伊藤忠エネクス大阪カーライフグループの買収による自動車ディーラー事業への参入

燃料を売る会社にとどまるか、車そのものを売る会社になるか——給油所網を持つエネルギー商社の選択

時期 2014年4月
意思決定者(推定) 岡田賢二 社長
論点 自動車関連事業への本格参入
概要
2014年4月17日、伊藤忠エネクスは取締役会で大阪カーライフグループの発行済株式200株(51.95%)の取得を決議し、5月27日に株式譲渡を完了した。日産大阪販売を傘下に持つ持株会社を子会社とし、自動車ディーラー事業へ参入した。
背景
同社のカーライフ部門は約2,200カ所の系列CSを通じてガソリンや軽油を売る燃料卸が中心で、「SSからCSへ」を掲げ車まわりのサービスを広げていた。売り手側の大阪カーライフグループは、投資ファンドと日産ネットワークホールディングスが2009年に設立した持株会社であった。
内容
取得価額は普通株式が60億円、アドバイザリー費用等の概算を含めた合計が61億円。対象の日産大阪販売は日産系列で売上高約1,000億円の全国最大規模かつ大阪府下唯一のディーラーで、車の販売から整備・保険代理・中古車販売までを手がけていた。
含意
燃料の販売とCS運営という枠を超え、車を売る段階から手がける事業構造へ移った。カーライフ事業は2025年3月期に全社売上の68%・営業利益の43%を占める最大の柱となり、2024年のWECARS取得へ続く自動車領域の拡大につながった。
筆者の見解

燃料が減る時代に、何を売る会社であるか

給油所を持つ会社が自動車ディーラーを買うという判断は、事業の連続性という点では理解しやすい。同じ顧客に対して、燃料を売るか、車を売るかの違いにすぎないからである。ただ、その選択が意味するところは軽くない。燃料の卸売は仕入と販売の差で稼ぐ商売で、扱う量が業績を決める。対して車の販売は在庫と店舗と人員を抱える小売であり、収益の作り方も必要な経営の技術も異なる。61億円という金額の小ささに比べて、会社の性格に与えた影響は大きかったとみることができる。

背景には、燃料そのものの先細りという避けがたい前提が横たわっている。給油所で売る量が減っていくなら、同じ顧客からより多くの取引を得るか、別の商品を売るしかない。2001年に社名から「燃料」を外した会社が、2014年に車そのものを売る立場へ移り、2024年には中古車販売まで抱えたのは、その筋道に沿った動きにみえる。もっとも、車の販売もまた保有台数と買い替え需要に左右される事業である。エネルギー商社を名乗る会社が売上の7割近くを自動車小売から得る状態を、どこまで進めるか——その判断は、なお先送りされている問いであるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

給油所を「カーライフステーション」と呼び替えた会社

買収前の伊藤忠エネクスにとって、車に関わる事業とは燃料を売ることであった。カーライフ部門はホームライフ、電力・ユーティリティ、エネルギートレードと並ぶ主要部門で、エネルギー商社として国内で最大規模となる約2,200カ所の系列CS(カーライフステーション)を通じ、ガソリンや灯油、軽油を販売していた。給油所をSS(サービスステーション)ではなくCSと呼び替え、車にまつわる総合的なサービスを提供することで販売店の収益を高める方針を掲げていた[1][2]

車まわりの商売に手を伸ばす試みは以前からあった。1998年4月にタイヤ・カー用品の小売である「チコマート」事業を分社したものの、2001年11月には株式を売却して手を引いている。2005年7月に小倉興産自動車整備の株式を取得し、2007年4月には伊藤忠商事から目黒エネルギー販売の株式を譲り受けて、車検や中古車の買取販売を担う会社を傘下に置いた。ただ、いずれも給油所に隣接する整備・用品の領域にとどまり、車そのものを売る商売には届いていなかった[3][4]

売り手はファンド、対象は日産系最大のディーラー

対象となった大阪カーライフグループは、日産大阪販売の発行済株式をすべて持つ持株会社であった。2009年11月10日にNMC2007投資事業有限責任組合と日産ネットワークホールディングスによって設立され、資本金は3億1,000万円。株主構成はNMCファンドが51.95%、日産ネットワークホールディングスが46.75%、その他が1.30%であった。傘下の日産大阪販売は、日産車の販売のほか車検・法定点検・修理といった整備、部品販売、各種保険代理店業務、中古車販売を手がけていた[5]

