日本新薬第六次中期経営計画による注力領域の難病・希少疾患、泌尿器・血液内科への絞り込み
幅を保つか、狭く深く掘るか——薬価改定が続く国内市場で中堅製薬が引いた線
- 概要
- 2019年5月14日、日本新薬が第六次5ヵ年中期経営計画(2019〜2023年度)を開示し、泌尿器科・血液内科・難病/希少疾患・婦人科へ自社創薬の資源を寄せる方針を掲げた経営判断。低分子のNS-304と核酸医薬のNS-065/NCNP-01を生んだ創薬基盤に、遺伝子治療などの新しいモダリティを加えるとした。
- 背景
- 後発医薬品の使用促進と医療費抑制のための価格引下げが続き、2016年4月の薬価改定は業界全体の逆風となった。研究開発費で大手と桁の違う中堅が、患者数の多い領域で正面から競うことは難しくなっていた。一方で泌尿器と血液には、1967年以来の製品が積み上がっていた。
- 内容
- 2023年度に売上収益1,500億円(医薬品1,330億円・機能食品170億円)、営業利益400億円、当期純利益300億円、ROE10%以上を掲げ、人員は2018年度末の2,000名から微増にとどめるとした。米国にはビルテプソ発売に備えた販売体制の構築、欧州・中国には早期承認と販売体制の検討を置いた。
- 含意
- 2023年度の着地は売上収益1,483億円・営業利益333億円・当期利益259億円で、掲げた3つの数値目標をいずれも下回った。一方、2024年の中堅企業ランキングでは税引き後利益と売上高利益率の双方で2位に置かれ、注力領域は続く第七次中期経営計画にも引き継がれた。
手元にあったものを、選び直した
絞ると宣言したものは、実のところ半世紀かけて手元に残っていたものであった。1967年のエビプロスタットから1984年のエストラサイトカプセルまで、泌尿器と血液の製品は、大手が主戦場としない場所に途切れず積み上がっていた。2019年の第六次中期経営計画がしたのは、その細い領域に難病・希少疾患を足し、研究開発の資源をそこへ寄せると対外的に宣言することであった。薬価改定が続き大手と正面から戦えない環境で、新しく何かを買うのではなく、既にあるものを選び直した判断であったとみられる。
ただ、5年後の数字は宣言に追いついていない。売上収益1,483億円・営業利益333億円・当期利益259億円は、いずれも掲げた目標を下回った。目標を超えたのは、絞る対象の外に置いた機能食品のほうであった。しかも同じ期間の収益を支えたのは、自ら売った薬だけではなく、他社へ託したウプトラビの利益でもある。第七次中期経営計画で注力領域が3つに整理し直された事実は、2019年に引いた線がまだ確定していないことを示している。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
単価が削られる国内市場
第六次中期経営計画が経営環境として並べたのは、後発医薬品の使用促進策と、医療費抑制のための価格引下げであった。国内の医療用医薬品市場は薬価改定のたびに単価が削られ、そこへ少子高齢化と労働人口の減少が重なる。2016年4月の薬価改定は業界全体の逆風となった。研究開発費で大手と桁の違う中堅が、生活習慣病のように患者数の多い領域で正面から競うことは、この環境では難しくなっていた[1][2]。
もっとも、直前の5年は好調であった。第五次中期経営計画の最終年度にあたる2018年度は、売上高1,147億円・営業利益206億円と、中計目標の1,100億円・180億円をいずれも上回って着地している。時価総額は2013年度末の1,374億円から2018年度末の5,662億円へ増えた。ザルティアやウプトラビを含む7品目を上市し、6品目の導入契約でパイプラインを厚くした後の、次の5年を描く場面であった[3][4]。
半世紀前から続いていた細い畝
