マネーフォワードは、2012年5月に東京都新宿区高田馬場でマネーブック株式会社として設立された[1]。2004年に出資先のマネックス証券へ出向し、同社の留学制度第1号として米ペンシルベニア大学ウォートン校に学び、2011年にMBAを修了している。起業の動機について辻氏は『政府や金融機関が『貯蓄から投資へ』と盛んに言っていますが、日本人にとって投資までのハードルはまだ高いのが現状』[引用元]と語り、投資の前段階にある家計の悩みを解こうとした。
経営者を志した原点は母方の祖父にあった。アジアの工場で働く従業員の写真を見せながら『貧しい地域に雇用を生むと、こんなにも感謝される』[引用元]と語る祖父の姿に、将来は社長になって雇用を生みたいという思いを抱いたという。おカネの大切さを身近に見て育った生い立ちが、家計を扱う事業の選択に重なっている。
設立時に出したサービスは、家計簿ではなかった。ところが日本では資産や家計の内訳を見せ合うことに抵抗があり、友人などを除けば50人も使わなかった。辻氏はこの初代プロダクトを2〜3か月で閉じる決断をしている。会社は2012年12月に商号を株式会社マネーフォワードへ変更し[2]、同じ月にお金の見える化サービス『マネーフォワード』(現『マネーフォワード ME』)をリリースした。設立から半年での方向転換が、その後の事業の骨格を決めることになる。
同社はこの機能を自前で開発し、支出を住居費や食費などへ自動で分類して家計簿を組み立てた。利用者の名前や住所、取引に必要なパスワードは預からず、データはすべて暗号化して保管する設計をとっている。他人のおカネの情報をまとめて預かる事業は、最初から信用の設計が事業設計そのものだった。
接続先の金融機関との関係づくりには時間がかかった。サーバーの負担が急に増えたことで怒鳴られることもあったが、利用者にとっての利点を地道に説明して納得を得ていったと辻氏は振り返る。個人向けサービスの利用者数は2016年2月に350万人[3]、2017年4月に500万人を超え、家計簿アプリの利用シェアで首位に立った。一方で会社の売上高は、2013年11月期が355万円、2014年11月期が7613万円という水準にすぎない。無料で使える個人向けサービスの利用者を積み上げる段階であり、収益はまだ後から追いかけてくるものだった。
二本目の柱は法人向けだった。2013年11月に『マネーフォワード For BUSINESS』(現『マネーフォワード クラウド会計・確定申告』)をリリースし[4]、明細データの取得と仕訳の入力を自動で行うクラウド会計へ進出する。以後、2014年5月に請求書、2015年3月に給与、2015年8月にマイナンバー、2016年1月に経費と[5]、バックオフィス業務のプロダクトをほぼ毎年積み増していった。個人の家計を扱うために作った金融機関との接続と自動分類の技術が、そのまま企業の経理を扱う道具になった格好である。売上高は2015年11月期の4億4170万円から2016年11月期に15億4218万円へ伸び、法人向けが会社の成長を牽引する構図が見え始めた。
金融機関との関係は、接続先から提携先へ変わっていく。2015年11月には金融機関の利用者向けに提供する『マネーフォワード for ◯◯』を投入し[6]、自社サービスを金融機関のチャネルに載せる形も整えた。
蓄積した企業の財務データは、融資の領域にも向かった。辻氏は『企業と銀行が財務諸表を常時共有できるのは効率的。企業の小粒な現金需要にも応えられる』[引用元]と、その意義を語った。会社の外側で、事業の追い風となる制度が整いつつあった。
2017年9月29日、同社は東京証券取引所マザーズ市場へ株式を上場[7]した。会社設立から6年目である。公募価格1550円に対して初値は3000円をつけ[8]、フィンテックの国内代表格として資金を集めた。上場した2017年11月期の売上高は28億9955万円、営業損益は7億9730万円の赤字だった。上場するフィンテック企業の先例になる、という自覚も同時に語られていた。
上場の前後には、二つの逆風が重なっている。ひとつは特許訴訟だった。クラウド会計の競合であるfreeeが、自動仕訳機能をめぐる特許侵害を主張して提訴し、2017年7月27日に東京地方裁判所はfreeeの請求を棄却した[9]。同社の製品は機械学習で生成したアルゴリズムを用いており、特許に記載された優先ルールやテーブルを利用[10]するものではない、という判断である。
上場後の同社は、調達した資金を成長投資へ回す経営を続けた。2018年12月に海外募集による新株式発行で約66億円を調達し[11]、翌2019年には事業ドメインをHome・Business・X・Financeの4区分へ改める組織再編を実施する[12]。個人向け、法人向けバックオフィス、金融機関向け、金融サービスという4本の軸を明示した形である。M&Aも重ねた。2017年11月に株式会社クラビス、2018[13]年7月に株式会社ナレッジラボ、2019年11月には当時として過去最大規模となるスマートキャンプ株式会社の株式72.3%を取得して子会社化した。海外にも足場を作り、2018年8月にはベトナムに100%子会社を設立して開発拠点とした[14]。
