トリドールホールディングス持株会社への移行と、丸亀製麺に次ぐ業態の連続買収によるマルチブランド化

次の柱を自前で育てるか、買って束ねるか——丸亀製麺への依存をどう解こうとしたか

時期 2016年10月
意思決定者(推定) 粟田貴也 社長
論点 単一業態への依存と成長の担い手
概要
トリドールホールディングスは、うどんチェーン「丸亀製麺」の国内店舗網が飽和して既存店の食い合いに直面するなか、2016年10月に持株会社体制へ移行し、丸亀製麺に次ぐ柱を外部から取り込む買収を加速させた。2017年に立呑み居酒屋「晩杯屋」と豚骨ラーメン「ずんどう屋」、2018年に香港・シンガポール・米国の外食企業を相次いで子会社化し、国内外で複数業態を束ねるマルチブランド企業へと姿を変えた。
背景
丸亀製麺は郊外ロードサイド出店を軸に急拡大したが、国内が780店規模に達したあたりから既存店同士で商圏を食い合い、既存店売上高の前年割れが起きた。粟田貴也社長は、単一業態の完成度だけで成長を続ける形の限界を認め、次の担い手を国内の新業態と海外に求めた。
内容
2016年10月に商号を株式会社トリドールホールディングスへ改め、日本の店舗事業を子会社トリドール(のちのトリドールジャパン)へ承継させた。この体制を機に、既に繁盛している業態の運営会社を買ってスピードを取り込む方針で、国内の晩杯屋・ずんどう屋、海外の譚仔(Tam Jai)・MONSTER CURRY・Pokeworksなどを傘下に収めた。
含意
買った業態のすべてが軌道に乗ったわけではなく、2019年3月期は海外・国内で減損を計上して営業利益が前期の76億円から23億円へ落ち込んだ。もっとも束ねた業態は時間をかけて育ち、2025年3月期には海外事業の売上が1047億円へ伸びて主力の丸亀製麺(1281億円)に迫った。
筆者の見解

買って束ねた先に何を残したか

この一連の動きを単なる多角化と呼ぶと、芯を取り逃す。丸亀製麺は780店規模で既存店が食い合い、立て直しには社外の森岡毅氏の手を借りるところまで追い込まれていた。単一業態の完成度で駆け上がった会社が、その完成度だけでは次の成長を描けないと悟り、自前で新業態を育てる時間を買収で買いにいった点にこそ、この転換の中心があるとみられる。持株会社体制への移行は、丸亀製麺の運営と切り離して外から柱を取り込むための足場だったといえる。

もっとも、買って束ねることは、束ねたその年に果実を約束しない。買った業態のすべてが軌道に乗ったわけではなく、2019年3月期には減損で営業利益が76億円から23億円へ沈み、粟田社長自身が各企業を伸ばす段階だと言い直している。時間をかけて海外事業が丸亀製麺に迫る規模まで育ったのは、買収の巧みさよりも、その後の育成に資源と年月を割いた結果とみることができる。次の柱を買うと決めることと、買った柱を育て切ることは別の仕事であり、マルチブランド化の質はむしろ後者に表れるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

丸亀製麺一極で駆け上がった成長と、その頭打ち

トリドールは2000年に始めたセルフうどん「丸亀製麺」を成長エンジンに据え、郊外ロードサイドへの標準化された出店で規模を稼いだ。2006年2月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場し、上場した2006年3月期に単体で79億円だった売上高は、連結で2013年3月期には709億円まで積み上がった。低価格のセルフうどんを面的に増殖させる形が、短期間の急成長を支えていた[1]

拡大の速度には反動が伴った。丸亀製麺は2014年8月に全国規模のテレビCMを始めて売上高を伸ばしたが、国内店舗数が700店台半ばを超えたあたりから既存店同士が商圏を食い合い、前年割れが起きた。粟田貴也社長は2014年の取材で、既存店が落ち込むのが自らの計算より一年半から二年ほど早かったと述べ、国内1000店の目標は変えないとしつつ、会社の永続を担うのが丸亀製麺なのか、国内の新業態か、海外かという選択が重要になると語った[2]

マーケティング再生と、残された単一業態依存

丸亀製麺の立て直しそのものは、外部の力で進んだ。フェアメニューのCMに頼る集客が2018年に頭打ちとなると、粟田社長は最も信頼を寄せると語るマーケティング支援会社「刀」の森岡毅氏に再生を託した。2018年9月に始まった調査で、季節限定メニューのCMは来店頻度の低い客に届かず、創業以来の店内製麺という強みが世間にほとんど認知されていないと判明した。2019年1月末に店内製麺そのものを訴求するCMへ切り替えると、既存店売上高は同年5月以降ほぼ毎月前年を上回るまで戻った[3]

