米Resonant社ののれん減損(2022年・村田製作所の決断)

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論点技術の欠落を買収で補うか
村田製作所:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
XBAR技術の取得をねらった買収と、のれん438億円が消えた結末

何をなぜ決めたか:XBAR技術の取得をねらった買収と、のれん438億円が消えた結末

概要

2022年3月28日(現地時間)、村田製作所の米子会社Murata Electronics North America, Inc.が米Resonant社の全発行済株式を取得し、100%子会社とした経営判断。買収金額は354億24百万円で、そのうち347億21百万円がのれんとなった。会社は2026年2月の決算説明会で、Wi-Fi7やFR3など3ギガヘルツ以上の周波数帯に備えてXBAR技術を獲得したと、買収の目的を振り返っている。

背景

有価証券報告書はResonant社を、RFフィルタの設計で先頭を走る会社と紹介した。独自のXBAR技術については、拡大していく高周波帯で高減衰・低損失・急峻性を高い水準で両立し、5Gなどの無線通信に欠かせないと記した。村田製作所の手元にあったのはセラミックLCフィルタ、SAWフィルタ、TC-SAW、I.H.P. SAWフィルタで、会社はこれらでは新しい周波数に届かないと見ていた。

内容

買収の理由として有価証券報告書が挙げたのは、SAWフィルタやI.H.P. SAWフィルタで蓄えたフィルタとプロセスの技術、モノづくりの力をXBARと組み合わせ、より優れた高周波フィルタで通信市場での首位の座を固めることだった。受け入れた無形資産の中心は耐用年数13年の技術49億92百万円で、のれんは全額を当時の「コンポーネント」セグメントに配分した。その後、2026年3月期にXBAR技術を用いた高周波フィルタを世界で初めて商品化している。

含意

2026年3月期、表面波フィルタ製品に係る事業ののれん437億98百万円を減損損失として計上した。有価証券報告書は、通信市場の高周波化が当初の想定より緩やかで、回収可能価額が帳簿価額を下回ったためと説明する。会社は決算説明会で、中華圏の競合の台頭による表面波フィルタの収益性の悪化と、FR3の本格量産が2030年以降にずれる見通しの二つを理由に挙げた。前期にもMEMS慣性力センサ事業の設備等で103億52百万円を減損していた。

いつ何が起きたか7件
当時の取締役12名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 村田恒夫:会長
  • 中島規巨:社長
  • 岩坪浩:専務執行役員
  • 宮本隆二:常務執行役員
  • 南出雅範:常務執行役員
  • 重松崇:取締役
  • 山本高稔:取締役(監査等委員)
  • 小澤芳郎:取締役(監査等委員・常勤)
  • 神林比洋雄:取締役(監査等委員)
  • 安田結子:取締役
  • 石谷昌弘:常務執行役員
  • 宗像直子:取締役(監査等委員)
考察:技術は買収で得られても、時期は得られない
考察

考察:技術は買収で得られても、時期は得られない

のれんを4年で全額落としても、XBARの技術は手元に残り、2026年3月期には世界初の商品化にこぎつけた。会社が挙げた減損の理由は、FR3の本格量産が2030年以降へずれる見通しと、表面波フィルタが中華圏の競合にシェアを侵食されて収益性を落としたことの二つである。技術の選び方より、周波数の世代交代がいつ来るかという読みの方が外れた形だ。会社自身も、同業の多くが持つBAWフィルタの技術水準が上がり、XBARとぶつかる場面が増加したことを、買収当時の狙いとの違いに挙げている。

気になるのは、同じ形の外し方が続いていることである。2024年3月期には円筒形リチウムイオン二次電池の設備等を494億82百万円、2025年3月期にはMEMS慣性力センサ事業の設備等を103億52百万円減損した。どちらも需要の拡大を見据えて増産投資を先に積み、その需要が想定より緩やかにしか来なかった。買収や増産投資で時間を縮めることはできても、技術が実を結ぶ時期までは買えないのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る2表

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図と表

村田製作所:連結のれんの帳簿価額とのれんの減損損失

のれん(百万円)のれんの減損損失(百万円)
村田製作所:連結のれんの帳簿価額とのれんの減損損失
(百万円)のれんのれんの減損損失備考
2017年3月期62,1020
2018年3月期76,9140
2019年3月期78,3890
2020年3月期73,0323,934「モジュール」セグメントの一部の報告単位で収益性が低下したため計上
2021年3月期71,0583,554前期に続き「モジュール」セグメントの一部の報告単位で計上
2022年3月期118,0140Resonant社で347億21百万円、Eta Wireless社で65億37百万円ののれんを認識
2023年3月期123,2470第88期からIFRS会計基準。組替前の米国会計基準では1,268億39百万円
2024年3月期137,1440円筒形リチウムイオン二次電池の設備等で494億82百万円を減損。のれんは対象外
2025年3月期135,7460表面波フィルタ事業ののれんは424億86百万円。MEMS慣性力センサの設備等を103億52百万円減損
2026年3月期99,48943,798表面波フィルタ事業ののれんを全額減損。連結の減損損失は504億14百万円
出所:村田製作所 有価証券報告書 第81〜87期【のれん及びその他の無形資産】各事業セグメントののれんの帳簿価額の変動(米国会計基準) / 村田製作所 有価証券報告書 第88〜90期【減損損失】【のれんの減損】(IFRS会計基準)
出所:村田製作所 有価証券報告書 第81〜87期【のれん及びその他の無形資産】各事業セグメントののれんの帳簿価額の変動(米国会計基準) / 村田製作所 有価証券報告書 第88〜90期【減損損失】【のれんの減損】(IFRS会計基準)

