持株会社体制への移行とテクノロジー事業会社の分離
提案と実装を同じ器で抱え続けるか、分けて別々の採算に載せるか——単一事業で膨らんだ組織の組み替え
更新:
- 概要
- 2024年9月1日、ベイカレント・コンサルティングが持株会社体制へ移行し、商号を株式会社ベイカレントへ変更した。コンサルティング事業を新会社へ承継し、持株会社の傘下にコンサルティング事業会社とテクノロジー事業会社を並べる組織再編である。
- 背景
- 2016年の上場以降、単一事業・単一法人のまま人員が4,321名(2024年2月期末)まで膨らんでいた。提案を担う戦略コンサルティングと、実装を担うIT開発では収益構造も人材構成も異なるにもかかわらず、同じ会社に同居していた。
- 内容
- 2024年1月に移行準備の開始と分割準備会社A・Bの設立を公表し、4月に会社分割と定款変更を決議、9月1日に移行を完了した。ITサービスを担う子会社としてベイカレント・テクノロジーが発足し、事業ごとの採算とM&A・再編の自由度を確保する構えを取った。
- 含意
- 移行後、持株会社の単体従業員は593名まで減り、事業は子会社へ移った。下流の実装を強化する動きが、外資大手と同じ人海戦術型へ寄る「アクセンチュア化」ではないかという見方も出ており、テクノロジー事業を本体並みの採算に載せられるかはなお決着していない。
器を分けても、採算は分けただけでは変わらない
この再編で行われたのは、提案と実装という性質の違う二つの仕事を、別々の法人と別々の採算に載せ直すことであった。単一のセグメントで4,000人超を抱えたまま実装へ踏み込めば、高い利益率がどこで薄まっているのかが見えなくなる。分けておけば、少なくとも見える。受け皿を最初から二社用意し、8カ月で移行を終えた手順の運びからは、組織の形を先に整えてから次の事業を載せるという順序の意識がうかがえる。
ただし、法人を分けることと、分けた事業が育つことは別である。テクノロジー事業をコンサルティング事業並みの採算に載せられるかどうかは、器の設計ではなく中身の運営で決まる。実装は人数を投じて期間で稼ぐ性格を持ち、同社がこれまで拠ってきた少人数・高単価の型とは異なる経営を要する。分社が布石として働くのか、それとも本体の利益率を薄める入口になるのかは、今後の数字に委ねられているとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
単一の会社に4,000人を超える人が集まっていた
2016年の上場から8年、ベイカレント・コンサルティングは単一のセグメント、単一の法人のまま人員を積み上げてきた。2024年2月期末の従業員は4,321名で、上場時の1,194名から3.6倍になっていた。事業区分としては「コンサルティング事業」ひとつであり、戦略・デジタル・オペレーション・M&A・組織人事・リスク管理といった多様なテーマを、すべて同じ会社が抱えていた。増員と単価引き上げを同時に進める成長は続いていたが、器のほうは創業以来の形をとどめていた[1]。
拠点の面でも、増えた人員を収容する必要が生じていた。2024年1月、同社は本社を東京都港区麻布台へ移した。前年11月に開業した麻布台ヒルズへの入居で、分散していた本社機能・営業・採用を一体で運用できる場所を先に押さえた形である。組織の形を組み替える判断は、この物理的な集約と同じ時期に動き出した[2]。
提案と実装は、同じ商売ではない
同じ会社に置かれていた仕事の性質は、実際には二つに分かれていた。経営課題を整理し方針を描く提案の工程と、決まった方針をシステムとして作り込む実装の工程では、必要な人材も、案件あたりの人数も、利益の出方も異なる。提案は少人数で高い単価を取り、実装は人数を投じて期間で稼ぐ。両者を単一の法人と単一の採算で見ていると、どちらの採算が効いているのかが見えにくくなる[3]。
