トレンドマイクロの直近の動向と展望
トレンドマイクロの直近の業績・経営課題・市場ポジションと、今後の展望をまとめたページです。
セグメント構成や中期的な論点を、現経営陣の発信と有価証券報告書の記述をもとに整理しています。
直近の動向と展望
V字回復の舞台裏で進む「従来型SaaSの終了」
FY23は4Q単独の営業利益が29億円(前年同期149億円)まで落ち込み、親会社株主純利益も▲20億円の赤字に沈んだ。しかしFY24には営業利益481億円(YoY+47.6%)、純利益343億円(YoY+220%)と通期で回復し、営業利益率は17.6%まで戻した。円安が続いたこと、連結従業員数をFY22末の7,669名からFY24末の6,869名へ約800名減らして費用構造を絞ったこと、そしてTrend Vision Oneの新規売上が前年比286%(国内エンタープライズ)と伸びたことが回復の中身である。業績説明資料では「営業利益率改善は継続」と強調される他方、新規ユーザ獲得の鈍化も併記された。表面のV字の裏では、古い顧客基盤を新しい器へ移し替える作業が並行して走り、旧来のエンドポイントSaaSからVision Oneへの移行が同社の短期売上を削るため、会計上の売上成長と契約基盤の質的な入替は別物として示す必要もあった。
経営陣は同じ時期に、Apex One SaaS、Cloud One - Endpoint & Workload Security、Cloud App Security、Email Securityといった従来型SaaS製品について、新規販売の終了、ライセンス更新の終了、サポートの終了を順に進めていることを2025年2Qに開示した。既存顧客に対しても、新しい基盤であるTrend Vision Oneへの移行を前提にした説明を重ねていく姿勢である。Vision Oneへの移行率はApex One SaaSで54%、Cloud One Endpointで76%に達しており、短期の売上を犠牲にしてARR基盤を積み上げる選択である。FY25通期は売上高2,759億円(YoY+1.2%)・営業利益577億円(YoY+20.1%)で着地し、予想の売上2,740億円・営業利益536億円をそれぞれ101%・108%で上回った。経営陣は会計上の売上成長ではなく、Vision OneのARR比率が38%に達したことを前面に置き、売上の伸び率ではなく契約基盤の質で評価されることを狙っている。
- 決算説明会 FY24
- 決算説明会 FY25-2Q
- 決算説明会 FY25
AgenticAIとソブリンAI──「守る対象」の次の拡張
2025年7月、Trend Vision OneをAgentic AIサイバーセキュリティプラットフォームへ発展させる構想が発表された。Trend Cybertronと呼ぶエージェント層、Digital Twinを用いたContextual Intelligence層、900以上のデータソースに対応するAgentic SIEMという3つの層で組み立てる絵を提示している。AIを「守るべき対象」と「守るための道具」の両方に位置付け、自社のカスタマーサポートに寄せられる問い合わせ件数をコンシューマで▲60%、エンタープライズで▲43%減らした実績や、新規コードの55%をAIが生成する社内実装まで、投資家向けの場で開示している。エバ・チェン社長は「侵害が起こる前に防止し、受動的で時間が掛かる対応から予測的な防御へ移行する」(決算説明会 FY24)と位置づけを示し、防御の主体を人からAIへ移す方針を明確にした。
さらに2025年10月、台湾Wistronとの合弁会社の設立が発表された。東京に持株会社、サウジアラビアのリヤドにGTM本部、台北にR&D本部を置き、AIデータセンター・GPUクラスタ・主権AIセキュリティを対象にする新会社である。2030年に6,000億ドル規模へ拡大するとされるソブリンAI市場を、中東・欧州・南米・オセアニアを起点に取りに行く構えを打ち出した。個人向けでは詐欺対策アプリ「詐欺バスター」を軸に警察機関や自治体との連携を広げ、英国Cifasとのモバイルアプリ提携も進む。2026年の成長目標はARR+13%・売上+9%・営業利益▲2%で、Vision OneのARR構成比を現在の38%から引き上げることが最優先の課題となる。家庭のパソコンから国家のAIインフラまで、守る対象の置き場所を引き直す段階に入った。
- 決算説明会 FY24
- 決算説明会 FY25-2Q
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