顧客ごとに決めていた人月単価の役職別一律化

2026年進行中

客ごとに値段を変える柔軟さを手放してでも単価を上げるか——中期計画の前倒しに向けた価格政策の転換

更新:

時期 2026年4月
意思決定者 阿部義之 ベイカレント 会長兼社長
論点 価格政策と中期経営計画の達成手段
概要
2026年4月から、コンサルタントの人月単価を役職別に定め、全クライアントで一律とする方針である。従来は顧客ごとに単価を決めていた。2025年8月にダイヤモンド編集部が独自に報じた。
背景
同社は2029年2月期までの5カ年の中期経営計画で、2029年2月期の売上高2,500億円を目標に掲げている。人員の増加だけでこの規模へ届かせるには限界があり、単価の側を動かす必要が生じていた。
内容
顧客ごとの個別単価をやめ、役職に応じた単価表へ統一する。実質的な値上げにあたり、報道によれば2028年2月期での2,500億円達成、すなわち中期計画の1年前倒しを狙う。
含意
顧客に応じて単価を柔軟に決められることは、外資系に対する同社の強みのひとつであった。それを手放してでも単価を取りにいく判断となる。顧客側の「ベイカレ疲れ」と生成AIによる人月商売の揺らぎが同時に指摘されるなかでの価格改定である。
筆者の見解

値段を揃えるという判断が試されるもの

顧客ごとに単価を決められることは、この会社が外資系に対して持っていた実務上の利点であった。それを役職別の一律表へ揃えるのは、交渉の余地を減らしてでも単価の水準を引き上げるという選択にあたる。値上げの一手というより、価格の決め方そのものを、個別の交渉から統一された表へ移す変更とみることができる。中期計画の目標年度を1年前倒しするという意図も、単価を動かさなければ規模に届かないという認識の裏返しとして読める。

試されるのは、その単価に見合う中身を示せるかどうかである。大量の人員を投入する進め方に顧客の疲れが指摘され、生成AIが分析や設計の一部を担い始めた時期に、人月という単位の値段だけを上げれば、発注する側は支払う根拠を問い直すことになる。大口顧客に深く入るという方針は、その問いに「積み上げた理解」で答えようとする構えといえる。過去最高益の年に株価が3割下げた事実は、市場がこの答えをまだ受け取っていないことを示している。価格政策の当否は、本稿の時点では決着していない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

2,500億円という目標と、人を増やす速度の限界

ベイカレントは2029年2月期までの5カ年の中期経営計画で、最終年度の売上高2,500億円を掲げている。2026年2月期の実績は1,483億円であり、3年で1,000億円あまりを積み増す計算になる。同社はこれまで、コンサルタントを増やしながら1人当たりの売上も上げるという二軸で成長してきた。連結従業員は2026年2月期末で6,788名に達しており、増員のほうは続いている[1]

ただし、人を増やす速度には制約がある。採用は同業との奪い合いであり、増やした人員を稼働させるには案件の確保も要る。2026年2月期の売上高を3年で1.7倍にする目標に対し、増員のペースだけで届かせるのは難しい。もう一方の軸である単価を、これまでより意識的に動かす必要が生じていた[2]

柔軟な単価という強みの裏側

これまで同社は、顧客ごとに単価を定めてきた。国内企業であるため海外本社へのロイヤルティー支払いがなく、外資系ファームより柔軟に単価を組めることが、案件を取る際の強みとして働いていた。安く出せるという意味だけでなく、相手の事情に合わせて条件を作れるという意味での柔軟さである。もっとも近年は競合との単価差が縮まり、価格の安さで選ばれる度合いは下がっていた[3]

顧客の側の受け止めにも変化が現れていた。100名を超える規模で人員を投入する進め方に対し、発注した企業側に業務のノウハウが残らないという指摘があり、「ベイカレ疲れ」と呼ばれる状態が生じているとも報じられた。値上げを通すには、単価に見合う中身をどう示すかという問いがついて回る場面であった[4]

決断

顧客ごとの値段をやめる

2025年8月、ダイヤモンド編集部の取材により、ベイカレントが2026年4月にコンサルタントの役職別の人月単価を全クライアントで一律化する方針が明らかになった。従来のように顧客ごとに単価を定めるのではなく、役職に応じた単価表へ統一する。同じ役職の人材であれば、どの顧客に対しても同じ値段で出すことになる。個別に条件を作れる余地を手放す代わりに、単価の水準そのものを引き上げる仕組みである[5]

狙いは中期経営計画の前倒しに置かれた。報道によれば、この一律化により2028年2月期での売上高2,500億円達成を目指すとされる。2029年2月期を最終年度とする計画を1年繰り上げる想定である。増員で積む分に単価の引き上げを重ねて、目標年度そのものを前へ動かす構えであった。なお、役職ごとの具体的な単価水準は報道に基づくものであり、本稿では確認できていない[6]

値段と同時に、相手を選ぶ

単価の統一と並んで示されたのが、顧客の側を絞る方針である。2026年4月、阿部義之会長兼社長は、契約企業数よりも取引の質を重視し、大口の取引を増やして成長の速度を上げる考えを示した。「コンサルは同じ企業の案件を多くこなすほどその企業のことを理解できる。深く広く支援していきたい」と述べている。数多くの顧客に薄く関わるのではなく、限られた大企業に深く入る形へ寄せる方針であった[7]

二つの方針は組み合わせとして働く。単価を一律に引き上げれば、価格を理由に離れる顧客も出る。そこで大口の顧客へ資源を寄せておけば、単価の上昇を受け入れられる相手との取引が残りやすくなる。同じ企業の案件を重ねるほど理解が深まるという説明は、値上げの根拠を「安さ」ではなく「積み上げた理解」に置き換える言い方でもあった[8]

結果

本稿の時点で見えていること

一律単価の適用が始まるとされた2026年4月の時点で、業績はなお伸びていた。2026年2月期は連結売上高1,483億円・営業利益509億円で、11期連続の最高益となった。翌2027年2月期についても27%の増益予想が示されている。値上げの影響が数字に表れるのはこれからであり、本稿の時点では、価格改定が受注にどう跳ね返ったかを判断できる材料は出ていない[9]

一方、株式市場の評価は逆を向いていた。2025年2月期末に6,368円だった株価は2026年2月期末に4,510円へ下がり、時価総額は9,897億円から7,009億円へと3割近く減っている。最高益を更新した期に株価が下げたことになる。人月を単位に売る仕組みが生成AIによって崩れるという見方が業界に広がっており、単価を上げる判断は、その単位自体が問われる時期と重なった[10]

出典・参考

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