日本テレビホールディングススタジオジブリの子会社化と、議決権42.3%の取得

後継者のいない制作会社を誰が支えるか——38年続いた放送の関係を資本関係へ変えた条件は何か

時期 2023年9月
意思決定者(推定) 杉山美邦・石澤顕(社長執行役員) 会長執行役員
論点 コンテンツIPの取得と、制作会社の後継体制
概要
2023年9月21日、日本テレビホールディングスが、傘下の日本テレビ放送網によるスタジオジブリの子会社化を発表した経営判断。議決権ベースで42.3%の株式を10月6日付で取得した。日本テレビ放送網はもともと約15%を保有しており、子会社化にかかった費用は100億円であった。
背景
視聴率の低下にともなってテレビ広告費が縮小し、民放各局にとって放送外収入の拡大が共通の課題になっていた。アニメは広告収入に依存せずテレビとの相性がよい領域である。一方のジブリは、宮崎駿氏と鈴木敏夫氏が年齢を重ねるなかで後継者問題に長く悩んでいた。
内容
宮崎駿氏が取締役名誉会長、鈴木敏夫氏が代表取締役議長として残り、社長には日本テレビ放送網の取締役専務執行役員であった福田博之氏が就いた。買収価格は外部の専門家の評価をもとに、ジブリを取り巻く環境や直近の業績、長期の信頼関係を勘案して協議で決めたと会社は説明している。
含意
発表翌日の株価は前日終値から20%以上上昇し、一時ストップ高となった。一方、次世代の育成という課題は残る。鈴木敏夫氏は会見で人材の育成をサボってきたと述べ、テレビシリーズ制作の必要性に触れたが、1人の監督が全体を取りまとめるジブリの制作手法とはなじみにくいという指摘もあった。
筆者の見解

筆者見解

1985年、『風の谷のナウシカ』のテレビ放映をめぐって各局が夜7時の子供向け枠を提示するなか、日本テレビだけが夜9時の枠を出した。ジブリの西岡純一執行役員は、それが日本テレビを選ぶ決定打だったと語っている。38年後、その関係は議決権42.3%へ姿を変えた。買収価格について会社が外部専門家の評価と並べて「長期的なジブリとの信頼関係に基づく取引」を挙げたことは示唆的で、企業価値370億円という水準を実力値からみて割安と受け取る向きもあった。値段の一部を決めたのは市場ではなく、積み上げた時間であったとみることができる。

ただ、買った側に残された仕事は重い。会見で鈴木敏夫氏は、宮崎駿氏と自分は人材の育成をサボってきたと述べ、次世代を育てるにはテレビシリーズが要るという認識を示した。ところがジブリの制作は1人の監督が作品全体を取りまとめる手法で成り立っており、各話の演出担当が実質的な監督となる近年のテレビシリーズとはなじみにくい。2018年に高畑勲氏が亡くなり、宮崎駿氏も年齢を重ねている。版権と作品を連結へ取り込むことと、作品を作り続けられる会社にすることは別の仕事であり、後者の答えはまだ出ていない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

広告が縮むなかで各局が向かったアニメ

2023年度の第2四半期決算説明会で、日本テレビホールディングスの経営陣は番組枠を売るタイム広告と随時のスポット広告の双方について見込みを下方修正した。出稿が活発化しない理由は市況だけではなく、テレビ広告ビジネスの構造的な問題と捉えていると述べている。視聴率にも低減の傾向があり、放送収入の側で反転を描く材料は乏しかった[1]

同じ課題は民放各局が共有していた。アニメは広告収入に依存しない一方でテレビとの相性がよく、「NARUTO」などで稼ぐテレビ東京の例もあって、各局がおしなべて強化に動いていた。日本テレビも2014年1月にタツノコプロの株式を取得し、2023年には全国ネットの金曜23時枠を新設している。原作を持つ出版社からの反応が変わり、作品への投資枠の比率を上げられていると経営陣は説明した[2][3]

ジブリの後継者問題と、38年の取引

売り手の側の事情は世代交代であった。監督の宮崎駿氏は82歳、プロデューサーで社長の鈴木敏夫氏は75歳になり、ジブリは後継者問題に長らく悩んできたと自社のリリースで述べている。候補を検討する過程で、つながりの強い日本テレビに白羽の矢が立った。作品を作り続ける会社を誰に託すかという問いが、資本の話より先にあった[4]

