東北電力発送電の法的分離と東北電力ネットワークへの送配電分社

中立性の要請にどう応えるか——送配電を切り出し、事業持株会社の下に置くという選択

時期 2018年9月
意思決定者(推定) 原田宏哉 社長
論点 送配電部門の中立性確保と事業構造の分離
概要
2020年4月1日、東北電力は一般送配電事業および離島における発電事業等を、吸収分割により100%子会社の東北電力ネットワークへ承継させた。2015年6月に成立した改正電気事業法が定めた送配電部門の法的分離に対応する手続きで、1951年の設立以来続いた発送配電の一貫経営が法人の形のうえで解かれた。
背景
日本では2003年の制度改正で送配電部門の会計分離が導入されていたが、中立性が不十分との指摘を受けて2013年に法的分離の実施が閣議決定された。発電は1995年以降に参入が自由となり、小売は2016年4月に全面自由化されており、残る送配電の中立性が競争の条件になっていた。
内容
東北電力は純粋持株会社を新設せず、発電事業と小売電気事業等を営む本体を「事業持株会社」として残し、その下に100%出資の東北電力ネットワークを置く形を選んだ。2019年4月に分割準備会社を設立して吸収分割契約を結び、同年6月の株主総会で承認を得た。
含意
承継会社の資本金は240億円、従業員は7,672人でグループ最多となった。分社後、発電・販売側は燃料と市場価格の振れを受けて2022年3月期・2023年3月期に赤字を計上し、送配電側は2023年4月に始まったレベニューキャップ制度のもとで5年間の収入の枠を得た。
筆者の見解

期日の決まった再編が残したもの

この分社は、東北電力が自ら望んで描いたものではなく、2015年の改正電気事業法が期日まで指定した制度対応への回答であった。それでも回答の仕方には幅があり、東北電力は純粋持株会社を新設せず、発電と小売を営む本体を「事業持株会社」として残したうえで、その下に東北電力ネットワークを置いた。吸収分割契約を締結した原田宏哉社長は効力発生日の当日に社長を退き、樋口康二郎社長が分社後の会社を引き継いだ。7,672人という最も大きな人員を送り出しながら、親会社の商号も設立年も動かさない——制度対応としては抑制のきいた設計だといえる。

もっとも、分離の意味がはっきり見えたのは、その後に並んだ数字のほうであった。2022年3月期に経常損益492億円、2023年3月期に同1,993億円の赤字を計上したのは、燃料と市場価格の振れを引き受ける発電・販売の側である。一方の送配電側は、2023年4月に始まったレベニューキャップ制度のもとで、5年間2兆3,943億円という収入の枠を国から与えられた。同じ法人の内側で均されていた二つの収益構造は、分社を境に別々の決算として並ぶ。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

会計分離では足りないとされた中立性

電力システム改革は、発電・送配電・小売を一貫して営む地域独占と総括原価方式を組み替える一連の制度変更であった。送配電部門については、2003年の制度改正で会計を他部門から分ける会計分離がすでに導入されていた。ただ資源エネルギー庁の説明によれば、この方法では中立性が不十分だという指摘があり、2013年に送配電部門を別会社にする法的分離の実施が閣議決定された。2015年6月に成立した改正電気事業法が、実施時期を2020年と定めた[1]

発電と小売の自由化が先に進んでいたことが、この順番を決めていた。1995年以降の制度改革で発電部門は原則参入自由となり、小売は2016年4月に全面自由化された。だが発電した電気を届けるには送配電網を使うほかなく、その運用者が既存の事業者と新規参入者を平等に扱わなければ健全な競争は成り立たない。送配電については需給管理や設備の建設・保守で規模の利点があるため、地域独占の形は残したまま、中立性だけを高める設計が採られた[2]

設立の定義が「一貫経営」であった会社

東北電力は1951年5月、東北配電と日本発送電から設備の出資と譲渡を受け、東北6県と新潟県を供給区域として発送配電の一貫経営を行う会社として発足した。有価証券報告書の沿革の冒頭に置かれたこの一文が、以後69年にわたる会社の骨格であった。発電所から電柱までを一つの法人が保有し、需要家への販売までを同じ組織が担う。2020年の法的分離は、設立時の定義そのものを書き換える手続きにあたった[3]

