FUJI商号の「FUJI」への変更とファスフォードテクノロジ買収
電子部品実装機に集まった収益へ、半導体後工程のダイボンダを足す
- 概要
- 2018年、富士機械製造は商号を株式会社FUJIへ改め、山梨県南アルプス市のファスフォードテクノロジを買収して連結子会社とした。半導体後工程のダイボンダを手がける会社で、実装機に隣り合う工程へ入る買収であった。
- 背景
- 2018年3月期はロボットソリューション事業が売上高1,040億200万円・セグメント利益251億8,400万円を稼ぐ一方、マシンツール事業は前期に7億1,200万円の赤字を出していた。収益は実装機に集まり、電子機器の設備投資の循環がそのまま業績に通っていた。
- 内容
- 曽我信之社長は社名とブランド名の統一によるグローバルブランドFUJIの成長を掲げた。ファスフォードテクノロジのダイボンダは世界で初めて12インチウェハに対応し、NAND型フラッシュメモリやLPDRAMの積層で高い市場占有率を持っていた。
- 含意
- 連結従業員は2,229人から2,449人へ、ロボットソリューション事業のセグメント資産は851億8,300万円から1,239億5,200万円へ増えた。一方、2024年5月の中期経営計画で250億円としたファスフォードテクノロジの2026年度売上高目標は、2025年5月の見直しで136億円へ引き下げられた。
名前と中身を同じ年に替えた
社名の変更と買収を同じ年に置いたところに、この判断の性格が出ている。「富士機械製造」から「FUJI」への改称は、工作機械の会社という自己説明をやめる宣言にあたり、ファスフォードテクノロジの買収は、その説明を裏づける事業を一つ買い足す動きであった。名前が先に変わって中身が後から追いつく順序ではなく、同じ年に手を付けた点に、社名変更を意匠の問題として扱わなかったことがうかがえる。
ただし、買った事業は別の振れを持ち込んだ。実装機の循環を薄めるために選んだ隣接市場で、AI半導体という新しい波に製品構成が届かず、2026年度の売上高目標は一年で114億円削られた。FUJIは従来の汎用メモリ向けダイボンダを改良したアドバンスドパッケージ対応機の投入を準備し、R&D棟内には顧客工場と同等のクリーンルーム環境を備えた先端開発プロジェクトルームを設けた。HBM向けのハイブリッドボンダは2027年度以降の市場投入を計画している。2018年に足した事業の値打ちは、その機械の出来で決まる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
収益がロボットソリューション事業に集まる
2018年3月期の富士機械製造は、連結売上高1,200億円・営業利益228億円・当期純利益175億円と当時の最高水準を計上した。内訳を見ると、ロボットソリューション事業が売上高1,040億200万円・セグメント利益251億8,400万円を稼ぐ一方、マシンツール事業は売上高137億9,800万円・利益10億1,700万円にとどまる。前期の2017年3月期にはマシンツール事業が7億1,200万円の赤字を出しており、工作機械側の収益は年によって符号が変わった[1][2]。
収益が実装機に集まる構造は、電子機器の設備投資の循環をそのまま業績に通す。2008年9月以降の需要減で連結売上高は2010年3月期に417億円まで落ち、営業損益は62億円の赤字となった。翌2011年3月期には売上高929億円・営業利益207億円へ戻っている。四年で倍以上に振れる業績を平らにするには、実装機と技術が近く、しかも需要の波が別に立つ事業が要る[3]。
海外で通る名前と、法人の名前
もう一つの課題は社名にあった。同社の製品は海外市場で「FUJI」の名で通っており、法人としての「富士機械製造」との間に開きが生じていた。第5代社長の曽我信之社長は、社名とブランド名の統一を通してグローバルブランドFUJIのさらなる成長につなげたいと述べ、製品ブランド名として海外で浸透しているFUJIに社名を合わせるとした[4][5]。
名前の問題は、事業の説明の問題でもあった。売上の大半を電子部品実装機が占める会社が「機械製造」を名乗る限り、工作機械メーカーとしての印象は残る。のちに第6代社長となる須原信介社長も、堅い、いかにも機械をつくっているという旧来の印象からの脱却を語り、製造設備にとどまらない製品構成を志向すると述べた。社名を替える判断は、対外的な呼称の整理であると同時に、何を売る会社かという自己説明の書き換えにあたる[6]。
決断
