は持分に従う。マネックス証券と中間持株会社の配当性向を100%とし、マネックスグループは経済的な取り分として51%分を受け取る。取引の完了後は、マネックス証券の利益の51%が持分法投資損益として計上される。あわせて口座数と預かり資産の目標も引き上げた。マネックス証券は2023年9月時点で223万口座・預かり資産7兆円を抱え、2026年度に300万口座・10兆円としていた目標を、500万口座・15兆円へ改めた[11][12]

手放して得たもの

松本大会長は提携の理由を「ネット証券が生き残っていくうえで、プラットフォームとの提携は避けられない」(週刊東洋経済 2023/10/21)と説明した。ドコモは9,600万人の会員を持つ「dポイント」に加え、決済の「d払い」や電子マネー「iD」を抱える。金融の知識が比較的高い個人が中心だった顧客層を、そこから広げる。ドコモの江藤俊弘スマートライフカンパニー統括長は、時期は未定としながら1,000万口座を目指したいと語った[13][14]

金額の面では、マネックスグループに有利な取引であった。中間持株会社の株式価値は970億円とされ、マネックス証券の純資産486億円のほぼ2倍にあたる。ある証券会社の幹部はこの金額を「高めだ」(週刊東洋経済 2023/10/21)と指摘した。売却益は2024年1月4日付で単体211億円、連結182億円を計上する見込みとされた。清明祐子社長は、得た資金を資産運用業へ向け、自前の成長よりM&Aが大きくなるだろうと述べた[15][16]

結果

売却益の翌年に出た赤字

提携の発表翌日、マネックスグループの株価はストップ高の659円をつけ、年初来高値を更新した。配当の下限を従来の2倍の30円へ引き上げると同時に発表したことも効いている。株式譲渡は2024年1月4日に完了し、2024年3月期の連結業績は継続事業ベースの売上高657億円、税引前利益253億円、当期純利益313億円となった。前期の当期純利益33億円に対し、売却益が一度に乗った期であった[17][18]

翌2025年3月期は一転して営業損失46億円、当期純損失50億円を計上した。暗号資産のコインチェックグループを米ナスダック市場へ上場させた際の一過性の費用が約182億円あり、これが赤字の主因であった。証券を持分法へ移した後のマネックスグループでは、残った暗号資産と資産運用の振れが、そのまま連結の損益に出る。中核子会社を外した分、業績の支えも薄くなっていた[19][20]

送客が数字に表れるまで

送客の効果が数字に表れるまでには2年を要した。マネックス証券の新規口座開設は2026年1月に月間で過去最大となり、続く2月・3月も月3万口座前後で推移した。預かり資産は2026年4月に11兆円を超えている。清明祐子社長は、口座開設の「半分ぐらいはNTTドコモさんの貢献」(マネックスグループ決算説明会 2026/5/12)と述べた。NTTグループの職場つみたてNISAと株式報酬制度でも、指定証券会社に選ばれた[21][22]

残った事業の側でも数字が伸びた。2026年3月期は米国のトレードステーションが営業収益でドル建て・円建てとも過去最高を記録し、資産運用事業は当期利益50億円、運用資産2兆円超まで伸びた。マネックス証券からの持分法利益は19億8,000万円である。同年5月には暗号資産のコインチェックグループがKDDIへ14.9%の新株を発行して約100億円を調達し、証券はドコモと、暗号資産はKDDIと組む姿になった[23][24]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2020年2月15日号「背水の陣で臨む手数料ゼロ ネット証券5社の曲がり角」
  • 週刊東洋経済 2023年10月21日号「独立系・マネックス証券 ドコモ傘下入りの皮算用」
  • マネックスグループ NTTドコモとの資本業務提携に関する説明会 質疑応答(2023年10月4日)
  • マネックスグループ 2026年3月期 決算説明会 質疑応答
  • マネックスグループ 有価証券報告書(2023年3月期・2024年3月期・2025年3月期/連結・IFRS)

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