買収と減損の条件

買収と減損の条件
科目概要備考
被取得会社と事業の内容Resonant Inc.(米国)RFフィルタのデザインに関するリーディングカンパニー。子会社1社とともに連結子会社となった
企業結合を行った主な理由自社のフィルタ技術とXBAR技術の融合SAW・I.H.P. SAWで培った技術とモノづくり力を融合させ、優れた高周波フィルタを提供するため
企業結合日2022年3月28日(現地時間)取得したのは村田製作所の米子会社Murata Electronics North America, Inc.
企業結合の法的形式全発行済株式の取得Resonant社はMurata Electronics North America, Inc.の100%子会社となった
取得した議決権比率100.0%全額が間接所有。企業結合前から保有していた持分の公正価値は15億22百万円
買収金額354億24百万円既保有持分15億22百万円を加えた取得した純資産は369億46百万円。会社の説明は350億円
取得関連費用6億17百万円連結損益計算書の販売費及び一般管理費に含まれる
受け入れた資産415億97百万円のれん347億21百万円・無形資産50億24百万円・現預金11億88百万円・有形固定資産3億26百万円
引き継いだ負債46億51百万円流動負債33億68百万円・固定負債12億83百万円
受け入れた無形資産49億92百万円(技術)耐用年数13年。無形資産の合計は50億24百万円
のれんの金額と処理347億21百万円償却せず年1回減損テスト。当時の「コンポーネント」セグメントへ全額を配分。損金算入できない
既存持分の評価益8億97百万円連結損益計算書の「その他(純額)」に含まれる。公正価値は主にResonant社の株価で測定
のれんの減損額437億98百万円(全額)2026年3月期に計上。帳簿価額は為替換算により取得時の347億21百万円から増加していた
減損を計上したセグメントデバイス・モジュール資金生成単位は同セグメントを構成する表面波フィルタ製品に係る事業
減損に至った理由通信市場の高周波化の遅れ高周波化が当初の想定よりも緩やかな状況の中で回収可能価額が帳簿価額を下回ったため
使用価値の前提割引率11.1%・成長率1.5%経営者が承認した今後5年以内の事業計画が基礎。割引率・成長率とも前期と同じ
出所:村田製作所 有価証券報告書 第86期(2022年3月期)【企業結合】・第90期(2026年3月期)【減損損失】
出所:村田製作所 有価証券報告書 第86期(2022年3月期)【企業結合】・第90期(2026年3月期)【減損損失】
当時の取締役12名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 村田恒夫:会長
  • 中島規巨:社長
  • 岩坪浩:専務執行役員
  • 宮本隆二:常務執行役員
  • 南出雅範:常務執行役員
  • 重松崇:取締役
  • 山本高稔:取締役(監査等委員)
  • 小澤芳郎:取締役(監査等委員・常勤)
  • 神林比洋雄:取締役(監査等委員)
  • 安田結子:取締役
  • 石谷昌弘:常務執行役員
  • 宗像直子:取締役(監査等委員)
参考文献

参考文献

参考
  • 村田製作所 有価証券報告書 第86期(2022年3月期)【連結財務諸表注記】企業結合
  • 村田製作所 2026年3月期 第3四半期決算説明会 質疑応答(2026年2月2日)
  • 村田製作所 有価証券報告書 第90期(2026年3月期)【研究開発活動】
  • 村田製作所 有価証券報告書 第90期(2026年3月期)【連結財務諸表注記】減損損失
  • 村田製作所 有価証券報告書 第89期(2025年3月期)【連結財務諸表注記】減損損失
  • 村田製作所 有価証券報告書 第81〜87期【のれん及びその他の無形資産】各事業セグメントののれんの帳簿価額の変動(米国会計基準)
  • 村田製作所 有価証券報告書 第88〜90期【減損損失】【のれんの減損】(IFRS会計基準)
  • 村田製作所 決算説明会質疑応答「2026年3月期 第3四半期決算説明会」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第85期(2021年3月期)【役員の状況】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第86期(2022年3月期)【企業結合】【のれん及びその他の無形資産】【研究開発活動】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第87期(2023年3月期)【企業結合】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第89期(2025年3月期)【減損損失】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第90期(2026年3月期)【減損損失】【のれんの減損】【研究開発活動】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第81期・第83期・第85期・第88期【のれん】」

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