事業の規模も小さくない。2013年3月期の大阪カーライフグループの連結売上高は1,059億円、連結営業利益は27億円、連結当期純利益は25億円であった。日産系列のディーラーとしては全国最大規模で、大阪府下では唯一の日産販売会社にあたる。設立から5年近くを経て、投資ファンドが過半の株式を保有し続けている状態でもあった。買い手を探す側と、車の販売網を欲しがる側の事情が、この時期に重なった[6][7]

決断

200株の過半を60億円で買う

2014年4月17日、伊藤忠エネクスは取締役会で大阪カーライフグループの発行済株式200株、発行済株式総数の51.95%を取得して子会社とすることを決議し、同日、NMC2007投資事業有限責任組合との間で株式譲渡契約を結んだ。取得価額は守秘義務契約を理由に契約時点では開示されず、譲渡の実行後に公表する扱いとなった。当初の譲渡実行予定日は5月30日であったが、実際には3日早い5月27日に完了している[8][9]

譲渡完了の開示で明らかになった取得価額は、普通株式が60億円、アドバイザリー費用等の概算が1億円で、合計の概算は61億円であった。売上高1,000億円規模のディーラーの経営権を、同社の2014年3月期の連結売上高1兆5,066億円に対して1%に満たない金額で取得したことになる。過半をわずかに超える51.95%という比率は、日産ネットワークホールディングスが46.75%を持ち続ける構図をそのまま残したうえで、連結子会社としての支配を確保する形にあたる[10][11]

燃料販売とCS運営の枠を超える

会社が示した取得の理由は明快であった。この取り組みはカーライフ部門が燃料等の販売とCS運営事業の枠組みを超え、自動車関連事業に本格参入するものであり、部門が掲げる「カーライフ・バリューチェーンの強化」と「バリューチェーン全体の付加価値向上」に資すると説明している。給油所で燃料を売る立場から、車を売り、整備し、保険を扱い、下取りして再び売る一連の工程へ入っていく構えを、開示の文面がそのまま表していた[12]

実務の面では、大阪府と兵庫県に広がる大阪カーライフの107店舗と、自社系列の約150店の給油所を組み合わせる案が示された。車を買った顧客にガソリンの値引きや洗車を提供すれば、車の販売と燃料の販売の双方で同じ顧客をつなぎとめられるという読みであった。買収によってグループには約2,000人が新たに加わっている。従業員規模でも、燃料卸を中心としてきた会社にとっては大きな受け入れであった[13][14]

結果

カーライフ事業が最大の柱になる

買収から4年後の2018年4月、伊藤忠エネクスは事業セグメントをカーライフ、ホームライフ、産業ビジネス、電力・ユーティリティの4部門制へ再編し、ディーラーを含む自動車関連事業をカーライフ事業として括り直した。2019年3月期のカーライフ事業の売上は6,243億円で、全社売上1兆71億円の62%を占めている。燃料卸と自動車販売をひとつのセグメントに束ねた結果、会社の売上の過半が車に関わる商売から生まれる構図になった[15]

比重はその後さらに高まった。2025年3月期のカーライフ事業の売上は6,300億円で、全社売上9,245億円の68%にあたる。営業利益でも同事業は115億円を稼ぎ、全社営業利益269億円の43%を占めた。売上の総額が会計基準の変更で圧縮されたことを差し引いても、燃料卸の一部門にすぎなかった領域が、売上でも利益でも会社の中心に据わったことになる。2014年の60億円の投資が、売上と利益の出どころを燃料卸から自動車事業へ移した[16]

アフターマーケットから中古車販売へ

自動車領域の買い足しは、その後も続いた。2023年8月には、リース車両などのメンテナンス受託管理を手がけるナルネットコミュニケーションズを、持分法適用会社のMobility & Maintenance Japanを通じて取得している。新車を売った後の整備・管理という領域を押さえる投資であった。給油所での燃料販売、ディーラーでの新車販売、整備とメンテナンスという工程が、この時点で一通りグループの内側に並んだ[17]

2024年5月には、伊藤忠商事および再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズとの3社共同出資でWECARSの株式を取得し、保険金の不正請求で経営が揺らいだビッグモーターの全国約250店舗の中古車販売事業を会社分割で承継した。買収額は伊藤忠グループとジェイ・ウィル・パートナーズ合わせて約400億円で、伊藤忠グループは約50人の社長・幹部を送り込んでいる。大阪カーライフの取得から10年を経て、新車から中古車までを扱う体制が整った[18][19]

出典・参考

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