上場直後の減益を受けた社長交代と、採用数と単価を同時に上げる成長モデルへの転換

人を増やせば利益が薄まるコンサルの常識に対し、阿部義之社長は増員と単価引き上げをどう両立させようとしたか

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時期 2016年12月
意思決定者 阿部義之 ベイカレント・コンサルティング 社長
論点 上場後の収益構造と人材の増やし方
概要
2016年12月、東証マザーズ上場から3カ月で業績が振るわなかったベイカレント・コンサルティングが、阿部義之氏を代表取締役社長に据え、採用費への集中投資とコンサルタント単価の引き上げを同時に進める体制へ切り替えた経営判断である。以後10年の高成長は、この交代から始まった。
背景
2016年9月の上場を挟む2017年2月期は、売上高が172億円へ伸びた一方で営業利益は23億円へと前期から減り、増収減益となっていた。2014年のMBOで計上したのれんの償却負担が重く、人員の増加がそのまま利益に結びつかない構造を抱えていた。
内容
阿部社長は2017年2月期から採用費を集中的に投じて中途採用を本格化させる一方、案件を上流工程の高単価帯に絞り込んだ。全員をコンサル部門に置く「ワンプール制」と自前の営業部門が、増員と稼働率の維持を両立させる装置となった。
含意
人月を売る事業では増員が単価の下押しを招きやすい。同社はコンサルタント数を約4.7倍に増やしながら1人当たり売上を引き上げ、営業利益率34%台を保った。ただし直近は株価が3割下落し、AIによる人月商売の揺らぎという別の問いが現れている。
筆者の見解

増やしながら上げる、という設計の耐用年数

この判断の核心は、コンサルティングという事業で増員と単価上昇を同時に成り立たせた点にある。人を売る商売では、規模を追えば安い仕事まで抱え込み、単価を守れば規模が止まる。どちらかを選ぶのが通例であったところに、上流案件への絞り込みと待遇による人材確保を組み合わせ、両方を引き上げる循環を作った。上場直後の増収減益という不格好な決算から始まった体制が、9年で売上を8.6倍にした事実は、その設計が少なくとも需要が伸びるあいだは機能したことを示している。

ただし、この循環はDX投資という追い風と、人月という単位が疑われないことを前提に組まれていた。前提の後半がいま揺れている。生成AIが設計や分析の工程を担うようになれば、投じた人数に比例して報酬を受け取る構造そのものが問い直される。過去最高益の年に株価が3割下げた事実は、市場が業績ではなくこの前提のほうを見ていることをうかがわせる。増やしながら上げるという設計が次の10年でも保つのか、答えはまだ出ていないとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上場して3カ月、増収なのに利益が減っていた

2016年9月、ベイカレント・コンサルティングは東京証券取引所マザーズへ株式を上場した。1998年3月の有限会社ピーシーワークス設立から18年、2014年のMBOからは2年余りでの上場である。ところが上場を挟んだ2017年2月期の成績は、売上高が前期の158億円から172億円へ伸びた一方、営業利益は27億円から23億円へ、当期純利益も16億円から12億円へと減っていた。増収でありながら利益が細るという、成長企業としては説明の難しい決算であった[1]

利益が伸びない理由のひとつは、2年前の資本再編にあった。2014年6月、Sunrise Capital を中心とする受け皿会社バイロン・ホールディングスが旧ベイカレント・コンサルティングの全株式を210億円で取得し、のれん188億円を計上していた。買収価格の大半がのれんとして貸借対照表に残り、その償却負担が毎期の利益を削っていた。人を増やして売上を積むだけでは、この負担を越えられない構造であった[2]

外資と国内大手のあいだに空いていた場所

一方で、事業環境は追い風に変わりつつあった。日本企業がデジタル化への投資を本格化させるなかで、コンサルティングの需要は膨らんでいた。しかし発注する側から見ると、アクセンチュアやビッグ4といった外資系ファームは単価が高く、案件によっては手が届かない。かといって業界中堅では上流の設計に踏み込めない。この中間の領域が空いていた。同社はもともとシステム構築やアウトソーシングを手がけるIT事業者として始まり、その技術的な素地を持ったまま上流へ寄っていた点で、この空白に入りやすい位置にいた[3]