絞る先の領域は、半世紀前に芽が出ていた。1967年に前立腺肥大症治療剤エビプロスタットを発売し、1971年には代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤キロサイド注が続く。1979年の頻尿治療剤ブラダロン錠、1984年の前立腺がん治療剤エストラサイトカプセルと、泌尿器と血液の製品は途切れずに並んだ。大手が主戦場としない二つの細い領域は、日本新薬が長く製品を置いてきた場所であった[5][6]。
決断
注力領域を絞る
2019年5月14日、日本新薬は第六次5ヵ年中期経営計画を開示した。表題は「持続的な成長を目指して ~さらなる独自性の追求~」で、翌15日に前川重信社長の名で説明資料が示されている。研究開発の戦略として掲げたのは、低分子のNS-304と核酸医薬のNS-065/NCNP-01を生んだ創薬基盤に、遺伝子治療などの新しいモダリティと核酸ドラッグデリバリー技術を加えることであった。注力する疾患は泌尿器科、血液内科、難病・希少疾患、婦人科に絞られた[7][8]。
5年後の姿は数字で示された。2023年度に売上収益1,500億円(医薬品1,330億円・機能食品170億円)、営業利益400億円、親会社株主に帰属する当期純利益300億円、ROEは期間を通じて10%以上とする。営業利益の年平均成長率は14.2%で、売上の5.5%を上回る設定であった。人員は2018年度末の2,000名から微増にとどめるとしており、規模を追うのではなく、絞った領域で利幅を上げる構えがうかがえる[9][10]。
絞った先を、世界へ出す設計
海外については、米国事業にNS-065/NCNP-01の発売に備えた販売体制の構築を、欧州と中国には早期の承認取得と販売体制の検討を置いた。自社創薬品のウプトラビで得た利益を、NS-065/NCNP-01や後続のエクソンスキッピング薬へ再投資するという流れも図で示している。絞った領域で創った薬を、提携先との連携と自社の販売体制の両方で世界へ届けるという設計であった[11][12]。
結果
届かなかった数字と、外からの評価
2023年度の着地は、掲げた数字に届かなかった。連結売上収益1,483億円は目標の1,500億円をわずかに下回り、営業利益333億円は400億円に対して83%、親会社の所有者に帰属する当期利益259億円は300億円に対して86%にとどまる。内訳では医薬品が1,251億円と目標の1,330億円を割った一方、機能食品は232億円と170億円の目標を3割以上上回った。絞ると決めた本業側が計画に届かず、脇に置いた事業が伸びる結果であった[13]。
それでも、絞ったこと自体は外から評価を受けた。2024年の中堅企業ランキングでは、税引き後利益と売上高利益率の双方で日本新薬が2位に置かれ、泌尿器科・血液内科・難病/希少疾患に自社創薬の資源を絞る「選択と集中」がその理由に挙げられた。収益力の高さから自己資本比率でも上位に入っている。2024年度から始めた第七次中期経営計画では、注力領域を血液内科・難病/希少疾患・泌尿器/婦人科の3つに整理した[14][15]。
- 日本新薬「2019〜2023年度 第六次5ヵ年中期経営計画」(2019年5月15日)
- 日本経済新聞 2019年5月14日「日本新薬、新中計を発表 難病・希少疾患向けに注力」
- 週刊東洋経済 2016年6月11日号「【第1特集 伸びる会社 沈む会社】『会社四季報』最新予想を先取り! 激変の2016年度を検証 企業業績ランキング350」
- 週刊東洋経済 2024年11月23日号「【第1特集 すごい中堅企業100】PART3 輝く中堅企業へ 課題と処方箋 6つの指標で見る 伸び盛り! 地方中堅企業ランキング」
- 日本新薬「これまでの歩み」(会社情報)
- 日本新薬「注力領域(研究開発)」
- 日本新薬 統合報告書2025(Nippon Shinyaku Report 2025)
- 日本新薬 有価証券報告書(2019年3月期・連結・IFRS)
- 日本新薬 有価証券報告書(2024年3月期・連結・IFRS)