中部電力送配電・小売の分社化と持株会社体制への移行
電力を数ある事業の一つに置けるか——発販分離型の事業モデルへ組み替えた組織改編
- 概要
- 2020年4月1日、中部電力は一般送配電事業を中部電力パワーグリッドへ、小売電気事業を中部電力ミライズへ吸収分割で承継させ、自らは持株会社となった。前年4月に火力発電をJERAへ全面移管しており、報告セグメントはミライズ・パワーグリッド・JERAの3つに整理された。
- 背景
- 2016年4月の電力小売全面自由化で新電力が急増し、大手電力は地元で守勢に回る一方、エリア外へ攻め込む競争が始まった。2020年4月には送配電部門の法的分離が制度として求められ、規制で収入が定まる事業と市場で戦う事業を同じ法人が抱える形は保てなくなった。
- 内容
- 2019年4月に送配電・小売それぞれの分割準備会社を設立し、同年7月に新社名とブランドを公表、10月に組織再編を発表した。狙いは各事業が異なる市場に向き合って自律的に運営する発販分離型の事業モデルへの移行に置かれた。
- 含意
- 2020年4月に就任した林欣吾社長は、電力の販売にとどまらない「コミュニティサポートインフラ」の創造を掲げ、2020年代後半の連結経常利益2,500億円の半分を海外・再生可能エネルギー・新規事業から得る目標を示した。持株会社体制は、その事業構成を市場に示す仕組みでもあった。
分けることと、稼ぐこと
この再編を法的分離への手続き的な対応と読むと、中部電力が同時に何を選んだかを取り落とす。制度が求めたのは送配電の切り出しであって、小売まで別法人にすることでも、持株会社へ移ることでもなかった。それでも発販分離型の事業モデルという言葉で販売と送配電を並べ、持株会社に浜岡原子力発電所と新規事業を残したところに、この判断の芯があったとみることができる。林欣吾社長が語った2,500億円の半分を電気事業以外から得るという目標は、電力を数ある事業の一つとして扱う構えを数字で示したものであった。
もっとも、分けることと稼ぐことは別であった。2021年3月期、売上高2兆3,570億円を負ったミライズの利益は380億円にとどまり、売上高が7分の1に満たないパワーグリッドの588億円を下回っている。競争事業を独立した法人にしても、その稼ぐ力がただちに立ち上がったわけではない。日本エスコンの子会社化のような電力以外への広がりも、まだ収益の半分を担う規模には遠い。法人を分けることは責任の所在をはっきりさせても、稼ぐ力そのものをつくるところまでは届かないといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
自由化がもたらした大競争
2016年4月の電力小売全面自由化は、地域独占という前提を崩した。経済産業省の集計では2017年11月時点で電力を販売する事業者は441社に達し、省庁や自治体の入札では無名の新電力が大手を押しのけて落札を重ねた。中部電力も地元で守勢に回る一方、首都圏では大阪ガスとの合弁販売会社を通じて域外へ攻め込み、勝野哲社長は将来300万件、エリア内シェア10%の獲得という目標を語っていた[1]。
競争の相手は同業だけではなかった。都市ガスの小売も2017年4月に全面自由化され、東京ガスや大阪ガスが電力を売り、電力会社がガスを売る取引が同時に始まった。東京電力エナジーパートナーは中部・関西エリアでの都市ガス販売に乗り出し、関西電力も本体で中部地方へ参入した。地域独占の終わりと業種ごとのすみ分けの消滅が重なり、電力会社は自社の顧客基盤を前提にできなくなった[2]。
法的分離という制度の要請
電力システム改革は、2020年4月に送配電部門を別法人へ切り出す法的分離を大手電力に求めていた。中部電力は2019年4月、中部電力送配電事業分割準備株式会社と中部電力小売電気事業分割準備株式会社を設立し、受け皿を用意した。同じ月に既存の火力発電事業をJERAへ承継しており、本体に残る事業は送配電と小売、そして浜岡原子力発電所へと絞られていた[3]。
