競合フューチャーからの人材引き抜きと営業秘密領得への関与

2019年進行中

経験者を競う中途採用か、違法な引き抜きと営業秘密の侵害か——刑事有罪と続く民事係争が分ける一線

時期 2017年8月
意思決定者 ベイカレント・コンサルティング(採用部門)
論点 人材獲得競争とコンプライアンス
概要
2016年から2019年にかけて、ベイカレント・コンサルティングの中途採用をめぐり、競合のフューチャーが営業秘密の不正取得を主張して民事で提訴し、二重雇用されたフューチャーの元執行役員が刑事で有罪となった事案。刑事判決は、ベイカレントの採用担当が引き抜き目的で人材リストの作成を依頼し、元従業員がフューチャーの全従業員名簿を不正に領得したと認定した。刑事で有罪となったのは元従業員のみで、ベイカレントは刑事被告ではない。民事はフューチャーがベイカレントと元従業員に計1億6,500万円の損害賠償を求め、ベイカレントは請求棄却を主張して本稿の時点でも係争が続く。
背景
ベイカレントは、システムの構築受託から戦略・業務の上流コンサルへ業態を移し、外資系出身の経験者を中途で迎える採用を成長の要としてきた。稼ぎ手はコンサルタントであり、その頭数と案件単価で収益が決まるため、即戦力の獲得競争は激しく、競合からの経験者採用そのものは業界に広く見られた。
内容
フューチャーの開示と刑事判決の認定によれば、2016年7月、ベイカレントはフューチャー在職中の元執行役員を二重雇用した。ベイカレントの採用担当が「職位、年齢、性別」を指定した人材のリストアップを依頼し、元従業員が二重雇用を悪用してフューチャーの全従業員名簿を領得、37名のランク付きリストを作成したとされる。両者は毎週火曜に人材の打ち合わせを重ねていたと認定された。
含意
2017年8月にフューチャーが提訴、2018年3月に元従業員が逮捕・起訴され、2019年3月に有罪判決が下った。刑事で有罪となったのは元従業員のみで、ベイカレントは請求棄却を主張して民事で争う。人材の獲得を競う中途採用が、どこで違法な引き抜きと営業秘密の侵害に転じるかという線引きが、企業統治の課題として残った。
筆者の見解

認定された刑事の事実と、当事者の主張の切り分け

この事案が突きつけるのは、経験者を競って採る中途採用が、どこで違法な引き抜きと営業秘密の侵害に転じるかという線引きである。刑事で有罪となったのは、二重雇用を悪用して名簿を持ち出した元従業員のみで、ベイカレントは刑事の被告人ではない。ベイカレントの関与について語れるのは、元従業員を裁いた刑事判決の認定事実と、フューチャーの開示にとどまる。採用担当がリストアップを依頼したという認定は重いが、それが会社としての意思だったのか、どこまでの関与だったのかは、民事の審理に委ねられている。

人の頭数と案件単価で稼ぐコンサルティングでは、経験者の獲得競争は事業の一部であり、競合からの採用そのものは違法ではない。だが、相手企業の従業員名簿を不正に持ち出させ、引き抜きの標的を選ぶために使えば、健全な競争の一線を越える。適法と違法の線をどこで引き、採用の現場を統制するかの責任は、人を成長の要とする会社ほど重い。ベイカレントの法的責任がどう判断されるかは、本稿の時点でも定まっていない。刑事で認定された事実と、当事者それぞれの主張とは、切り分けて見ておく必要がある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上流コンサルへの脱皮と経験者の中途採用

ベイカレント・コンサルティングは、1998年に設立されたピーシーワークスを母体とし、システムの構築受託から戦略・業務の上流コンサルティングへ業態を移してきた。2006年12月に商号を現在のものへ改め、大手企業向けの高単価案件を取る独立系コンサルへ業態を寄せた。稼ぎ手はコンサルタントであり、その頭数と案件単価の掛け算が収益を決めるため、経験を積んだ即戦力をいかに集めるかが成長を左右した[1]

ベイカレントの成長は、外資系コンサルや事業会社で実務を積んだ経験者を中途で迎え、案件をこなせるコンサルタントの数を増やすことに支えられてきた。新卒を育てるより、実務者を採るほうが人員を早く積み増せる。上流の高単価案件を取り合う市場では、こうした即戦力の獲得競争が激しく、競合他社からの経験者採用そのものは業界に広く見られる人の動きだった[2]

決断

二重雇用と営業秘密の不正領得

2016年7月、ベイカレントは、競合のフューチャーになお在職していた元執行役員を採用し、二重雇用の状態に置いた。フューチャーの開示と、のちの刑事判決が認定した事実によれば、この元執行役員は在職のまま両社に雇われ、フューチャーから不正に領得した営業秘密をベイカレントへ開示していたとされる。フューチャーは、2017年5月2日にこの人物を懲戒解雇した[3][4]

刑事判決が詳細に認定したところによれば、元従業員は、ベイカレントの採用担当から「職位、年齢、性別」を指定した人材のリストアップを依頼され、引き抜き目的と知りながら、二重雇用を悪用してフューチャーの全従業員の名簿を領得した。そのなかから37名のランク付きリストを作成し、貸与パソコンに保存したと認定された。両者は毎週火曜に人材の打ち合わせを重ね、採用担当からのリストの点検や人材評価の依頼に元従業員が回答していたともされる[5][6]

提訴と刑事事件化

フューチャーとフューチャーアーキテクトは、営業秘密の不正取得と引き抜きにより損害があったとして、2017年8月3日にベイカレントと元従業員を東京地方裁判所に提訴した。請求額は、両原告があわせて計1億6,500万円に上る。翌2018年3月、警視庁は元従業員を逮捕し、東京地方検察庁は不正競争防止法違反で東京地裁に起訴した。ベイカレント自身は、この刑事事件の被告人ではない[7][8]

結果

元従業員への有罪判決と続く民事係争

2019年3月26日、東京地方裁判所は、フューチャーの営業秘密を領得・開示した不正競争防止法違反により、元従業員に懲役1年(執行猶予3年)、罰金50万円の有罪判決を言い渡した。刑事で罪に問われ有罪となったのは、二重雇用を悪用して名簿を持ち出した元従業員だけであり、ベイカレントが刑事で裁かれたわけではない[9]

民事は、これとは別に続いた。原告のフューチャーとフューチャーアーキテクトは、ベイカレントと元従業員に、差止めと計1億6,500万円の損害賠償を求めて争い、ベイカレントはこれに対し、不正競争防止法などに抵触する行為はしていないとの認識を示した。ベイカレントはその後も毎年の有価証券報告書で係争の継続を記し、請求が認められるとは考えていないとして引当金も計上していない。提訴からおよそ9年を経た2026年5月提出の有価証券報告書でも、民事は決着していない[10][11]

出典・参考