川崎重工業 「すいそふろんてぃあ」建造 液化水素サプライチェーンへの集中と、世界初の液化水素運搬船の建造
更新:
何をなぜ決めたか
- 概要
-
2010年からの中期経営計画で液化水素サプライチェーン構想を掲げた川崎重工業が、2020年代に入って全社の資源を水素へ寄せ、世界初の液化水素運搬船"すいそ ふろんてぃあ"から受入基地、水素混焼タービンまでを自社で通そうとした一連の判断。
- 背景
-
航空機・鉄道車両・造船といった受注型の事業はいずれも成熟し、2021年3月期は連結で営業損失を計上した。2013年に三井造船との経営統合交渉も打ち切られ、同業との合流で祖業を支える道は閉じていた。
- 内容
-
液化天然ガスで技術を導入する側に回った1970年代の経験を踏まえ、マイナス253度の運搬技術を自前で確立し、国際海事機関の基準づくりを自社船で押さえにいった。水素関連事業の規模は2030年に3,000億円、2050年に2兆円と会社が自ら掲げた目標である。
- 含意
-
実証航海は成立したが、豪州からの水素調達が滞り、2024年に調達元は国内へ改められた。商用供給は2030年度以降とされ、受入基地と大型運搬船への投資だけが先行する期間が続いている。
いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
需要を待つ会社が、需要をつくろうとした
買い手も価格も決まっていない燃料の運搬船を、市場が生まれる前に造り始めた点に、この会社の選択がよく表れている。液化天然ガスの利用が始まった1970年代には海外の技術を導入する側に回り、規格もライセンスも他者が握った。橋本康彦社長が国際海事機関の基準づくりを自社船で押さえにいったのは、その順序を入れ替えるためであった。発注を待って造ってきた会社が、需要そのものを自分で立ち上げようとした試みだとみられる。
ただ、船が走っても中身は揃わなかった。豪州からの調達は期限に間に合わず、2024年に調達元は国内へ改められ、レゾナック・ホールディングスとの協業検討も止まっている。16万立方メートル級とされた運搬船は、契約段階で4万立方メートル型の1隻になった。2030年に3,000億円、2050年に2兆円という数字は会社が掲げた目標にすぎない。世界初の1隻を持つことと、水素を商いとして成り立たせることの間には、まだ距離があるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
業績の推移
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- レスポンス(2021年8月26日)
- 川崎重工業 2026年3月期第2四半期 決算説明会 質疑応答(2025年11月14日)
- 川崎重工業 2026年3月期第3四半期 決算説明会 質疑応答(2026年2月10日)
- 川崎重工業 有価証券報告書(2021年3月期・2022年3月期・連結・IFRS)