ローツェイアス子会社化を含む連続買収による半導体周辺装置とライフサイエンスへの多角化
半導体搬送が最高益のさなか、なぜ周辺・異分野の買収で幅を広げたか——藤代祥之社長の多角化
- 概要
- 半導体ウエハ搬送ロボットで世界的なシェアを持つローツェは、業績が最高益圏に達した2023年から2024年にかけ、周辺領域と異分野の買収を相次いで進めた。2023年3月に半導体向け分析・洗浄装置のイアスを29億8800万円で完全子会社化し、2024年には米国の半導体装置スタートアップNanoverse Technologiesと、創薬向け研究受託のジェノスタッフを子会社化した。2017年のライフサイエンス参入から4件のM&Aで、単一事業からの多角化を進めた判断であった。
- 背景
- ローツェの主力である半導体・FPD関連装置は、世界の半導体投資の波に高い感応度を示す。ピークの2008年2月期に136億円あった売上は、リーマンショック後の2010年2月期に36億円へ沈み、経常損失10億円を計上した。装置を売って終わる収益構造の弱さが表れ、受注変動に左右されにくい収益源を周辺へ広げる必要が経営に残った。
- 内容
- 藤代祥之社長は、最高益を元手に周辺と異分野へM&Aを重ねた。半導体分析・洗浄のイアスは、既存株主から議決権の52%を現金で取得し残る48%を株式交換で得て完全子会社とした。米Nanoverseは第三者割当増資の引き受けで、創薬向けのジェノスタッフはローツェライフサイエンスを通じて子会社化した。
- 含意
- 買収により事業は半導体・FPD関連装置とライフサイエンスの二軸へ広がったが、ライフサイエンスは連結売上のなお小さな部分にとどまる。半導体本体は2025年2月期に売上1,244億円と最高を更新しており、多角化が収益の第二の柱へ育つかは今後の投資局面を待つ段階にあるとみられる。
好況のさなかに周辺を買う理由
最高益のただ中で異分野を買い集めた動きは、余裕のある会社の分散投資のようにも映る。だが芯にあるのは、余裕ではなく記憶だとみられる。装置を売って終わる収益は、2010年2月期に売上を9割方失い経常損失に転じたとき、その脆さを一度さらしている。受注が細れば利益がそのまま痩せる構造を身をもって知っているからこそ、業績が跳ねている今のうちに、保守や研究受託のように循環に左右されにくい収益源を周辺へ仕込んでおく——イアスの分析・洗浄も、ジェノスタッフの研究受託も、その延長にあるとみることができる。
もっとも、仕込んだ多角化がすでに実を結んだとは言い難い。ライフサイエンスは2018年2月期に連結売上の1%に満たず、その後も本体を補う柱には距離がある。米Nanoverseも2022年設立の新興で、装置が量産へ乗るかは先の話にとどまる。4件のM&Aは事業の輪郭を広げたが、収益の第二の柱と呼べるところまでは育っていない。装置売り切りの弱さに備えた布石が効くかどうかは、次に半導体投資が細る局面まで測れないのかもしれない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
装置売り切り型が抱えた収益の振れ
ローツェの主力は、半導体やFPDの製造工程で使うウエハ搬送ロボットである。この事業は世界の半導体投資の波を鋭く映し、好況で売上が跳ね、後退局面では急速にしぼむ。ピークの2008年2月期に136億円あった連結売上は、リーマンショックを経た2010年2月期に36億円まで沈み、経常損失10億円を計上した。装置を納めれば取引が一巡する構造の弱さが、この落ち込みで表面化した[1]。
半導体投資の振れ幅は、ベトナム量産を軸にした低コスト体質と高い営業利益率である程度は吸収できていた。それでも、装置を売って終わる収益では保守や消耗品による安定収入が薄く、受注が細れば利益がそのまま痩せる。受注変動に左右されにくい収益源を本業の周辺へ広げておく——この課題が、崎谷文雄氏から創業家を継いだ藤代祥之社長のもとで多角化の動機として残っていた[2]。