2019年7月31日、中部電力は分社後の社名とブランドを公表した。送配電を担う会社は中部電力パワーグリッド、販売を担う会社は中部電力ミライズと名付けられ、グループのスローガンには「むすぶ。ひらく。」が掲げられた。持株会社となる中部電力については、変わらぬ使命の完遂と新たな価値の創出に取り組む経営体であると説明された。制度対応の手続きに、事業構成を組み替える意味づけが重ねられていた[4]。
決断
発販分離型の事業モデルへ
2019年10月1日、中部電力は分社後の事業体制に応じた組織再編を発表した。掲げられた目的は、各事業が異なる市場に向き合って自律的に事業運営を行う発販分離型の事業モデルへ移行し、グループ全体の企業価値を最大にすることであった。持株会社には経営戦略本部と経営管理本部を置いて3社の連携にあたらせ、総務・広報・地域共生本部とマネジメントサービス本部を統合したうえで安全健康推進室を新設した[5]。
2020年4月1日、中部電力パワーグリッドが一般送配電事業等を、中部電力ミライズが小売電気事業等を承継し、分社が実行された。中部電力本体は事業会社としての電気の販売と送配電から離れ、経営管理と浜岡原子力発電所、新規事業を担う持株会社となった。前年の火力移管と合わせ、報告セグメントはミライズ、パワーグリッド、JERAの3つに整理された。総括原価で収入が定まる規制事業と、価格競争にさらされる小売とが、別の法人の帳簿へ分かれた[6]。
電力を数ある事業の一つに置く
分社と同じ2020年4月、林欣吾氏が社長に就いた。林社長は就任半年後の取材で、中部電力が「コミュニティサポートインフラ」の創造を掲げていると述べ、各家庭へ設置を進めるスマートメーターのデータを武器に挙げた。新しい領域として高齢者や子どもの見守り、健康管理を示し、慶応大学医学部発で医療・健康情報を一元管理するベンチャーの連結子会社化もその一環であると説明した。自動車や食など生活に関わる分野への広がりにも触れている[7]。
目標の置き方にも組み替えが表れていた。林社長は2020年代後半の連結経常利益として2,500億円、2019年度比でおよそ6割増という数字を挙げ、その半分を国内の電気事業が稼ぎ、残る半分を海外事業と再生可能エネルギー、新規事業から生み出したいと述べた。目標の達成には既存の国内電気事業以外を伸ばすほかないという言い方で、電力の販売だけでは支えきれない収益構造を認めていた[8]。
結果
三つの帳簿が示したもの
分社後の最初の通期となる2021年3月期、三つのセグメントの姿は対照的であった。売上高2兆3,570億円を計上したミライズの利益は380億円にとどまり、売上高3,100億円のパワーグリッドが588億円を稼いだ。持分法投資利益として計上されるJERAは657億円であった。売上の大半を負う小売の採算が薄く、規制で収入が定まる送配電と合弁の発電が利益を支えるという構造が、分けた帳簿によって外から見えるようになった[9]。
持株会社に残された新規事業の側も動いた。2021年4月、中部電力は不動産開発の日本エスコンの第三者割当増資を引き受けて子会社化し、同社の子会社10社もグループに加えた。2025年3月期にはミライズの利益が1,171億円、パワーグリッドが476億円、JERAが673億円となり、連結経常利益は2,764億円まで戻している。電力の販売以外を伸ばすという2020年の目標は、なお道半ばに置かれている[10][11]。
- 中部電力 有価証券報告書【沿革】【事業の内容】
- 中部電力 有価証券報告書(2020年3月期・2021年3月期・2025年3月期・連結)
- 中部電力 ニュースリリース 2019年7月31日「分社化後の新たなブランドについて」
- 中部電力 ニュースリリース 2019年10月1日「分社化後の事業体制に応じた組織再編(2020年4月1日付)について」
- 週刊東洋経済 2018年3月31日号「【第1特集 電力激変】 2 電力会社に迫る大転換 電力・ガス自由化で大激戦 新規参入企業の旋風 低炭素電力の販売も」
- 週刊東洋経済 2020年9月19日号「トップに直撃 中部電力 社長 林 欣吾 「再エネや生活サービスを新たな柱に据える」」