ベイカレント フューチャーから人材引抜 競合企業の営業秘密の領得に関与したという事実の表面化

更新:

時期 2017年8月
当時の社長 阿部義之
論点 人材獲得競争とコンプライアンス
何をなぜ決めたか
概要

2016年から2019年にかけて、ベイカレント・コンサルティングの中途採用をめぐり、競合のフューチャーが営業秘密の不正取得を主張して民事で提訴し、二重雇用されたフューチャーの元執行役員が刑事で有罪となった事案。刑事判決は、ベイカレントの採用担当が引き抜き目的で人材リストの作成を依頼し、元従業員がフューチャーの全従業員名簿を不正に領得したと認定した。

刑事で有罪となったのは元従業員のみで、ベイカレントは刑事被告ではない。民事はフューチャーとフューチャーアーキテクトの2社がベイカレントと元従業員に合計165百万円の損害賠償を求めたもので、本稿の時点でも係属している。

背景

ベイカレントは、システムの構築受託から戦略・業務の上流コンサルへ業態を移し、外資系出身の経験者を中途で迎える採用を成長の要としてきた。稼ぎ手はコンサルタントであり、その頭数と案件単価で収益が決まるため、即戦力の獲得競争は激しく、競合からの経験者採用そのものは業界に広く見られた。提訴の当期にあたる2018年2月期末の従業員数は1,358名で、前期末から164名増えている。

内容

フューチャーとフューチャーアーキテクトの2社は、2017年8月3日付で不正競争防止法等に基づく差止め等及び損害賠償請求の民事訴訟を提起した。請求金額は合計165百万円と年5分の遅延損害金で、内訳は元従業員Aが営業機密を取得したこと等による損害として元従業員Aと連帯して原告らそれぞれ55百万円、元従業員Aを採用したことによる新たな従業員の雇い入れ・教育費用等の損害として原告らそれぞれ28百万円である。

刑事判決では、両者が毎週火曜に人材の打ち合わせを重ね、 『職位、年齢、性別』 を記した人材リストの作成が依頼されたと認定された。

含意

2017年8月にフューチャーが提訴、2018年3月に元従業員が逮捕・起訴され、2019年3月に有罪判決が下った。刑事で有罪となったのは元従業員のみである。民事は提訴から9期を経た2026年2月期末の時点でもなお係属し、請求が認められることは考えておらず支払が生じる可能性は低いとして、引当金は一度も計上されていない。人材の獲得を競う中途採用が、どこで違法な引き抜きと営業秘密の侵害に転じるかという線引きが、企業統治の課題として残った。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

認定された刑事の事実と、当事者の主張の区別

この事案が突きつけるのは、経験者を競って採る中途採用が、どこで違法な引き抜きと営業秘密の侵害に転じるかという線引きである。刑事で有罪となったのは、二重雇用を悪用して名簿を持ち出した元従業員のみで、ベイカレントは刑事の被告人ではない。ベイカレントの関与について語れるのは、元従業員を裁いた刑事判決の認定事実と、原告側の開示にとどまる。採用担当がリストアップを依頼したという認定は重いが、それが会社としての意思だったのか、どこまでの関与だったのかは、民事の審理に委ねられている。

もっとも、請求額165百万円は、提訴の当期に33億円の営業利益を上げていた会社にとって経営を揺るがす規模ではない。引当金が一度も積まれていないのも、支払の可能性が低いという判断の表れである。それでも9期にわたり同じ記載が消えずに残っていることの意味は、金額とは別のところにある。人の頭数と案件単価で稼ぐ事業では、経験者の獲得競争そのものが事業の一部であり、競合からの採用は違法ではない。だが相手企業の従業員名簿を持ち出させて標的を選べば、健全な競争の一線を越える。その線をどこで引き、採用の現場を統制するかの責任は、人を成長の要とする会社ほど重いといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
提訴日 2017年8月3日付 原告はフューチャー株式会社およびフューチャーアーキテクト株式会社の2社
被告 ベイカレントおよび同社元従業員A 元従業員Aは原告らの元従業員であると同時にベイカレントの元従業員でもある
訴訟の内容 不正競争防止法等に基づく差止め等及び損害賠償請求
請求金額 合計165百万円および年5分の遅延損害金 第4期の記載は165,000千円。第5期以降は百万円単位で表示
請求の内訳①(営業機密の取得等) 原告らそれぞれ55百万円 元従業員Aが営業機密を取得したこと等による損害。元従業員Aと連帯して負う
請求の内訳②(採用による損害) 原告らそれぞれ28百万円 元従業員Aの採用による新たな従業員の雇い入れ・教育費用等。第4期は27,500千円
引当金の計上 計上していない 法律顧問の見解を踏まえ、請求が認められることは考えておらず支払の可能性は低いため
訴訟の状況 係属中 第4期から第12期(2026年2月期)まで9期連続で同一内容の記載が続いている

出所:ベイカレント 有価証券報告書 第4期(2018年2月期)【偶発債務】訴訟等、第12期(2026年2月期)連結財務諸表注記「34.偶発債務」

従業員数の推移

ベイカレント:従業員数の推移

(人) 従業員数 備考
2015年2月期 919
2016年2月期 1,096
2017年2月期 1,194
2018年2月期 1,358 2017年8月に提訴。当期の従業員数は前期末から164名増
2019年2月期 1,531
2020年2月期 1,839
2021年2月期 2,161
2022年2月期 2,638
2023年2月期 3,310
従業員数
従業員数(人)

出所:ベイカレント・コンサルティング 有価証券報告書 第1〜9期【従業員の状況】(提出会社)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • ベイカレント・コンサルティング 適時開示「当社に対する訴訟の提起に関するお知らせ」
  • フューチャー 適時開示「刑事裁判の判決に関するお知らせ」
  • ベイカレント・コンサルティング 有価証券報告書「第4期(2018年2月期)【偶発債務】訴訟等」
  • ベイカレント 有価証券報告書「第12期(2026年2月期)連結財務諸表注記「34.偶発債務」」

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