両社の関係は1985年にさかのぼる。ジブリ映画1作目『風の谷のナウシカ』のテレビ放映では各局からオファーがあったが、アニメは子供が見るものというイメージが強かった当時、他局が夜7時の子供向け枠を希望するなかで日本テレビだけが夜9時の枠に置いた。ジブリの西岡純一執行役員は、それが日本テレビを選ぶ決定打だったと語っている。以後、1989年の『魔女の宅急便』からは一部を除きほぼすべての作品に出資してきた[5][6]

決断

議決権42.3%と、送り込まれた社長

2023年9月21日、日本テレビホールディングスは傘下の日本テレビ放送網がスタジオジブリを子会社化すると発表した。議決権ベースで42.3%の株式を10月6日付で取得する内容である。日本テレビ放送網はもともと約15%を保有しており、子会社化後の比率は約42%となった。子会社化にかかった費用は100億円であったと、同社は11月2日に明らかにしている[7][8]

経営陣の入れ替えは限定的であった。宮崎駿氏が取締役名誉会長、鈴木敏夫氏が代表取締役議長として残り、社長には日本テレビ放送網の取締役専務執行役員であった福田博之氏が就いている。日本テレビ側は制作体制には口出しせず、バックヤードで経営を支援していく立場だと説明した。Huluでのジブリ作品配信も予定はないとし、国内では「金曜ロードショー」で発信するという考え方に変更はないと述べている[9][10]

値段をどう決めたか

決算説明会では、企業価値を370億円程度と算定したとみられるが実力値から考えるとずいぶんリーズナブルではないか、と根拠を問う質問が出た。会社側は、外部の専門家の評価をベースに、現状のジブリを取り巻く環境や直近の業績などを総合的に勘案し、長期的なジブリとの信頼関係に基づく取引として協議のうえ金額を決めたと答えている。市場価格でも入札でもなく、積み上げてきた関係が値段の一部を担っていた[11]

買った側が期待した中身も明快であった。多くのアニメ制作会社が作品の版権を自社で持たないのに対し、ジブリは制作したすべての作品で主幹事を担い、版権も他の出資企業と共同で保有している。莫大な制作費を投じながら堅調な業績を保ってきたのはこの構造による。子会社化によって、日本テレビはジブリ作品の版権も手中に収めた[12]

結果

好感した市場と、残された育成の課題

市場の反応は速かった。リリース翌日、日本テレビホールディングスの株価は前日終値から20%以上上昇し、一時ストップ高となっている。あるアニメ業界関係者は千載一遇の機会と評し、ジブリは版権や会社のブランドという種が箱の中に埋まっていてほかの制作会社とは異質だと語った。連結にはめったに手に入らない作品群と権利が加わった[13][14]

一方、次世代をどう育てるかという課題は買い手に移った。9月21日の記者会見で鈴木敏夫氏は、宮崎駿氏と自分は人材の育成に関してサボってきたと述べ、次世代の育成にはテレビシリーズ制作が必要という認識を示した。ただし近年のテレビアニメは各話の演出担当が実質的な監督として制作を取りまとめる作り方が一般的で、1人の監督が作品全体を束ねるジブリの手法とはなじみづらいという指摘もある[15][16]

連結への取り込みと、その先

損益の取り込みは2023年度の第4四半期からで、会社は業績面ではプラスに働くと想定し、追加投資は現時点で考えていないと述べた。2024年3月期の連結売上高は4235億円、営業利益419億円、親会社株主に帰属する当期純利益347億円であった。ジブリが通期で寄与した2025年3月期は売上高4619億円、営業利益549億円、純利益460億円へ伸び、メディア・コンテンツ事業の売上高は4309億円、セグメント利益は521億円となった[17][18]

事業の広げ方も語られた。両社が人を出し合って未来のジブリを考えるプロジェクトを立ち上げ、これまで手がけてこなかったテレビシリーズなども議論に載せるという。海外では『君たちはどう生きるか』が各国で興行され、イギリスでは『となりのトトロ』の舞台が成功して11月に再演が決まった。作品やスタジオの認知が配信を通じて世界へ広がったとして、日本テレビからも知見のある社員を出向させている[19]

出典・参考

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