制度の側は、分離後に守るべき距離も細かく定めていた。送配電事業者は発電や小売の事業を営むことを原則として禁じられ、取締役の兼職制限をはじめ人事や予算の面で行為規制を課される。一方で送配電は引き続き地域独占の業態にあたるため、総括原価方式に基づく料金規制は継続する。資本関係はグループ内に残したまま、経営の距離だけを法令で確保する仕組みであった[4]

決断

純粋持株会社を作らないという選び方

2018年9月27日、東北電力は分社化の方向性を公表した。2020年4月に予定される法的分離に対応して送配電部門の一層の中立性を確保するため、一般送配電事業を分社化し、発電事業および小売電気事業等を営む「事業持株会社」のもとに、100%出資会社として東北電力ネットワークを設置する、という内容であった。持株会社を新たに設けて発電・小売・送配電を横並びに置く形は採らず、既存の東北電力をそのまま親会社に残す設計であった[5]

方式は吸収分割で、東北電力を分割会社、送配電会社を承継会社とした。日程も同時に示され、2019年4月に分割準備会社を設立して吸収分割契約を締結し、同年6月の株主総会で契約の承認を得て、2020年4月1日を効力発生日とする段取りが引かれた。分社化後の東北電力の事業内容は発電事業と小売電気事業等、送配電会社の事業内容は一般送配電事業と離島における発電事業と定められた[6]

承継されるものの大きさ

2019年4月の吸収分割契約は、承継の範囲と対価を具体的に定めた。東北電力ネットワークが承継するのは一般送配電事業および離島における発電事業等で、これに関して分割会社が有する権利義務が移る。分割対価は東北電力ネットワークの普通株式3,548万株とされ、承継会社の資本金は240億円、分割会社である東北電力の資本金は2,514億41百万円と記された。契約書に分割会社の代表者として記されたのは、当時の取締役社長・原田宏哉氏であった[7][8]

移る人員の規模は、この分社が組織の半身を切り出す作業であったことを示している。分社化後の東北電力ネットワークの従業員は7,672人で、東北電力グループのなかで最も多い会社となった。担当するのは東北6県と新潟県の送配電に加え、山形県と新潟県の離島における発電である。初代社長には、それまで送配電カンパニー長を務めていた坂本光弘氏が就いた[9]

結果

分社の初年と、その後の決算

2020年4月1日、吸収分割の効力が生じ、東北電力ネットワークが一般送配電事業および離島における発電事業等を承継した。同じ日に東北電力の社長は原田宏哉氏から樋口康二郎氏へ交代し、分社後の体制が動き出した。坂本光弘社長は需要の減少や競争環境の激化を課題に挙げ、保守などにAIやIoTを活用して「コスト低減と電力の安定供給の両立に取り組む」と述べた[10][11]

分社の直後、本体の収益は荒れた。2021年3月期の連結業績は売上高2兆2,868億円・経常利益675億円と黒字を保ったものの、2022年3月期は経常損益492億円の赤字、親会社株主に帰属する当期純損益は1,084億円の赤字に転じた。2023年3月期の経常損益は1,993億円の赤字へ沈んだ。燃料価格の高騰と市場価格の変動を受け止めるのは発電と販売を担う側であり、その振れ幅が分離後の決算の表面に出た[12]

送配電に用意されていた別の制度

切り出された側には、分社とは別の制度変更が控えていた。2023年4月、一般送配電事業者の託送料金に、従来の総括原価方式に代わるレベニューキャップ制度が導入された。必要な投資の確保とコスト効率化を両立させ、系統のレジリエンス強化と再生可能エネルギーの主力電源化を図る枠組みで、事業者は規制期間ごとに事業計画と収入の見通しを国へ示し、承認を受ける。東北電力ネットワークは2023年度から2027年度までの5年間を第1規制期間として申請した[13]

承認された第1規制期間の収入の見通しは、5年間で2兆3,943億円、年平均4,789億円であった。従来の託送料金原価4,638億円と比べて151億円の増加にあたる。送配電会社は、自らの投資計画と効率化目標を国へ示し、その枠のなかで収入を得る事業者になった。2025年3月期の有価証券報告書では、報告セグメントに送配電事業が発電・販売事業と並んで掲げられている[14][15]

出典・参考

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