freeeみずほ銀行との国内初のメガバンクAPI連携と、北国銀行への会計データの開放
銀行の鍵を預かるか、銀行に窓口を開けさせるか——中小企業の数字が最初に届く場所をめぐって
- 概要
- 2016年10月17日、freeeがみずほ銀行の法人向けインターネットバンキング「みずほビジネスWEB」と公式にAPI連携すると発表した経営判断。クラウド会計ソフトとメガバンクのAPI連携は国内初であった。翌2017年3月には、北国銀行と共同で会計データを銀行側が読む「リアルタイム経営シグナル」の提供を発表している。
- 背景
- freeeは口座明細の自動取り込みを売り物にしていたが、その手段は利用者から預かったインターネットバンキングのIDとパスワードを会計ソフト側に保存する方式であった。銀行の側も2015年に相次いで専門部署を設け、フィンテック企業との距離を測っていた。
- 内容
- API連携により、利用者はIDとパスワードをfreeeに保存せずに「みずほビジネスWEB」のデータを同期できるようになった。地方銀行とはさらに踏み込み、2015年末に業務提携した北国銀行と、会計データを銀行が読んで融資先の状況をつかむ仕組みを共同で提供した。
- 含意
- 2017年3月3日の閣議決定で改正銀行法案が銀行のAPI開放を実質義務化する直前に、freeeは接続の形を先に作った。この接続網は2018年のフリーファイナンスラボ設立、2019年の「資金繰り改善ナビ」へつながった。
窓口を開けさせるまでと、そこから先
北陸で導入が約4,000社まで増えてびっくりした、という北国銀行の杖村修司専務の言葉は、この接続がどちら側の必要から始まったかを示している。freeeは銀行に口座明細を求め、地方銀行は取引先の経理と実態を知る手立てを求めた。みずほ銀行との連携が新しかったのは技術よりも、IDとパスワードを預かる関係をやめ、銀行に窓口を開けさせた点にある。その切り替えは、改正銀行法案の閣議決定より半年近く早かった。
ただ、この接続がすぐ数字に変わったわけではない。同じ2017年春、マネーフォワードも17の金融機関と協業し、中小企業向けの資金調達支援では先に製品を出していた。freeeがフリーファイナンスラボを設けたのは2018年10月、資金繰り改善ナビの公開は2019年6月であり、2019年6月期の営業損失はなお28億円に達している。銀行に窓口を開けさせた成果が収益に届くまでには、数年かかった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
鍵を預かって明細を取っていた時期
freeeが2013年に出したクラウド会計ソフトは、銀行口座やカードの明細を自動で取り込み、仕訳の候補まで作る点を売り物にしていた。ただしfreeeは、利用者から預かったインターネットバンキングのIDとパスワードを会計ソフト側に保存し、代理でログインして明細を取っていた。みずほ銀行の「みずほビジネスWEB」も、2016年の連携まで同じ扱いを受けている。銀行の許諾を前提としない接続であり、安全性にも安定性にも不安が残った[1][2]。
同じころ、銀行の側もフィンテック企業との距離を測りかねていた。三菱UFJフィナンシャル・グループは2015年11月にデジタルイノベーション推進部を設け、三井住友銀行は同年10月にITイノベーション推進部を置き、みずほフィナンシャルグループは同年7月に部門横断の「インキュベーションPT」を立ち上げている。国内のフィンテックベンチャーへの投資額は2016年に前年比約2.4倍の177億円へ増え、決済と資産運用の伸び率が大きかった[3][4]。
地方銀行が先に手を挙げた
金融機関との関係づくりでは、メガバンクより地方銀行が先に立った。freeeは2015年12月に金融機関向けの製品を出し、同じ年の暮れに北国銀行と業務提携を結んでいる。北国銀行の杖村修司専務は、提携以降に北陸地域でfreeeを導入した先が約4,000社まで増えたと述べ、経理処理に困っている取引先の多さを提携の理由に挙げた。地銀にとってクラウド会計は、取引先の実態を知る手がかりになった[5]。
