ADEKA半導体材料への経営資源の集中と、高誘電体ALD材料の生産能力の増強

樹脂添加剤と食品で安定して稼ぐ会社が、なぜ市況の振れる半導体材料へ人と金を寄せたか

時期 2022年7月
意思決定者(推定) 城詰秀尊 社長
論点 事業ポートフォリオと成長投資の配分
概要
2022年7月22日、ADEKAが韓国子会社ADEKA KOREAの全州第二工場で、先端半導体メモリ向け高誘電材料「アデカオルセラ」シリーズの生産能力を現行の2倍以上へ引き上げると決めた投資判断。以後2023年・2024年と韓国での増設が続き、2024年7月の電子材料本部新設、2025年4月の半導体材料本部への改組へとつながった。
背景
ADEKAの半導体材料は、電解事業から派生した高純度塩素の製造を1981年に始めたことに遡る。2000年代にDRAMがHigh-kキャパシタを採用して以降、高誘電材料が主力となり、「アデカオルセラ」シリーズは世界シェア1位の製品に育っていた。DRAMの微細化と、2030年に1兆ドルへ向かうとされる半導体市場が投資の前提にあった。
内容
全州第二工場への23億円(2022年7月)と21億円(2023年4月)、全州第三工場の新製造棟(2024年2月公表)、台湾台南のプラント25億円(2023年10月完工)を重ねた。中期経営計画「ADX 2026」では3カ年の投資750億円のうち工場投資158億円を電子材料に、研究投資197億円を配分している。
含意
半導体材料(ディスプレイ材料を除く)の売上高を2023年度の325億円から2030年度に1,100億円超へ伸ばす目標を置いた。全社の営業利益は2026年3月期に416億円と過去最高を更新した一方、半導体材料を含む化学品事業のセグメント利益は同期に264億円と前期を下回り、市況の振れは残っている。
筆者の見解

一品目に賭けられた会社の形

需要が確定する前に能力を2倍にする、という順序がこの投資の性格を決めている。2022年7月の全州第二工場への23億円は、生成AIによるメモリ需要の急増が誰の目にも明らかになるより前の決定であった。世界シェア1位を持つ側にとって、増設の遅れはそのまま顧客が第二の供給元を探す理由になる。すでに勝っている製品であるがゆえに先へ建てておく判断であり、材料メーカーとしては守りに近い性質を帯びた投資であったとみられる。

ただ、集中の代償も同じ数字に出ている。化学品事業のセグメント利益は2022年3月期の293億円から2024年3月期の237億円まで落ち、全社が過去最高益を更新した2026年3月期にも前期を下回った。落ち込んだ期に会社を支えたのは、利益率の低い食品と、買い戻した日本農薬のライフサイエンスであった。半導体という振れの大きい柱を立てるほど、平凡に見える事業を残しておく意味は増しているのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

電解の副産物から始まった半導体材料

ADEKAの半導体材料は、創業以来の電解事業から派生している。同社が高純度塩素の製造を始めたのは1981年で、以来、半導体・フラットパネルディスプレイ・光ファイバーの各分野に材料を供給してきた。苛性ソーダの電解で生まれる塩素を、エッチングガスの純度まで磨き上げて半導体工場へ納める——1917年の創業時に選んだ電気化学の土台が、六十余年を経て別の産業へつながっていた[1]

主力が塩素から高誘電材料へ移ったのは2000年前後であった。DRAMの素子構造がスタックからシリンダへ変わる過程でHigh-kキャパシタが採用され、高誘電材料が使われ始める。2010年代には材料そのものが進化し、2020年代のピラー構造ではキャパシタ周辺にも新素材が入った。ADEKAの「アデカオルセラ」シリーズは、この世代交代を追いかけながら世界シェア1位を保つ製品に育っていた[2][3]

安定して稼ぐ会社と、1兆ドルへ向かう市場

増強を決めた2022年3月期のADEKAは、連結売上高3,612億円・営業利益340億円を計上していた。うち化学品事業が売上高2,001億円・セグメント利益293億円を稼ぎ、食品事業は6億円の損失。樹脂添加剤と食品という景気に振られにくい事業を抱えつつ、利益はすでに化学品に偏っていた。この偏りをさらに強める方向へ踏み込むかどうかが、投資判断の実質であった[4]