先に置いたライフサイエンスの布石
多角化の最初の芽は、半導体で培ったクリーン搬送と精密制御を医療分野へ転じるところにあった。2015年10月に自動培地交換機能を備えた細胞培養装置「CellKeeper」、2016年11月に細胞自動培養CO2インキュベータ「SCALE48」を発表し、2017年3月には茨城県つくば市の関連会社を完全子会社化してローツェライフサイエンスへ改称した[3]。これで事業は半導体・FPD関連装置とライフサイエンスの二軸となった。
もっとも、この二軸は名目のうえでのものにとどまっていた。2018年2月期のライフサイエンスは連結売上の1%に満たず、事業は育成の段階を出なかった。装置技術の転用という筋は通っていたが、規模で本体を補う柱には遠い。周辺と異分野をどう束ねて厚みを持たせるかは、内製の製品開発だけでは埋めきれず、外部の企業を取り込む道が視野に入っていた[4]。
決断
最高益を元手にしたイアス子会社化
AI・先端半導体への投資が世界で加速すると、ローツェの業績は上場以来の高水準へ駆け上がった。2023年2月期は連結売上945億円・営業利益264億円と最高益圏に達し、2022年4月には東証プライム市場へ移っていた。この体力を元手に、藤代祥之社長は本業の周辺へM&Aを向けた。2023年3月、半導体製造工程向けの分析・洗浄装置を手がけるイアス(東京都日野市、現ローツェイアス)を完全子会社化した[5]。
イアスは、ICP-MS向けの部品・周辺機器や金属分析前処理装置を手がけ、売上高28億8000万円・営業利益5億8900万円を上げていた。取得価額は29億8800万円で、既存株主から議決権の52%を現金で取得し、残る48%を株式交換比率1対396の株式交換で得て完全子会社とした。半導体製造工程の微細化に対応し、搬送ロボットに分析・洗浄の技術を組み合わせる提案力を強める狙いであった[6]。
米新興と創薬向けへ広げた二正面
2024年に入ると、買収は半導体の先端領域と創薬向けへ同時に伸びた。6月、米オレゴン州のNanoverse Technologiesの第三者割当増資を約110億円(7000万ドル)で引き受け、出資比率33%ながら関連会社と合わせて過半を握る実質支配で連結子会社とした。同社は2022年設立の新興で、半導体チップを高密度に実装するアドバンストパッケージ向けの装置を開発し、ローツェの搬送装置を組み込む見通しにあった[7][8]。
続く9月、ローツェライフサイエンスが創薬向け研究受託のジェノスタッフ(東京都文京区)を完全子会社化した。ジェノスタッフは組織染色や遺伝子機能解析の研究受託、ISH関連商品の販売を手がけ、細胞関連分野で創薬研究やアカデミアのニーズに応える会社であった。イアス、Nanoverse、ジェノスタッフの3件に2017年の参入を合わせ、ライフサイエンス参入以来4件のM&Aで、創業時の単一事業からの多角化が形をとった[9][10]。
結果
本体が牽引し、育成が続く二軸
連続買収のあとも、ローツェの成長を牽引したのは半導体本体であった。2025年2月期は連結売上1,244億円・営業利益320億円・純利益236億円と上場後の最高を更新し、多極の生産網が先端半導体投資のピークを受け止めた。周辺で取り込んだイアスの分析・洗浄技術は、搬送ロボットと束ねて半導体顧客への提案力を厚くする方向で本体と融合した[11]。
一方で、ライフサイエンスは連結のなお小さな部分にとどまる。研究受託のジェノスタッフや細胞培養装置は、市場としては育ちの途上にあり、半導体本体を補う第二の柱には距離がある。買収で事業の輪郭は広がったが、規模の拡大と、創業家への持株集中のもとでの次の承継の設計が、藤代祥之社長の課題として残されている[12]。