アマダ超大型プレス機のエイチアンドエフと基板穴あけ加工機のビアメカニクスの連続取得
合計687億円を1年のうちに投じて、アマダは自社の何を金で埋めようとしたか
- 概要
- 2025年、アマダがカナデビア傘下の総合プレス機械メーカー・エイチアンドエフを177億円で、投資ファンド傘下で基板穴あけ加工機を手がけるビアメカニクスを510億円で、相次いで完全子会社化した経営判断。山梨貴昭社長のもとで同社として過去最大級の買収となった。
- 背景
- 2024年3月期に過去最高益を出した後、2025年3月期は中国市況の悪化で減益に転じた。アマダは「長期ビジョン2030」と「中期経営計画2025」のもとで、自社のレーザ技術による新領域拡大をe-Mobility・半導体・医療へ広げる方針を掲げ、M&Aによる事業拡大を探っていた。
- 内容
- 1月にカナデビアと契約し、500トンの大型から3,000トン超の超大型プレスを手がけるエイチアンドエフを取得。4月にはアドバンテッジパートナーズのファンドと契約し、1968年に日立製作所の工作機部門から独立したビアメカニクスを取得した。実行はそれぞれ5月と7月であった。
- 含意
- 1970年代の連続買収が経営不振の同業を引き受ける救済であったのに対し、2025年の2件はいずれも黒字企業で、自社に欠けていた寸法と精度を買っている。2026年3月期は売上・受注とも過去最高となったが、無形資産の償却費などで営業利益は減益に転じた。
半世紀前の買収と、逆を向いた動機
1973年から1977年にかけて天田勇氏が淀川プレス製作所や園池製作所を系列へ収めたとき、金で買っていたのは工場用地と設備と人であった。新工場を建てるより安く即戦力になるという計算で、相手はいずれも経営不振に陥っていた。2025年の2件は動機が逆を向いている。エイチアンドエフは2024年3月期に209億円、ビアメカニクスは433億円を売り上げており、救済の対象ではない。買ったのは自社に欠けていた寸法、すなわち3,000トンを超える超大型と、ハイエンド基板の微細な穴あけという精度であった。
ただ、687億円という値付けが妥当だったかは、まだ判定できない。2026年3月期は売上と受注が過去最高に達しながら、ビアメカニクス関連の償却費が営業利益を押し下げている。半世紀前の買収は、相手の累積欠損を消して復配させれば成果が目に見えた。領域を金で埋める買い物は、自社のレーザ技術との噛み合わせが差別化商品として現れるまで答えが出ない。板金加工機で貯めた稼ぐ力を成長分野の入場券に換えたその換算率が読めるのは、新中期経営計画が終わる2030年度あたりになるとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
過去最高の翌年に来た減益
2024年3月期のアマダは、売上収益4,035億円・営業利益565億円と過去最高を計上していた。ところが翌2025年3月期は売上3,966億円・営業利益491億円へ後退する。中国市況の悪化が効いた。板金加工機の国内需要は成熟し、レーザ加工機と自動化装置に伸びる余地はあっても、既存の商品を並べたままで規模を積み増す道は細くなっていた。連結従業員は8,997人を数え、この規模を養う次の稼ぎ口が要った[1]。
会社が置いていた方針は、この成熟を前提にしていた。アマダグループは2030年に目指す姿として「長期ビジョン2030」を掲げ、2025年度を最終年度とする3カ年の「中期経営計画2025」を進めていた。そのなかで自社の資産であるレーザ技術による新領域拡大を長期成長戦略の最も重要な活動の一つに置き、高い成長率が見込めるe-Mobility・半導体・医療といった分野への進出を目標に据える。レーザ技術を活かしたM&Aによる事業拡大も、あらかじめ探っていた[2]。
プレスと半導体、二つの欠け
プレス機には品ぞろえの欠けがあった。グループのアマダプレスシステムは小型・中型を主力とし、2024年3月期の売上は204億円で、国内シェアは3位であった。4位のエイチアンドエフは500トンの大型から3,000トンを超える超大型のプレスマシンを手がけ、プレス間搬送装置やオートパレタイザといった周辺装置、プレスラインをまとめて設計するノウハウ、自動車業界と機械商社の顧客基盤を持っていた。主力の大型機の客は自動車産業のトップメーカーであった[3][4]。
