東北電力東北水力地熱と東北インテリジェント通信の子会社化によるグループ事業の再編
自由化のもとで何を連結の内側に置くか——地熱・水力と地域通信を本体に取り込む選択
- 概要
- 2003年10月、東北電力は東北地熱エネルギーの増資新株式を引き受けて筆頭株主となり、同社は同日付で東北水力地熱へ商号を改めた。続く2004年3月には、自己株式を対価とする株式交換で東北インテリジェント通信を完全子会社とした。地熱・水力と地域通信という二つの周辺事業を、半年のうちに連結の内側へ引き入れた再編である。
- 背景
- 2000年3月の部分自由化で地域独占と総括原価という前提が崩れ、東北電力は2000年1月に電力業界で初めてEVAを導入して資本効率を測り始めていた。設備工事費と総資産を絞る一方、グループ会社の持ち方も見直しの対象になった。
- 内容
- 東北水力地熱は、管財人が関与する日本重化学工業グループの事業再建スキームのなかで地熱・水力事業を集約した会社で、東北電力が65%を直接出資した。東北インテリジェント通信は1992年に東北電力の全額出資で発足し、増資で96社まで広がっていた株主構成を株式交換で買い戻す形をとった。
- 含意
- 東北電力は情報通信事業を「周辺事業領域」と呼びながら、資本の面では完全子会社まで踏み込んだ。地熱・水力は再建支援の形で入り、2015年には東星興業との合併を経てグループの再生可能エネルギーの中核会社になった。
絞る対象と抱える対象
幕田圭一社長が引き継いだのは、EVAという物差しで自らの資産を測り直している途中の会社であった。設備工事費をピークの5,000億円弱から2,000億円台前半まで削り、総資産を1999年度から約1,700億円圧縮する一方で、破綻した日本重化学工業グループの地熱・水力を65%出資で引き受け、96社に分かれていた通信会社の株式を自己株式で買い戻した。削る対象と抱える対象を同じ2年のうちに決めたところに、この再編の性格が表れているとみることができる。
もっとも、当時の説明で通信は「周辺事業領域」とされ、地熱・水力も再建支援に伴って手元へ来た電源という色合いが濃かった。2004年の東北電力に、この2社が将来の柱になるという見通しがあったとは読み取りにくい。それでも地熱と水力は2015年に東星興業と合わさって東北自然エネルギーとなり、いまはグループの再生可能エネルギーの中核に置かれている。管財人と契約を結んだ2003年5月から数えて、12年後のことであった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
部分自由化で崩れた前提
2000年3月、大口需要家を対象に電気の小売が部分的に自由化された。幕田圭一副社長は同年11月の講演で、この改正によって「従来の電力会社の経営スタイルであった地域独占・総括原価主義が事実上崩壊した」と述べている。東北電力は同年10月に非自由化部門で10社平均を上回る5.68%の料金引き下げを実施し、自由化範囲の拡大を見越して価格競争力を確保しようとした。この講演をした幕田圭一副社長は、翌2001年に社長へ就いている[1][2]。
制度が変わる前から、事業の枠を広げる準備は始まっていた。1998年3月期の決算発表にあわせて電力各社は一斉に定款を変更し、事業目的にガス供給事業、電気通信事業、蓄熱式空調等の製造・販売といった規制緩和を見込んだ項目を書き加えた。電気を売る一本の事業だけを営む会社から、エネルギーと通信を併せ持つ会社へ、定款のうえでの輪郭が先に引き直されていた[3]。
資本効率という新しい物差し
2000年1月、東北電力は電力業界で初めてEVAの導入を明らかにした。地域独占と総括原価のもとで薄かったコスト意識を、資本コストを上回る利益を上げられているかどうかで測り直す試みであった。週刊東洋経済は、事業リスクの増大と他産業に比べた財務体質の弱さに対する危機感が芽生えていたこと、設備形成に多額の資金を要する事業の性格上、金融資本市場の信認を得る必要があったことを、導入の理由として伝えている[4]。
この物差しは、設備と資産の持ち方を変えた。導入後の2回の料金改定で合計約13%の引き下げ率を実現し、ピーク時に5,000億円弱あった設備工事費は2002年度に2,000億円台前半まで下がった。総資産も、女川原子力発電所3号機が加わったにもかかわらず1999年度のピークから2002年度までに約1,700億円減った。何を自ら抱え、何を外へ出すかを測り直す作業は、発電設備だけでなくグループ会社の持ち方にも及んだ[5]。
決断
破綻したグループの再建を引き受ける形で
2003年10月1日、東北電力は東北地熱エネルギーの増資新株式を引き受け、同社の筆頭株主となった。管財人が関与する日本重化学工業グループのエネルギー部門の事業再建で、地熱と水力の事業を東北地熱エネルギーへ集約し、同社が同日付で東北水力地熱へ商号を改めるという段取りであった。契約は同年5月13日に管財人および東北地熱エネルギーとの間で結ばれ、東北電力は経営主体として参画する立場を引き受けていた[6][7]。