一業態の売上は戻っても、丸亀製麺だけに成長を頼る構図は残った。粟田社長は2019年の取材で、国内外で買収を続けてきたが丸亀製麺に次ぐ柱は育っていないと認め、第二・第三の業態は不可欠だと述べた。国内で200〜300店を展開できる業態を複数持ち、マルチブランドで世界に店を広げるという構想を示し、丸亀製麺への一極依存を解くことを次の成長の条件に据えた[4]

決断

持株会社体制への移行

丸亀製麺の成長が踊り場を迎えたことは、単一業態への依存という構造的な課題を表に出した。トリドールは2016年10月に持株会社体制へ移行し、商号を株式会社トリドールホールディングスへ改め、日本における店舗事業(本社機能を除く)を子会社トリドール(のちのトリドールジャパン)へ承継させた。事業を営む会社と、投資や買収を差配する親会社を分ける体制を敷いた点に、丸亀製麺の運営とは別に外部から柱を取り込む意図がうかがえる[5]

この体制への移行を機に、丸亀製麺に次ぐ柱を外部から買う動きが加速した。2017年8月に立呑み居酒屋「晩杯屋」を運営するアクティブソースを、同年12月には豚骨ラーメン「ずんどう屋」を運営するZUNDを子会社化し、国内の業態を一気に広げた。ずんどう屋については、丸亀製麺と同じく郊外に強い点が買収の大きな動機だったと、粟田社長はのちの説明会で述べている。自前で新業態を育てるのではなく、既に地域で支持を得た会社を取り込む形を選んだ[6][7]

国内外への連続買収とマルチブランド化

買収の矛先は海外にも及んだ。2018年には、香港でスパイシーヌードル「譚仔雲南米線」などを運営するTam Jai International、シンガポールを本拠に日本式カレー「MONSTER CURRY」を営む会社、米国でハワイ料理ポケの「Pokeworks」を展開する会社などを相次いで傘下に収めた。国内と海外の双方で異なる料理の業態を束ね、うどんの単一チェーンから複数ブランドを抱える外食企業へと構えを変えた[8]

連続買収の狙いを、粟田社長は時間を買うことだと説いた。海外では既に繁盛している業態を買収してスピードを取り込むと述べ、買った店がすべてうまくいくとは限らず、大局で成功すればよいという構えを示した。2025年度末までに売上収益3500億円(2018年度は1450億円)、店舗数は国内2300・海外3700を目標に掲げ、マルチブランドを世界へ広げる絵を描いた[9]

結果

買収の反動と、育てる段階への移行

規模を追う急拡大には反動が現れた。買った業態のすべてが軌道に乗ったわけではなく、2019年3月期は国内店舗や海外事業で減損損失を計上し、営業利益は前期の76億円から23億円へと落ち込んだ。粟田社長は2019年の取材で、買収が続いたので今は各企業を伸ばす段階だと述べ、取り込んだ業態を育てることへ力点を移したことを認めた。買って束ねる戦略は、束ねた先の育成という次の課題を残した[10][11]

コロナ禍による赤字を挟んでV字回復を遂げたのち、同社は成長一辺倒を戒める枠組みを整えた。2022年5月に2028年3月期を最終年度とする中長期経営計画を発表し、成長性だけを追えば会社が歪むとして、収益性・効率性・健全性のバランスを測るROICを重要指標に据えた。買収で束ねた業態は時間をかけて実り、2025年3月期には海外事業の売上が1047億円へ伸びて、主力の丸亀製麺の1281億円に迫る規模へ育った[12][13]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2014年8月23日号「この人に聞く トリドール社長 粟田貴也 うどん業態で1000店 その目標は変えない」
  • 週刊東洋経済 2019年12月14日号「トップに直撃 トリドールホールディングス 社長 粟田貴也 丸亀製麺に次ぐ業態を複数持つ必要がある」
  • 週刊東洋経済 2020年2月29日号「特集 外食 頂上決戦 PART1 新しい勝ち組 脱「勘頼み」の経営 V字回復の仕掛け人」
  • トリドールホールディングス 2022年3月期 決算説明会 質疑応答
  • トリドールホールディングス 有価証券報告書【沿革】
  • トリドールホールディングス 有価証券報告書(2006年3月期〜2025年3月期・連結・IFRS)

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