商号を製品ブランドに合わせる
2018年3月30日、富士機械製造は商号を「株式会社FUJI」へ改めると公表した。曽我社長はこの変更が創業60周年の節目に重なるとし、コーポレートメッセージ「innovative spirit」のもとで革新的な技術と価値の創造に挑むと述べ、同日付で一部拠点の名称も変えるとした。2018年6月29日に提出された2018年3月期の有価証券報告書は、会社名を「株式会社FUJI(旧会社名 富士機械製造株式会社)」と記している[7][8]。
社名の変更それ自体は事業を変えない。中身にあたるのが、同じ年に実行した買収であった。同社は山梨県南アルプス市のファスフォードテクノロジを買収して連結子会社とし、有価証券報告書の沿革はこの買収と商号変更をともに2018年8月として記録している。ファスフォードテクノロジは半導体製造装置のダイボンダを開発・設計・製造・販売し、保守サービスまで手がける会社であった[9][10]。
隣の工程を、自社開発ではなく買収で取る
実装機とダイボンダは、扱う対象の大きさが違うだけで、部品を正確に取り上げて所定の位置へ置くという動作を共有する。ダイボンダはウェハからシリコンチップを取り出し、リードフレームやパッケージ基板の上へ載せて積層する装置にあたる。ファスフォードテクノロジの機械は世界で初めて12インチウェハに対応し、SSDに載るNAND型フラッシュメモリやスマートフォンのLPDRAMの積層で高い市場占有率を得ていた[11]。
技術の中身も近い。レジ袋とほぼ同じ25〜40ミクロンという薄いウェハを割らずに低いストレスで取り上げる技術、画像処理による不良チップの検出、装置のクリーン化、半導体前工程と同じ水準の工場無人化といった要素は、いずれも実装機で同社が積んできたものと重なる。FUJIは半導体後工程へ自社開発で入るのではなく、すでに市場占有率を持つ会社を傘下に入れる形を選んだ[12]。
結果
増えた規模と、下げた目標
買収の効果はまず規模に表れた。連結従業員は2018年3月期末の2,229人から2019年3月期末に2,449人へ増え、ロボットソリューション事業のセグメント資産は851億8,300万円から1,239億5,200万円へ膨らんでいる。2019年3月期の連結売上高は1,291億円・営業利益231億円・当期純利益169億円で、ロボットソリューション事業だけで売上高1,115億3,600万円・セグメント利益250億1,700万円を計上した[13][14]。
半導体側の需要は、見込みどおりには来なかった。FUJIは2024年5月の中期経営計画でファスフォードテクノロジの2026年度売上高目標を250億円としたが、2025年5月の見直しで136億円へ引き下げている。コロナ期に売れたスマートフォン・パソコンの買い替え需要が2024年度中に想定ほど発生せず顧客の生産設備稼働率も上がらなかったこと、そして半導体投資の中心にあるAI半導体パッケージ向けのダイボンダを製品構成として持たず装置需要を取り込めなかったことを、同社は要因に挙げた[15]。
実装機の伸びが埋めた差
買収後の連結業績を支えたのは、結局のところ実装機であった。ロボットソリューション事業の売上高は2022年3月期1,368億6,300万円・セグメント利益326億1,700万円、2026年3月期には1,687億3,700万円・336億2,300万円に達している。2024年度前半の需要が低調な時期に新機種への移行準備を進めたことで、後半の市況回復に現行機と新機種の双方を供給できたと同社は説明した。同じ年度のダイボンダは、メモリ市場の回復の鈍さで計画を下回った[16][17]。
それでも、買った事業の置き所は動いていない。FUJIは半導体後工程チェーンにおけるFAブランドとして業界首位を目指すと掲げ、ダイボンダ事業ではメモリ市場の再拡大を見込んだ新機種の開発を続けている。半導体の高機能化に伴って後工程装置への要求水準が上がるなか、同社はボンディング技術での成長を経営の柱の一つに据えた。実装機で稼いだ利益が、半導体側の開発期間を支える構図となっている[18][19]。
- 株式会社FUJI プレスリリース(2018年3月30日)
- 日刊工業新聞(2018年4月6日)
- Busicom Post(2022年6月21日)
- FUJI 統合報告書2025
- FUJI 有価証券報告書【沿革】
- FUJI 有価証券報告書【セグメント情報】
- FUJI 有価証券報告書【主要な経営指標等の推移】
- FUJI 有価証券報告書【従業員の状況】