日水製薬の買収(2022年・島津製作所の決断)

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論点臨床検査の試薬へ買収で参入するか
島津製作所:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
公開買付けによる取得と、体外診断薬・臨床検査領域への参入

何をなぜ決めたか:公開買付けによる取得と、体外診断薬・臨床検査領域への参入

概要

2022年5月31日、島津製作所は取締役会で臨床診断薬メーカーの日水製薬に対する公開買付けの実施を決議した。買付価格は1株1,714円で、前日終値990円に73.13%のプレミアムを乗せた。公開買付けは6月17日から7月28日まで行い、9月29日に日水製薬を連結子会社とし、11月15日を効力発生日とする株式併合により完全子会社として、体外診断薬・臨床検査領域へ参入した。

背景

島津は分析計測機器を連結売上のおよそ6割を占める主軸とし、医用機器ではX線診断装置を手がけていたが、体外診断薬や臨床検査そのものの事業基盤は持っていなかった。日水製薬とは2015年に臨床検査事業で業務提携を締結しており、計測技術を臨床市場へ広げる相手として関係を積み重ねていた。

内容

日本水産が保有する12,106,202株(54.06%)を除く10,288,054株を公開買付けで取得することとし、買付代金は176億3,372万円を見込んだ。日本水産の保有株は、日水製薬自身による自社株公開買付けで買い取る二段構えとした。実際の取得原価は168億67百万円で、アドバイザリー費用等の取得関連費用が4億67百万円、のれんが28億94百万円発生した。取得後、商号を島津ダイアグノスティクスへ改めた。

含意

質量分析計やPCR装置に日水製薬の試薬・培地を組み合わせ、臨床検査向けのソリューションとして一体で売る狙いであった。装置を売って終わる関係を、試薬と培地まで含めて検査の現場に食い込む関係へ組み替える一手で、計測を主軸としてきた事業構成に臨床検査という接地面が加わった。

いつ何が起きたか6件
当時の取締役8名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

考察:隣接という言葉の距離
考察

考察:隣接という言葉の距離

この買収を、分析機器メーカーによる医薬品事業への飛び地進出と読むのは、事の性格を取り違える。島津が取りに行ったのは医薬品そのものではなく、自社の質量分析計やPCR装置が測る対象——すなわち検体と、そこに使う試薬・培地であった。装置を売って終わる関係を、試薬と培地まで含めて臨床検査の現場に食い込む関係へ組み替える。2015年の業務提携から7年をかけて相手を見極めたうえでの資本取得であり、計測技術の出口を診断へ広げる一手であったと思われる。

もっとも、隣接して見える領域が、そのまま利益に直結するとは限らない。体外診断薬や臨床検査は規制と価格競争が厳しく、既存の検査試薬メーカーが根を張る市場でもある。前日終値に7割超を乗せた1,714円という買付価格は、相手の将来価値をあらかじめ高く見積もった数字でもあった。分析計測で積み上げた技術が臨床の現場でどれだけの収益に変わるかは、島津ダイアグノスティクスがこの先どこまで検査事業を太らせられるかにかかっているのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

島津製作所:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
島津製作所:のれんと無形固定資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産総資産備考
2018年3月期−9,234418,548連結貸借対照表にのれんの区分掲記はない
2019年3月期−10,830437,190
2020年3月期−11,441437,618
2021年3月期−11,615497,459
2022年3月期2,28311,151560,528公開買付けの決議は2022年5月31日で、この期末より後にあたる
2023年3月期4,94716,963618,869日水製薬の取得でのれん2,894と技術関連資産2,143・顧客関連資産186を計上
2024年3月期5,22018,013673,962
2025年3月期7,77923,744672,177減損損失378はフランスの事業用資産で、のれんの減損ではない
2026年3月期7,38823,886737,978
出所:島津製作所 有価証券報告書 第156〜163期(連結貸借対照表)
出所:島津製作所 有価証券報告書 第156〜163期(連結貸借対照表)

