freee業績不振によらない全固定資産の一括減損と、開発費の全額費用計上への切り替え
不振でない資産をなぜ落とすのか——投資加速の宣言に会計処理をそろえた2022年8月
- 概要
- 2022年8月12日、freeeが2022年6月期決算とあわせて、ソフトウェア資産およびM&Aに伴うのれんを含む全固定資産を一括して減損し、92億2,130万円の減損損失を特別損失に計上した経営判断。個別事業の実績不振によるものではなく、投資を加速する中長期戦略を前提とした処理であった。以後の開発費は資産に振り替えず、全額を費用として計上する方針に切り替えた。
- 背景
- 2022年6月期まで、freeeは研究開発費の10〜15パーセントを自社開発ソフトウェアとして資産に計上していた。買収に伴うのれんもあわせて貸借対照表に積み上がる一方、電子帳簿保存法の改正とインボイス制度の開始を控え、顧客基盤を取り切るための投資加速が中長期戦略に据えられた。
- 内容
- 「固定資産の減損に係る会計基準」に基づき、資産グルーピングをプラットフォーム事業一体として扱い、有形・無形の固定資産を全額減損した。内訳はのれん39億2,028万円、顧客関連資産23億1,844万円、ソフトウェア10億576万円など。使用価値がマイナスであるため、回収可能価額はゼロとされた。
- 含意
- 2022年6月期の親会社株主に帰属する当期純損失116億902万円のうち、約8割を減損損失が占めた。翌期以降は研究開発費が全額費用計上に回り、2023年6月期の研究開発費総額は68億6,467万円へ増えた。資産計上は、黒字化が見えた2025年6月期第1四半期に再開されている。
会計方針を計画に合わせるということ
落とした資産に、不振のものはない。東後澄人CFOが個別の事業の実績に起因するものではないと断ったとおり、サイトビジットもMikatusも想定どおりに進んでいた。減損判定の将来キャッシュ・フローに、投資を加速して赤字を掘る3年の計画をそのまま置けば、使用価値はマイナスになり、回収可能価額はゼロになる。92億円は不振の告白ではなく、宣言した中長期戦略を減損会計基準に通した結果である。
この会計方針が思想として貫かれたわけではない。即時減損は2年で終わり、2024年11月には資産計上が再開され、資産化率は減損前を上回った。赤字の期間は資産を持たず、黒字が見えると持つ。この振れ幅は、会計方針が事業計画に従う変数であることを示している。減損も一度では済まず、最終赤字はむしろ2023年6月期の123億円まで膨らんだ。投資と損益の見え方をそろえる代償は大きかった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
資産に振り替えられていた開発費とのれん
2019年12月の上場から、freeeの赤字は続いていた。開発に投じた費用のうち、2022年6月期までは研究開発費の10〜15パーセントを自社開発ソフトウェアとして資産に計上し、残りを販売費及び一般管理費へ費用として落としていた。資産に振り替えた分は、毎期の減価償却を通じて少しずつ売上原価に入る。同じ量の開発を続けても、資産計上した期の損益は費用計上より軽く見える[1]。
貸借対照表にはもうひとつ、買収に伴うのれんが積み上がっていた。2021年3月の海外募集による調達を経て、freeeは電子契約のサイトビジット、会計事務所向けのMikatusを相次いで傘下に収めている。2021年6月末の連結貸借対照表には、のれん38億8,555万円と無形固定資産50億3,265万円が並んだ。買った事業も自前で書いたコードも、資産の形で残っていた[2]。
制度変更を見越した投資加速と、不振ではない当期
投資を加速する理由は、制度の変更にあった。電子帳簿保存法の改正とインボイス制度の開始が翌年以降に控え、日本のクラウド化を押し上げるという読みである。佐々木大輔CEOは決算説明会で、クラウド会計で圧倒的No.1の位置にあるからこそ市場全体を広げる投資ができると述べた。マーケットシェアは56パーセント、有料課金ユーザー企業数は37万9,000社だった[3]。
減損が発表された2022年6月期そのものは、不振の年ではなかった。売上高は143億8,037万円で業績予想どおりに着地し、調整後営業利益はマイナス23億4,300万円と予想を2億円ほど上回った。ARRは150億円を超え、解約率は全社で1.2パーセント、法人で0.6パーセントまで下がっている。グループに加わった会社もサービスも想定どおりに進捗している、と東後澄人CFOは述べた[4][5]。
決断
個別事業の実績によらない一括減損