競争の側からも、実装まで手を伸ばす必要が生じていた。企画から実装まで一気通貫で引き受けられることが、アクセンチュアやビッグ4と並ぶうえでの条件になりつつあった。もっとも、実装の比重を上げれば人数で稼ぐ構造に近づき、それまで保ってきた高い利益率とは相性が悪くなる。踏み込むにしても、本体の採算と混ぜないための仕切りが要った[4]。
決断
準備会社二つから始めた8カ月
2024年1月12日、ベイカレント・コンサルティングは持株会社体制への移行準備を開始し、分割準備会社を設立すると公表した。用意された受け皿は一つではなく、A・Bの二社である。承継させる事業をあらかじめ二つに分ける前提で手続きが組まれていた。単に親会社を一段上に置くだけの再編であれば、受け皿は一つで足りる。二社を立てたことに、コンサルティングとテクノロジーを別々の法人へ分ける意図が表れていた[5]。
同年4月17日には、会社分割と定款の一部変更が決議された。定款の変更には商号と事業目的の変更が含まれる。事業を子会社へ渡したあとの存続会社は、自ら業務を行わず子会社を保有する会社になるため、社名から「コンサルティング」を落とし、事業目的も持株会社のそれへ書き替える必要があった。9月1日、移行が完了し、商号は株式会社ベイカレントとなった[6]。
テクノロジーを別会社に置くという選択
移行と同じ9月、ITサービスを担う子会社としてベイカレント・テクノロジーが発足した。持株会社の下に、コンサルティング事業会社とテクノロジー事業会社が並ぶ形である。実装の工程を本体から切り離して別法人に置けば、それぞれの採算が独立して見えるようになり、人事や報酬の設計も事業の性質に合わせて分けられる。将来の買収や事業の切り出しを考えたときにも、法人が分かれているほうが動かしやすい[7]。
移行が実態を伴ったことは、人員の配置に表れている。2025年2月期末の連結従業員は5,467名である一方、持株会社となった株式会社ベイカレント単体の従業員は593名にとどまった。前期まで4,321名を単体で抱えていた会社から、事業に携わる人のほとんどが子会社へ移ったことになる。器の組み替えは、名義の変更ではなく人の所属の移動として行われた[8]。
結果
成長は続き、疑問も残った
移行後も業績の伸びは止まらなかった。2025年2月期は連結売上高1,161億円・営業利益426億円、翌2026年2月期は売上高1,483億円・営業利益509億円と過去最高を更新し、連結従業員は6,788名に達した。掲げていた年率20%前後の成長は保たれている。組織を組み替えた期に成長が乱れなかった点では、移行そのものは滞りなく進んだとみることができる[9]。
一方で、分けた先の中身には視線が向いた。2024年11月、SBI証券のアナリスト・津村知生氏は、全体の数字は計画どおりでも主要KPIには濃淡があると指摘した。IT実装を強化する動きが、人数を投じて稼ぐ外資大手と同じ型へ寄る「アクセンチュア化」なのかという問いも投げかけられた。高い利益率を保ったまま実装を伸ばせるのかは、分社の直後には答えの出ない論点として残った[10]。
- ベイカレント 適時開示 2024年1月12日「持株会社体制への移行準備開始及び分割準備会社設立に関するお知らせ」
- ベイカレント 適時開示 2024年4月17日「持株会社体制移行に伴う会社分割及び定款の一部変更(商号及び事業目的の一部変更)に関するお知らせ」
- ダイヤモンド・オンライン(2024年11月21日)「ベイカレントが「20%成長」達成も主要指標に変調の兆し、IT実装強化は"アクセンチュア化"にあらず?」
- 週刊東洋経済 2025年3月22日号「【第1特集 進撃のアクセンチュア】第2章 アクセンチュア「1強」は永遠か 日系コンサルも台風の目 ベイカレントの爆走、ベイカレクローンの台頭」
- ベイカレント 有価証券報告書(2025年2月期・連結・IFRS)
- ベイカレント 有価証券報告書(2026年2月期・連結・IFRS)