日本テレビホールディングスHulu日本事業の承継と、定額動画配信への参入

自前で立ち上げるか、外資が畳む事業を引き取るか——番組を放送の外へ流す出口をどう手に入れたか

時期 2014年2月
意思決定者(推定) 大久保好男 社長
論点 動画配信への参入とコンテンツの出口
概要
2014年2月28日、日本テレビ放送網が米Hulu LLCから定額動画配信サービス「Hulu」の日本市場向け事業を承継すると発表した経営判断。同年4月にHJホールディングスの持分を取得して子会社に収め、日本の放送局として定額制の動画配信に参入した。取得価額は公表されていない。
背景
2012年10月に認定放送持株会社へ移行し、地上波・BS・CSを束ねたところであった。テレビ広告は構造的な縮小に入り、放送以外へ番組を流す出口が課題として残っていた。Huluは2011年9月に日本へ参入していたが、米本社は日本事業の出口を探していた。
内容
Hulu LLCが会社分割で設けた新会社を子会社化し、新会社はブランドとテクノロジーのライセンスを受けて日本の事業を続ける建て付けとした。承継を機に社内へインターネット事業局を新設し、2015年3月期のHulu事業は営業赤字30億円を織り込んで、2017年3月期の黒字化を目標に置いた。
含意
会員は2018年度に200万人を超え、同年度第1四半期には四半期黒字に転じた。一方、2017年6月末には取得後初の会員純減が生じ、同年7月にはヤフー・東宝・讀賣テレビ放送・中京テレビ放送などを引受先とする第三者割当増資で株主を広げている。
筆者の見解

筆者見解

サービスを一から立ち上げる案はとらなかった。2011年に日本へ入ったHuluは、50社近い提供元から1万3000本の作品を集め、9000万台の機器に対応するところまで来ていた。日本テレビ放送網が2014年に引き取ったのは、外資が畳もうとしていた赤字事業であると同時に、会員と技術と契約の束であった。大久保好男社長が「放送以外のコンテンツの出口がネットであるとしたら」と条件を付けて語ったとおり、番組を放送の外へ流す出口を、作るのではなく買ったところにこの判断の芯がある。

ただ、買ったものが太い柱に育ったとは言いにくい。会員は2017年6月末にいちど純減し、単独では支えきれずヤフーや東宝、系列局を株主に迎えている。2023年3月期の営業利益は2億4200万円で、売上高330億円に対して1%に届かない。氏家齊一郎氏が2009年に「全部赤字だけれども」と切り捨てたネット事業の難しさは、出来上がったプラットフォームごと引き取っても消えはしなかったとみられる。それでも、放送の外に自前の配信路を持つ十年を先に始めた意味は、後発で組み立てる手間と比べて測るほかない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

3波を束ねたあとに残った出口の問題

2012年10月の認定放送持株会社への移行で、日本テレビは地上波・BS・CSと制作各社を同じ資本の下へ並べ終えていた。視聴率でも勢いがあり、2013年12月から9か月連続で月間3冠王を獲得し、3年ぶりの年間3冠が視野に入っていた。連結でも2014年3月期の売上高3417億円、経常利益478億円と数字は伸びている。それでも、作った番組を放送の枠の外へ売る道は細いままであった[1][2]

一方、売り手の側には退く事情があった。Huluは2011年9月に日本市場へ入り、対応する機器は9000万台、50社近い提供元から1万3000本の映画・ドラマ・アニメを配信するところまで来ていた。それでも米国本社は日本から手を引く道を選ぶ。最高経営責任者のマイク・ホプキンス氏は、日本テレビが日本のHuluを新たなレベルへ導いてくれると信じていると述べ、自社は米国事業へ集中する構えを示した[3][4]

社内に残っていた「本業回帰」の相場観

ネット事業に対する社内の見方は、決して前のめりではなかった。会長を務めた氏家齊一郎氏は2009年の取材で、日本テレビもインターネットをはじめいろいろやってきたが全部赤字であると述べ、そのうえで本業でどれだけよい番組をつくるかを徹底すべきだと語っている。音楽や映画といった周辺事業についても、経営基盤をまとめるほどの力にはなりえないという見立てであった[5]