島津製作所:計測機器事業の推移

売上高(百万円)セグメント利益(百万円)
島津製作所:計測機器事業の推移
(百万円)売上高セグメント利益セグメント資産備考
2018年3月期231,56137,046201,374
2019年3月期241,39538,776212,369
2020年3月期236,21835,752214,585
2021年3月期248,55041,813241,018
2022年3月期277,51552,956254,535
2023年3月期314,66857,615313,354日水製薬は計測機器事業に属し、連結は2022年10月からの6か月分
2024年3月期338,25757,488351,314
2025年3月期347,91552,073356,400
2026年3月期364,90852,578367,618
出所:島津製作所 有価証券報告書 第156〜163期(セグメント情報)
出所:島津製作所 有価証券報告書 第156〜163期(セグメント情報)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業の名称日水製薬株式会社主な事業内容は臨床診断薬、産業検査薬、細胞培養関連製品などの製造、仕入、販売
企業結合を行った理由両社の共同開発による新製品の開発・上市抗体製造能力を活用した検査試薬の製造手法の確立、細胞培養関連技術による新規ソリューションの開発
企業結合の法的形式現金を対価とする株式の取得
公開買付価格普通株式1株につき1,714円買付予定数10,288,054株、買付代金17,633百万円。支払資金は自己資金を充当
買付予定数の下限2,823,300株(所有割合12.61%)上限は設けず。日本水産が所有する12,106,202株(54.06%)は不応募
買付け等の期間2022年6月17日から7月28日まで決議時の予定は7月14日まで(20営業日)で、決済の開始日の予定は7月22日
企業結合日2022年9月29日みなし取得日は2022年9月30日。自社株公開買付けの決済の開始日にあたる
取得後の議決権比率100.00%2022年9月29日に78.91%、株式併合による2022年11月15日の取得で21.09%
取得企業を決定するに至った主な根拠現金を対価として株式を取得したため
取得原価と対価の種類16,867百万円(現金)対価はすべて現金。決議時に見込んだ買付代金は17,633百万円であった
主要な取得関連費用467百万円アドバイザリー費用等
受け入れた資産の額18,429百万円流動資産10,404百万円、固定資産8,024百万円
引き受けた負債の額4,456百万円流動負債3,084百万円、固定負債1,371百万円
のれんの金額2,894百万円発生原因は今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力
のれんの償却方法および償却期間10年間にわたる均等償却
無形固定資産(技術関連資産)2,143百万円償却期間10年
無形固定資産(顧客関連資産)186百万円償却期間19年
連結損益計算書に含めた業績の期間2022年10月1日から2023年3月31日
通期換算した場合の売上高への影響5,965百万円期首に完了したと仮定した概算額。当該注記は監査証明を受けていない
通期換算した場合の営業利益への影響517百万円税金等調整前当期純利益への影響の概算額は508百万円
出所:島津製作所 有価証券報告書 第159期(2022年3月期)【重要な後発事象】・第160期(2023年3月期)【企業結合等関係】
出所:島津製作所 有価証券報告書 第159期(2022年3月期)【重要な後発事象】・第160期(2023年3月期)【企業結合等関係】
当時の取締役8名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 島津製作所 有価証券報告書 第159期(2022年3月期)【重要な後発事象】
  • 島津製作所 有価証券報告書 第160期(2023年3月期)【企業結合等関係】
  • 島津製作所 有価証券報告書 第159期・第160期【経営上の重要な契約等】
  • 島津製作所 ニュースリリース(2022年)「日水製薬株式会社を完全子会社化 分析計測機器と培地・試薬のシナジーで臨床検査向け事業拡大へ」
  • 島津製作所 有価証券報告書【沿革】【事業の内容】【関係会社の状況】
  • 島津製作所 有価証券報告書 第156〜163期(連結貸借対照表・セグメント情報)
  • 島津製作所 統合報告書2026
  • 島津製作所 有価証券報告書「第159期(2022年3月期)【重要な後発事象】日水製薬株式会社の完全子会社化に向けての公開買付け開始について」
  • 島津製作所 有価証券報告書「第160期(2023年3月期)【企業結合等関係】(取得による企業結合)」
  • 島津製作所 有価証券報告書「第159期【経営上の重要な契約等】・第160期【経営上の重要な契約等】」
  • 島津製作所 有価証券報告書「第156〜163期 連結貸借対照表・セグメント情報・【関係会社の状況】」

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