新会社の中身は、支援の度合いを示していた。資本金20億円、本社は盛岡市で、岩手県の葛根田地熱事務所と松川地熱発電所、和賀川発電所、石羽根発電所、山形県の長者原発電所を抱える。株主は東北電力が65%、日本政策投資銀行が25%、東北電力の全額出資子会社である東北発電工業が10%で、間接分を含めた東北電力の議決権は75%に達した。社長には東北電力の経営管理部長が就任した。供給区域の資源に根ざした電源が、再建支援という入口から連結へ入った[8][9]。
自己株式を対価にした株式交換
2004年1月29日、東北電力は東北インテリジェント通信を株式交換により100%子会社とすると発表した。交換の対価には、前年11月までに東京証券取引所での市場買付けなどで取得していた自己株式を充てた。同社は1992年10月に東北電力の全額出資で設立された地域通信会社で、1993年から1999年にかけての増資で株主は96社まで広がり、資本金は100億円に達していた。地域の企業と分け合ってきた株式を、東北電力が自社株で引き取る取引であった[10][11]。
発表文は、この取引の狙いを事業領域の言葉で説明していた。東北電力は企業グループの事業領域について、電気を中核とするエネルギー分野をコア領域とし、情報通信事業は周辺事業領域と定めたうえで、既存資産を生かした通信サービスやソリューションで地域に密着した市場を開拓していた。周辺と呼ぶ事業を、資本の面では完全に抱え込む。株式交換は2004年3月に効力を生じ、同社は東北電力の完全子会社となった[12][13]。
結果
厚みを増した連結の輪郭
一連の取り込みで、東北電力の連結範囲は厚みを増した。2000年4月に第三者割当増資の引受で電気工事大手のユアテックを子会社とし、2003年10月に東北水力地熱、2004年3月に東北インテリジェント通信を加え、2005年4月にはグループの情報処理事業と電気通信事業を統轄していたコアネット東北を本体へ吸収合併した。2006年3月期の有価証券報告書では、企業グループは子会社48社・関連会社11社の計60社と記されている[14][15]。
取り込んだ会社は、事業系統図のうえでも別々の場所に並んだ。有価証券報告書の区分では、東北水力地熱は酒田共同火力発電や東星興業と同じ電気事業の側に、東北インテリジェント通信は東北インフォメーション・システムズと並ぶ情報処理・電気通信の側に置かれた。電気を中核とするコア領域と、その周りに広がる建設業・製造・情報通信・ガス・不動産という帯が、この時期のグループの形であった[16]。
12年後に中核へ移った電源
引き受けた2社は、その後さらに姿を変えた。東北水力地熱は2014年5月の株式取得で完全子会社となり、2015年7月に水力発電を担ってきた東星興業と合併して東北自然エネルギーが発足した。東北電力は合併の理由として、グループの再生可能エネルギー発電事業者のなかで両社の保有する発電所の出力など事業規模が大きい点を挙げ、太陽光と風力の発電事業も新会社へ一元化する方向を示した。再建支援として引き受けた地熱・水力の会社が、再生可能エネルギーの中核へ移った[17]。
東北インテリジェント通信は2023年4月にトークネットへ商号を変更し、法人向けの通信事業を担った。2025年3月期の有価証券報告書によれば、企業グループは子会社41社・関連会社27社の計69社で、報告セグメントは発電・販売事業、送配電事業、その他に分かれる。2004年に「周辺事業領域」と呼ばれた通信は、20年を経てもコアの外側、その他の区分に残った[18]。
- 東北電力 有価証券報告書 第101期(2025年3月期)【沿革】【事業の内容】
- 東北電力 有価証券報告書(2006年3月期)【提出会社の経営指標等】【事業の内容】【関係会社の状況】
- 東北電力 プレスリリース 2003年10月1日「東北水力地熱(株)の事業開始について〜日本重化学工業グループエネルギー部門の事業再建スキーム実行完了〜」
- 東北電力 プレスリリース 2004年1月29日「東北インテリジェント通信(株)の100%子会社化について」
- 東北電力 プレスリリース 2014年5月27日「当社企業グループにおける再生可能エネルギー発電事業の再編・統合について」
- 株式会社トークネット 会社案内「沿革」
- 週刊東洋経済 1998年6月6日号「[フラッシュ]電力各社にもデフレの足音」
- 週刊東洋経済 2003年11月8日号「[特集]EVAで見る最強の会社」
- 証券アナリストジャーナル 2000年12月号 別冊付録「企業:東北電力」(幕田圭一 副社長講演、2000年11月21日)