2011年2月の取材でも、氏家氏はネット放送を脅威とみなさなかった。地上波が持つコンテンツやソフトの制作力は他のメディアのなかで最も強く、長期の蓄積があるため、新しいメディアが出てきても恐れる必要はないという説明である。競争の要点はチャンネルの数ではなくコンテンツの中身に尽きるとも述べていた。制作力を信じるこの見立ては、裏返せば、その制作物を流す先を増やす発想と矛盾しない[6]

決断

外資が畳む事業を丸ごと引き取る

2014年2月28日、日本テレビ放送網は米Hulu LLCから日本市場向け事業を承継すると発表した。建て付けは単純な株式取得ではない。Hulu LLCが会社分割で設立した新会社を日本テレビ側が子会社とし、その新会社がHulu LLCからブランドとテクノロジーのライセンスを受けて日本の事業を続ける。承継は同年春とされ、月額料金の見放題サービスはそのまま継続された。取得価額は公表されていない[7][8]

2014年4月、日本テレビはHJホールディングスの持分を取得し、連結子会社に加えた。自社でサービスを設計し、権利を集め、課金と配信の仕組みを一から組み上げる道はとらなかった。すでに会員と作品と技術を抱えた事業を、赤字ごと引き受けている。日本の放送局が海外の配信サービスの日本事業を丸ごと承継した、初期の事例にあたる[9][10]

大久保好男社長が語った狙いと、先行させた投資

社長の大久保好男氏は、承継の狙いを二つ挙げた。動画配信事業がより成長する見通しであること、そして放送以外のコンテンツの出口がネットであるとすれば、Huluのような会社を経営することでテレビコンテンツを有効活用できると考えたこと、である。承継を機に社内へインターネット事業局が新設された。Hulu事業の運営にとどまらず、新規事業への出資やIT企業との提携を扱う部署として置かれている[11]

投資は先行させた。コンテンツの調達や宣伝にかかる費用が前に出るため、2015年3月期のHulu事業は営業赤字30億円を見込み、その影響で日本テレビホールディングスの営業利益も6期ぶりの減益となる見通しとなった。黒字化の目標は2017年3月期に置かれている。放送で見逃したドラマの配信に加え、2014年7月からはバラエティ番組を放送の1週間前に先行配信し、リアルタイムの視聴率への影響を計測する試みも始めた[12][13]

結果

前途は茨の道と見られた出発

承継から半年の時点で、同時代の評価は厳しかった。定額の動画配信サービスはすでに乱立し、全世界で5000万の会員を持つネットフリックスの日本上陸も取り沙汰されていた。差別化のカギとなるコンテンツにも壁がある。客を呼べる作品を多く持つのは各テレビ局で、TBSやテレビ東京はHuluへ番組を積極的に提供した一方、フジテレビの幹部は自社のドラマは1本単位の配信でも売れるため定額配信に出す必要はないと語っていた[14]

会員も一本調子では増えなかった。2017年6月末の有料会員は154万7812人で、3月末比3787人の減少となり、日本テレビが取得してから初めての純減が生じている。会社側はシステム移行に伴う解約増が一時的に生じたと説明した。同年7月には、Hulu,LLC・ヤフー・東宝・讀賣テレビ放送・中京テレビ放送を引受先とする第三者割当増資を実施し、単独保有からコンテンツ調達に厚みを持たせる株主構成へ広げている[15][16]

黒字化と、その薄さ

転機は2018年度に訪れた。第1四半期のHulu事業は売上高が前年比10.3%増の48億500万円、営業利益6500万円と黒字に転じ、会員数は前四半期から1万8730人増えて約172万人となった。2019年度には日本テレビグループ入り以来はじめての通期営業黒字が見込まれる、とHJホールディングス社長の於保浩之氏が語っている。会員は2018年度に200万人を超え、2021年度に300万人という目標が置かれた[17][18]

それでも利益の厚みは出ていない。HJホールディングスの2023年3月期は、売上高330億4600万円に対し営業利益2億4200万円で、前の期から66.1%減った。同じころ、自社で作品を内製化して総資産の7割弱をコンテンツ資産が占めるネットフリックスと、当たり外れの大きい番組制作より不動産など放送以外の収入源を広げてきた日本の民放との対比が語られている。日本テレビホールディングスの自己資本比率は79%であった[19][20]

出典・参考

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