ただし、財務データを銀行に見せることへの抵抗は、借りる側に残っていた。北国銀行から融資を受けてバスケットボール用品の店を営む4TH STREETの上原浩光代表は、最初は銀行と財務データを共有するのに抵抗があったと明かし、経営の知識に不安があるなかで銀行員の支援を受けられてよかったと語っている。決算書を年に一度だけ差し出す関係から、日々の数字を共有する関係へ移れるかどうかに、この協業はかかっていた[6]。
決断
メガバンクとの公式接続
2016年10月17日、freeeはみずほ銀行の法人向けインターネットバンキング「みずほビジネスWEB」との間で、同年11月中にAPI連携を始めると発表した。クラウド会計ソフトとメガバンクのAPI連携も、法人向けインターネットバンキングとの接続も、国内では前例がなかった。有価証券報告書の沿革にも、2016年10月の一項として、みずほ銀行とのAPI連携がメガバンクとの連携は国内初との注記つきで記されている[7][8]。
変わったのは接続の作法だった。API連携により、利用者は会計ソフト側にインターネットバンキングのログインIDとパスワードを保存せずに、みずほビジネスWEBのデータを同期できるようになった。利用者から見れば、会計ソフトに鍵を預ける必要がなくなった。freeeは明細を取りに行く側から、銀行に開けてもらう側へ立場を変えた。同社はこれを、クラウド会計ソフトとメガバンクの連携として国内初と説明している[9]。
会計データを銀行に渡す
翌2017年3月、freeeは同年4月から北国銀行と共同で「リアルタイム経営シグナル」を提供すると発表した。会計ソフトに溜まった取引先の経営データを銀行が読み、融資先の状況を随時つかむ仕組みで、データの流れは口座明細とは逆を向く。佐々木大輔代表は、銀行員が顧客のデータを管理しやすくなり、融資先のビジネスを深く理解するのに役立つはずだと述べている。銀行に口座を開いてもらう話から、自社の持つ数字を銀行へ渡す話へ進んだ[10]。
制度の側も同じ方向へ動いた。2017年3月3日に閣議決定された改正銀行法案は銀行のAPI開放を実質的に義務づけ、預金者が望めば銀行はフィンテック企業のサービス上に口座残高の照会や送金指示の窓口を出さねばならなくなった。2017年春の時点でfreeeが協業する金融機関は17、累計の資金調達額は100億円に迫った。同じ17の金融機関と組むマネーフォワードも、同年1月に中小企業向けの資金調達支援サービスを始めていた[11][12]。
結果
接続網から金融の製品へ
銀行との接続は、その後の製品を金融の側へ広げる手がかりとなった。freeeは2018年10月に子会社フリーファイナンスラボ株式会社を設立し、2019年6月には会計データから資金繰りを予測して調達手段を示す「資金繰り改善ナビ」を同社から公開した。2019年1月には外部の開発者が作ったアプリケーションを載せるfreeeアプリストアも開いている。2019年6月期の連結売上高は45億円、営業損失は28億円だった[13][14]。
この三年でfreeeが得たのは、明細を読む権利よりも、金融機関との接続そのものであった。2019年8月の時点で導入した事業所は100万を超え、会計と給与計算のクラウドソフトで高いシェアを占めている。会計ソフトが銀行と結ばれるほど、事業者の数字は銀行の窓口より先にfreeeへ集まる。freeeは2026年2月の決算説明会で、連携する金融機関が1,000行以上に達したと説明した[15][16]。
- フリー株式会社 プレスリリース 2016年10月17日「『クラウド会計ソフト freee』が『みずほビジネスWEB』と公式API連携 国内初のメガバンクとの連携でユーザー利便性向上を目指す」
- 日経xTECH(2016年10月17日)「クラウド会計ソフトfreeeがみずほ銀のネットバンキングとAPI連携」
- 週刊東洋経済 2017年3月25日号「第1特集 銀行マンの運命 第3章 敵か味方かフィンテック 次々にベンチャーに食指 自前主義からの脱却」
- 週刊東洋経済 2019年8月24日号「第1特集 すごいベンチャー100」
- フリー株式会社 有価証券報告書【沿革】
- フリー株式会社 有価証券報告書(2017年6月期・単体/2019年6月期・連結)
- freee株式会社 2026年6月期第2四半期 決算説明会 質疑応答