半導体の側には、そもそも足場がなかった。スマートデバイスの小型化・高機能化とデータセンター向けの需要急増を受け、製造工程には急速な微細化と短納期化が求められていた。高性能半導体を載せるハイエンド基板では、回路を細くするために導通穴の増加と小径化、基板の多層化、材料の多様化が進み、それを支える手段として様々なレーザ加工に注目が集まる。アマダが手元に持つレーザ技術を、この需要へどう接続するかが未解決のまま残っていた[5]。
決断
177億円で買った「超大型」
2025年1月24日、アマダはカナデビアとの間で、同社が全株を保有するエイチアンドエフの発行済株式すべてを取得する株式譲渡契約を締結した。取得価格は177億円。エイチアンドエフは福井県あわら市に本社を置く1964年設立の会社で、2024年3月期の売上は209億円、従業員は398人であった。これによりアマダは小型から超大型までプレスマシンを揃え、金属加工のトータルコーディネートが可能になると説明した。実行は当初、4月1日を予定していた[6][7]。
山梨貴昭社長は、この取得を「長期ビジョンに掲げる既存事業の再編と進化による成長路線の一環として決断した」と述べた。国内シェア3位のアマダプレスシステムと4位のエイチアンドエフが合流すれば、トップシェアをうかがう足掛かりになるという読みであり、EVシフトで新たな成長が見込まれる自動車市場の開拓も大きな目的だと語っている。実行日は国内の独占禁止法手続の審査が長引き、3月26日に5月1日へずらされた。取得価額その他の条件に変更はなかった[8][9]。
510億円で買った「微細」
3カ月後の2025年4月17日、アマダはアドバンテッジパートナーズがサービスを提供するファンドとの間で、ビアメカニクスの発行済株式すべてを取得する契約を締結した。取得価格は510億円で、株式譲渡は同年7月を予定した。ビアメカニクスは1968年に日立製作所の工作機部門が分離・独立した会社で、その後の選択と集中を経てハイエンド基板穴あけ加工機のメーカーへ育っていた。2024年3月期の連結売上は433億円、従業員は562人であった[10][11]。
狙いは技術の噛み合わせに置かれた。ビアメカニクスは、基板の貫通穴には超高速スピンドルと高速高精度テーブルサーボ技術を載せたドリル穴あけ機、積層工程の止まり穴には高速高精度ガルバノ技術を載せたレーザ穴あけ機を供給していた。アマダは自社のレーザ技術・自動化装置・グローバルな生産供給体制との親和性が非常に高いとみて、微細溶接事業のレーザ加工システムによるウエハーへのマーキングや樹脂モールドのバリ取りなど、半導体製造の後工程装置向けの提案でもシナジーが見込めると判断した[12]。
結果
過去最高の売上と、償却費の重さ
買収の翌期にあたる2026年3月期、アマダの売上収益は前期比10.3%増の4,373億円、受注高は4,569億円で、いずれも過去最高となった。米国を中心とするAI・データセンター関連の投資が伸びてサーバーラック向けの需要が膨らみ、そこにエイチアンドエフとビアメカニクスの連結が加わった。連結従業員は9,872人へ増えている。一方で営業利益は8.7%減の447億円、当期利益は5.7%減の305億円と減益に転じた[13][14]。
減益の内訳には、買収の代価が入っていた。米国の関税政策が既存事業に及び、労務費が上がり、そこに2025年に子会社化したビアメカニクス関連の償却費が乗った。会社は2026年5月、経営管理を6つのビジネスユニット体制へ組み替え、2026年度から2030年度の新中期経営計画「Transform to AMADA 2030」を掲げる。2027年3月期は売上収益4,600億円・営業利益480億円と、増収増益に戻す計画を置いた[15][16]。
- アマダ ニュースリリース 2025年1月24日「総合プレス機械メーカーを買収」
- アマダ ニュースリリース 2025年4月17日「基板穴あけ加工機のリーディングカンパニーを買収」
- アマダ 適時開示 2025年3月26日「(開示事項の変更)株式会社エイチアンドエフの株式の取得(子会社化)及び一部事業の譲受に関するお知らせ」
- 日本経済新聞(2025年1月24日)「アマダ、カナデビアのプレス機子会社を買収 177億円で」
- 日本経済新聞(2025年4月17日)「アマダ、半導体レーザー加工機製造を510億円で買収 元日立系」
- 日本経済新聞(2026年5月)「アマダの2026年3月期、純利益4.3%減 予想平均下回る」
- MONOist(2026年5月18日)「データセンターが過去最高に貢献も、アマダは体制変更で新中計へ」
- 神奈川新聞(カナロコ, 2025年)「アマダ・山梨貴昭社長 過去最大級M&Aの狙い聞く」
- アマダ 有価証券報告書(2025年3月期・連結・IFRS)