需要があっても、コンサルティングは人を確保できなければ受けられない。上場時点のコンサルタントは1,194名で、前期の1,096名から100名ほど増えたにとどまっていた。案件を取る力よりも、案件に充てる人を集める速度のほうが制約になっていた。増員をどこまで加速できるかが、この空白を取りにいけるかどうかを分けることになる[4]

決断

上場3カ月での社長交代と、採用費への集中投資

2016年12月、ベイカレント・コンサルティングは代表取締役社長に阿部義之氏を据えた。上場からわずか3カ月での交代である。阿部氏は1989年に電気通信大学を出て野村総合研究所に入り、2008年に同社へ移った。2015年に取締役コンサルティング&IT事業本部長として主力案件の収益を統括する立場に置かれており、現場の採算を知る人物が経営を引き継いだ形であった[5]

阿部社長が採ったのは、増やすことと上げることを同時に進める方法であった。2017年2月期から採用費を集中的に投じて中途採用を本格化させ、受けられる案件の数を増やす。それと並行して、引き受ける仕事を上流工程の高単価帯へ絞り込み、コンサルタント1人当たりが生む売上を押し上げる。人月を売る事業では、人を増やせば単価の安い仕事まで拾うことになって利益率が薄まりやすい。その常識に逆らって両方を伸ばさなければ、のれんの償却を吸収できなかった[6]

ワンプール制と自前の営業部門

二軸を回すために置かれた仕組みが二つある。ひとつは「ワンプール制」で、産業やテーマごとに部門を切る一般的なファームと異なり、全員をコンサル部門に配属し、案件ごとに人を割り当てる。専門を早くから決めない若手にとって幅広い領域に関われる利点があり、同時に会社にとっては、増やした人員を空かせずに案件へ流し込めるという意味を持った。もうひとつは自前の営業部門である。最上位のパートナーが自ら営業に回る従来のやり方に対し、営業を独立した機能として組織したことで、より広い顧客に手を伸ばせるようになった[7]

人を集める条件も整えられた。国内企業であるため海外本社へのロイヤルティー支払いがなく、単価の設定も外資系より柔軟に組めた。その余力が待遇へ回り、中途採用では現在の年収から100万円以上の上積みを提示し、知人を紹介した社員には多額の報酬を出す形で人を呼び込んだ。単価で稼いだ分を人件費へ返し、その人材でさらに単価の高い案件を取る——二軸は、報酬を介してつながる循環として設計されていた[8]

結果

人員4.7倍、売上8.6倍

二軸は回った。従業員数は2015年2月末の919名から2024年2月末には4,321名へと4.7倍になり、その間に平均年収は1,074万円(平均年齢31.4歳)に達した。東京大学をはじめとする新卒の採用と、競合ファームからの中途採用の両方で人を積み増した結果である。増員が単価の下押しにつながる懸念は現実にならず、コンサルタント1人当たりの売上はむしろ上がっていった[9]

業績はそれ以上に伸びた。阿部社長が就任した2017年2月期の売上高172億円・営業利益23億円は、2026年2月期には売上高1,483億円・営業利益509億円となった。9年で売上は8.6倍、営業利益は22倍である。営業利益率は上場直後の13%台から34%台へと上がり、製造業では考えにくい水準に達した。増収減益から始まった体制が、増員と単価の両方を伸ばし切った形であった[10]

模倣する企業と、揺らぎ始めた前提

成功したモデルは模倣される。ベイカレント出身者が創業したDirbato、ノースサンド、ビジョン・コンサルティング、ライズ・コンサルティング・グループの4社は「ベイカレクローン」と呼ばれ、ワンプール制を含む似た仕組みで伸びた。営業統括責任者を務めた金山泰英氏が設立したDirbatoは、2020年3月期の売上高17億円から2024年3月期に282億円へ拡大している。同社が組み上げた型は、業界に広がる標準になりつつあった[11]

一方で、市場の評価は業績ほど素直ではなくなっている。2025年2月期末に6,368円だった株価は2026年2月期末に4,510円へ下がり、時価総額は9,897億円から7,009億円へと3割近く減った。過去最高益を更新した期に株価が下げたことになる。人月を単位に売る事業がAIによってどう変わるかという問いが、増員と単価の二軸そのものに向けられ始めていた[12]

出典・参考

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