投資の結果は財務に素直に表れた。2019年11月期の売上高は71億5678万円と前期比56%増となる一方、営業損益は24億4615万円の赤字へ広がっている。2020年11月期の説明会では、広告宣伝費を前期比で最大12億円程度増やす想定が示され[15]、必要な人材は積極的に採用する方針が説明された。同社が重視した指標は売上高よりもARR(年間経常収益)であり、解約率はプラン変更の影響を除けば1.2%まで下がっていた[16]。継続的に積み上がる収益と低い解約率があれば、先行して投じた費用は将来の利益として返ってくる——SaaSと呼ばれる事業形態の前提を、同社は投資家に説明し続けた。
資金調達は続いた。2020年2月に海外募集による新株式発行を実施し、2021年8月には公募増資で315億円を調達している[17]。同年8月には株式会社三菱UFJ銀行との合弁会社である株式会社Biz Forwardを設立し[18]、売掛金の早期資金化などの領域へ広げた。市場での位置づけも上がり、2021年6月に東京証券取引所市場第一部へ指定替えとなる[19]。プロダクトの投入も加速し、2021年だけで契約、人事管理、年末調整、IT管理クラウド、ビジネスカードなどが相次いでリリースされた。2021年11月期の売上高は156億3260万円、営業損益は10億6226万円の赤字で、前期より赤字幅は縮んでいる。
2021年11月期の決算説明会で、同社はSaaS ARRの見通しを初めて開示した。今後の戦略を考えるとSaaS ARRが最も重要な指標になるという判断である。BusinessドメインのARRは法人向けで74億円[20]、うち中堅企業向けが20億円、中小企業向けが54億円という内訳まで示され、1年後に109億〜119億円へ伸ばす目標が置かれた。売上高よりも先に、積み上がった契約の年換算額を投資家に見せる。この期の投資は中長期を見据えたものだと同社は説明し、前年の公募増資で得た資金を成長投資へ回す前提であることを重ねて示した。赤字が続く会社が資本市場と対話するための言語を、同社はこの時期に整えている。
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| 2012〜2017年個人の家計簿から出発し法人向けクラウド会計へ広げた創業からの5年 | マネーブックを設立 | ★ | ||
| 辻庸介 | 初代サービス『マネーブック』を数か月で閉じ、家計簿・資産管理へ作り直す 2012年5月に設立したマネーブック株式会社が、資産を知り合い限定で共有する初代プロダクトを数か月で閉じ、同年12月に商号を株式会社マネーフォワードへ改めて自動家計簿・資産管理サービスをリリースした判断。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 辻庸介 | 『マネーフォワード』を発売 | ★★ | ||
| 辻庸介 | クラウド会計への参入で、法人向けという二本目の柱を立てる 2013年11月、個人向け家計簿サービスで築いた金融機関との接続と自動分類の仕組みを法人の経理へ向け、クラウド会計ソフト『マネーフォワード For BUSINESS』(現『マネーフォワード クラウド会計・確定申告』)で法人向け事業に参入した判断。以後10年をかけて周辺業務のプロダクトを積み増した。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 辻庸介 | 『MFクラウド請求書』を発売 | ★ | ||
| 辻庸介 | 東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場 | ★ | ||
| 2017〜2021年東証マザーズ上場、4ドメイン再編と「攻めの赤字」を選んだ先行投資 | 辻庸介 | 仮想通貨交換事業への参入を取りやめ、交換業者登録の手続きを中止する 2019年4月15日、マネーフォワードが子会社マネーフォワードフィナンシャルによる仮想通貨関連事業への参入を取りやめ、交換業者登録に向けた手続きの中止と取引所・交換所システムの開発停止を発表した判断。 詳細を読む | ★★★ | |
| 辻庸介 | スマートキャンプの株式72.3%を取得し子会社化 | ★★ | ||
| 辻庸介 | マネーフォワードベンチャーパートナーズが「HIRAC FUND」の運用を開始 | ★ | ||
| 辻庸介 | 中堅企業向け『マネーフォワード クラウドERP』を発表 | ★★ | ||
| 辻庸介 | 三菱UFJ銀行との合弁でBiz Forwardを設立 | ★★ | ||
| 2022〜2025年中長期財務ターゲットの提示、EBITDA黒字化とAIカンパニーへの転換 | 辻庸介 | マネーフォワードホームを合弁会社化 | ★ | |
| 辻庸介 | マネーフォワードエックスを設立 | ★ | ||
| 辻庸介 | 100%子会社として、Money Forward WhippleWood, LLCを設立 | ★ | ||
| 辻庸介 | 『マネーフォワード AI確定申告』を発売 | ★ |
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