2022年8月12日、freeeは2022年6月期の決算発表と同じ日に減損損失の計上を開示した。東後澄人CFOは、個別の事業の実績に起因するものではなく、グループ全体として投資に踏み込むという中長期戦略に基づいて、すべての固定資産について減損を行ったと説明している。資産のグルーピングは事業単位ごとに分けず、プラットフォーム事業一体として扱われ、M&Aで生じたのれんも同じ枠に入った[6][7]。
計上額は92億2,130万円に達した。のれん39億2,028万円、顧客関連資産23億1,844万円、ソフトウェア10億576万円、建設仮勘定14億5,907万円などで、有形・無形の固定資産を全額落とした。回収可能価額は使用価値によって測るものの、将来キャッシュ・フローに基づく使用価値がマイナスであるため、ゼロとされた。この92億円は、2022年6月期の親会社株主に帰属する当期純損失116億902万円の約8割を占める[8][9]。
開発費を資産に載せないという方針
減損とあわせて、開発費の扱いも変えた。2022年6月期まで一部を資産に振り替えていた研究開発費は、翌期から全額が費用として計上される。ソフトウェア資産が消えたことで売上原価からは減価償却費が抜け、原価率は下がる。一方の研究開発費は、投資の増加分に資産計上をやめた分が上乗せされて膨らむ。東後CFOは、前期までと今期以降ではPLの見え方が異なると注意を促した[10]。
減損の前提に置かれた中長期戦略は、同じ説明会で数字とともに示された。2025年6月末までに70万事業所、うち法人25万事業所以上の利用、2027年6月期にNRR110パーセントと売上高500億円以上、2025年6月期の調整後営業利益ブレークイーブン。翌2023年6月期の業績予想は売上高188億2,100万円に対し、調整後営業利益はマイナス74億5,200万円からマイナス68億200万円と、赤字を深める前提であった[11][12]。
結果
膨らむ研究開発費と、二度・三度の減損
会計処理の切り替えは、翌期のPLにそのまま表れた。一般管理費に含まれる研究開発費の総額は、2022年6月期の36億1,843万円から2023年6月期は68億6,467万円、2024年6月期は83億4,678万円へ積み上がった。売上原価からは自社開発ソフトウェアの減価償却費が消え、2023年6月期の売上総利益率は前年比2.9ポイント増の83.6パーセントとなった[13][14]。
一方で、減損は一度では終わらなかった。2022年6月期の有価証券報告書は、翌期に取得した固定資産についても資産計上のうえ減損損失を計上する可能性があると記した。実際、2023年6月期には42億1,716万円、2024年6月期には14億7,290万円の減損損失が続いた。最終損益はむしろ悪化し、2023年6月期の親会社株主に帰属する当期純損失は123億円に達している[15][16]。
資産計上の再開と初の黒字
即時減損の扱いは2年で終わった。2024年11月、freeeは2025年6月期第1四半期から全固定資産の資産計上を再開すると説明した。PCなどの有形固定資産も、M&Aで生じるのれんも、それまでの即時減損をやめ、資産に載せて減価償却する扱いへ戻した。2025年6月期の特別損失に減損損失はなく、貸借対照表にはのれん5億9,052万円と無形固定資産41億1,626万円が戻った[17][18]。
再開の時期は、黒字化の達成と重なる。2025年6月期は売上高333億円、営業利益6億円、親会社株主に帰属する当期純利益14億円で、創業以来初の通期黒字となった。通期のソフトウェア資産化率は約45パーセントで、2022年6月期まで10〜15パーセントだった水準を上回っている。2022年8月に調整後営業利益のブレークイーブンを掲げた目標年に、開発費のうち資産へ残す割合は減損の前より高くなった[19][20]。
- フリー株式会社 2022年6月期 決算説明会 質疑応答(2022年8月12日)
- フリー株式会社 有価証券報告書(2022年6月期・連結)
- フリー株式会社 有価証券報告書(2021年6月期・連結)
- フリー株式会社 有価証券報告書(2023年6月期・2024年6月期/連結)
- フリー株式会社 有価証券報告書(2025年6月期・連結)
- フリー株式会社 2023年6月期 決算説明会 質疑応答(2023年8月14日)
- フリー株式会社 2025年6月期第1四半期 決算説明会 質疑応答(2024年11月14日)
- フリー株式会社 2025年6月期 決算説明会 質疑応答(2025年8月13日)
- 日本経済新聞(2022年8月12日)「決算:freee、22年6月期最終赤字116億円 減損損失計上響く」