ティムケンのニードル軸受取得(2009年・ジェイテクトの決断)

更新:
論点 赤字下でニードル軸受事業を買収するか
ジェイテクト:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
2期連続赤字のさなかに踏み切った同業からの事業買収

何をなぜ決めたか:2期連続赤字のさなかに踏み切った同業からの事業買収

概要

リーマン・ショックで2期連続の最終赤字に沈んでいた2009年7月、ジェイテクトが米ザ・ティムケン・カンパニーのニードル軸受事業を取得する売買契約を締結し、同年12月31日に譲り受けた経営判断。取得原価は296億96百万円で、受入純資産がこれを上回ったため負ののれん28億9百万円が生じた。

背景

2008年3月期に連結売上1兆1,576億円を計上した業績は、2010年3月期に7,696億円・営業利益4億円まで減少した。自動車用軸受で世界一の技術力と提案力を持つ企業をめざすうえで、ニードル軸受分野の強化が最優先の課題として残っていた。

内容

2009年7月29日の臨時取締役会で決議し同日売買契約を締結。対象は従業員約3,400人、生産12カ所・開発3カ所、2008年12月期売上高621百万米ドルのニードル軸受事業。法的形式は株式取得ではなく事業の譲受で、フランス2社ほか7カ国8社を結合後企業として受け入れた。

含意

需要の底で買った事業は、回復とともに軸受の品揃えと北米・欧州・アジアの生産販売体制を厚くした。同時に、旧2社の拠点網に取得拠点が重なる海外オペレーションの重さは、その後の課題として残った。

いつ何が起きたか 7件
考察:底で買収することと、買収した事業を動かすこと
考察

考察:底で買収することと、買収した事業を動かすこと

2期連続の最終赤字のさなかに290億円を投じた判断は、業績の数字だけを見れば説明が難しい。それでも取得を決めたのは、ニードル軸受という欠けた品目が、自動車用軸受で世界首位を狙ううえで避けて通れない位置にあったからだろう。低燃費車の普及で伸びる分野を、自前の投資で追いかければ工場も技術者も一から積み上げねばならない。稼働中の12工場と3,400人を一括で引き受ける方式は、需要の底という価格条件と噛み合っていた。

ただし、買って手に入るのは資産と人であって、それを動かす力ではない。ジェイテクトはこの取得の3年前に2社を合併したばかりで、北米・欧州にはすでに二重の拠点網を抱えていた。そこへ7カ国12工場が加わった結果、統合すべき対象はむしろ増えた。北米の生産の不安定が10年以上あとの決算説明会でも語られていることは、買収の巧拙とは別に、拠点を増やす判断が現場の運営能力に長く負荷を残すことを示している。安く買えたかどうかより、買ったものを何年で自社の生産方式に載せられるか——この決断が残した問いは、そちらにあるのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

ジェイテクト:連結売上高と総資産の推移

売上高(百万円)経常損益率(%)
ジェイテクト:連結売上高と総資産の推移
(百万円) 売上高経常損益総資産 備考
2005年3月期 570,24331,769510,548 光洋精工と豊田工機が合併する前の期
2006年3月期 724,34946,804849,233 2006年1月1日の合併でジェイテクトが発足
2007年3月期 1,025,29766,968945,308
2008年3月期 1,157,59472,896974,819
2009年3月期 1,017,07111,109813,461
2010年3月期 769,682△252847,005 取得は2009年12月31日。貸借対照表のみ連結し、損益は含まない
2011年3月期 955,47040,263842,220 取得した事業の損益が通年で加わった最初の期
2012年3月期 1,052,67138,649959,674
2013年3月期 1,067,52634,2401,026,933
2014年3月期 1,260,19261,8561,066,469
2015年3月期 1,355,99279,3791,126,235
出所:ジェイテクト 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)・第114期(2014年3月期)・第115期(2015年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:ジェイテクト 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)・第114期(2014年3月期)・第115期(2015年3月期)【主要な経営指標等の推移】

ジェイテクト:事業別売上高の推移

機械器具部品(百万円)工作機械(百万円)
ジェイテクト:事業別売上高の推移
(百万円) 機械器具部品工作機械 備考
2006年3月期 608,282116,066 合併で工作機械等の割合が高まり、当期から開示が始まった
2007年3月期 825,636199,660
2008年3月期 954,638202,956
2009年3月期 830,328186,743
2010年3月期 678,44691,235 ニードル軸受事業の売上高はまだ含まれていない
2011年3月期 828,962126,508 取得した事業が通年で加わった。区分の名称も工作機械へ変わった
2012年3月期 902,797149,873
2013年3月期 921,798145,728
2014年3月期 1,104,233155,958
2015年3月期 1,197,707158,284 当期に報告セグメントの区分を変更し、前期の数値も変更後の区分
出所:ジェイテクト 有価証券報告書 第106期〜第115期(事業の種類別セグメント情報・セグメント情報。外部顧客に対する売上高)
出所:ジェイテクト 有価証券報告書 第106期〜第115期(事業の種類別セグメント情報・セグメント情報。外部顧客に対する売上高)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
相手企業 ザ・ティムケン・カンパニー The Timken Company。米国オハイオ州のベアリング製造大手
取得した事業 ニードル軸受事業 結合後企業はフランス2社と独・チェコ・スペイン・米・加・中国の各1社
企業結合の法的形式 事業の譲受 株式の取得ではなく、事業そのものを譲り受ける形をとった
取締役会の決議日 2009年7月29日 臨時取締役会で決議し、同日に売買契約を締結した
企業結合日 2009年12月31日 各結合後企業の決算日にあたるため、連結したのは貸借対照表のみ
取得原価 29,696百万円 現金による対価28,251百万円と取得に直接要した費用1,444百万円
負ののれん 2,809百万円 受入純資産額が取得原価を上回って発生。5年間の均等償却
受け入れた資産 39,748百万円 流動資産13,878百万円、固定資産25,869百万円
引き受けた負債 6,413百万円 流動負債4,064百万円、固定負債2,348百万円
通期換算した売上高 38,131百万円 期首に結合したと仮定した場合の概算額。監査証明は受けていない
通期換算した損益 営業損失4,440百万円 同じ概算で経常損失は4,627百万円。監査証明は受けていない
買収資金の手当て 公募増資12,454百万円 1,500万株を1株830.28円で発行。2010年6月14日払込
第三者割当 4,156百万円 480万株を1株866円でトヨタ自動車へ割当。買収の借入返済に充当
出所:ジェイテクト 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】
出所:ジェイテクト 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】
参考文献

参考文献

参考
  • ジェイテクト 適時開示 2009年7月29日「ティムケン(米国)のニードル軸受事業の買収に関するお知らせ」
  • ジェイテクト 有価証券報告書 第125期(2025年3月期)【沿革】
  • ジェイテクト 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)・第111期(2011年3月期)・第115期(2015年3月期)
  • 光洋精工50年史(光洋精工・1969年)
  • ジェイテクト 決算説明会(2024年5月・2024年3月期)
  • ジェイテクト 有価証券報告書「第110期(2010年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • ジェイテクト 有価証券報告書「第110期・第114期・第115期【主要な経営指標等の推移】、第106期〜第115期【事業の種類別セグメント情報】【セグメント情報】」
  • ジェイテクト 適時開示「2009年7月29日「ティムケン(米国)のニードル軸受事業の買収に関するお知らせ」」

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