一方で市場の側は拡大が見込まれていた。5G通信の普及とAI・メタバースの広がりを背景に、半導体市場は2030年に1兆ドル規模へ達するとの見通しが立ち、大容量化と消費電力削減の要求からDRAMの微細化が進んでいた。微細化が進むほど原子層堆積で薄膜を作る材料の必要量と難度が上がる。需要の伸びが読める領域が、ADEKAの手元にあった[5][6]

決断

韓国での連続増設

2022年7月22日、ADEKAは連結子会社ADEKA KOREAの全州第二工場(韓国全羅北道完州郡)で、高誘電材料の生産能力を現行の2倍以上へ引き上げると決めた。投資額は23億円、着工は同年11月、営業運転の開始は2024年度中の予定であった。世界シェア1位の製品について、需要が確定する前に能力を倍にする先行投資にあたる[7]

増設はこの一件で終わらなかった。翌2023年4月27日には同じ全州第二工場へ21億円を追加し、2023年度中の営業運転開始を目指すと公表する。2024年2月28日には全州第三工場に新製造棟を建てると発表し、次世代以降のDRAM向け新規材料と、次世代ロジックおよびNAND向け材料の量産を予定した。前中期経営計画「ADX 2023」の3カ年で、半導体材料向けには100億円以上が投じられている[8][9]

組織と資金を半導体へ寄せる

投資に組織の改編が続いた。2024年7月1日、ADEKAは電子材料本部を新設し、食品・樹脂添加剤・電子材料・環境材料の4事業本部体制へ移る。研究・営業・企画を一体にして顧客の要求に応える狙いであった。翌2025年4月1日にはこれを半導体材料本部へ改組し、ディスプレイ材料などを環境材料側へ移す一方、半導体後工程用の製品と技術を半導体材料側へ集めている[10][11]

資金の配分も同じ方向を向いた。中期経営計画「ADX 2026」では3カ年の投資総額750億円のうち、工場投資158億円を電子材料に振り、研究投資197億円には久喜地区の新研究棟の建設費約100億円が含まれる。生産拠点も韓国だけではなく、台湾台南市には先端ロジック半導体向け材料のプラントを25億円で建て、2023年10月に完工させた。米国では2024年4月に西海岸へ事務所を開いている[12][13]

結果

掲げた目標と、届いた数字

2025年2月27日の事業説明会で、ADEKAは半導体材料の到達点を数字で示した。ディスプレイ材料を除く売上高は2023年度で325億円、営業利益は90億円で利益率28%。これを2026年度に500億円超、2030年度に1,100億円超まで伸ばし、営業利益も220億円超に乗せる計画である。7年で売上を3倍以上にする絵であった[14]

全社の業績も伸びた。連結売上高は2025年3月期に4,071億円、営業利益は410億円と過去最高を更新し、2026年3月期にはそれぞれ4,166億円・416億円へ積み上がった。ADEKAは事業説明会で、資本効率と稼ぐ力を高めて5,000億円企業の先を見据えると述べている。増強を決めた2022年3月期の3,612億円から、4年で550億円ほど増えた計算になる[15][16]

残った市況の振れと、認証待ちの拠点

全社の利益が最高を更新する裏で、半導体材料を含む化学品事業の利益は揺れた。セグメント利益は2022年3月期の293億円から2024年3月期の237億円まで2期続けて減り、2025年3月期に280億円へ戻したものの、2026年3月期は264億円へ再び後退している。全社の営業利益が過去最高となった年に、化学品の利益は前期を下回った[17]

拠点の側にも積み残しがある。2023年10月に完工した台湾のプラントは、2025年2月の説明時点でなお量産に向けたユーザー認証を取得している段階にあった。後工程材料も、過酸化水素やエッチング技術といった手持ちの基盤技術を応用する構想の段階を出ていない。1,100億円という2030年度の目標は、これらの認証と採用がどれだけ積み上がるかにかかっているといえる[18][19]

出典・参考

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