任天堂Nintendo Switchの発売:据置と携帯に分かれていた2つの製品ラインを1台へ集約する選択

時期 2017年3月
意思決定者(推定) 君島達己 社長
論点 据置機と携帯機の二本立てをどう畳むか
概要

2017年3月3日、任天堂がNintendo Switchを全世界で発売した経営判断。家庭用据置型テレビゲーム機でありながら本体を持ち出して遊べる形にし、それまで別々だった据置機と携帯機の製品ラインを1台へ集約した。同時発売の『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』は29日間で276万本を売り、ハードウェアは274万台、ソフトウェアは546万本の立ち上がりとなった。

背景

直前の任天堂は3期連続の営業損失を抱えていた。2012年3月期に営業損失373億円、2013年3月期に364億円、2014年3月期に464億円である。

据置機のWii Uはソフトウェアの販売本数が2017年3月期に1,480万本と前期比46%減まで落ち、携帯機のニンテンドー3DSがハードウェア727万台で会社を支える形になっていた。2つのラインを別々に維持する構造そのものが重荷だった。

内容

新しい機種は据置型として届けられた。2017年3月期の研究開発費は591億円で、同じ期にスマートデバイス向けソフトウェアの開発体制の構築も進めている。生産実績はSwitchプラットフォームだけで1,425億円に達し、同期の生産実績合計4,324億円の3割を占めた。一方、販売実績は1,109億円である。期末1か月の投入では全社を押し上げるには至らず、Wii Uの落ち込みと円高が重なって売上高は4,890億円、前期比3.0%の減収となった。

含意

翌2018年3月期、Switchプラットフォームの販売実績は7,534億円と前期比579.0%増えた。全社の売上高は1兆556億円で2.2倍、営業利益は1,775億円と6倍である。2021年3月期にはハードウェアの販売台数が2,883万台、販売実績は1兆6,664億円に達し、全社の販売実績1兆7,589億円の94.7%を1つのプラットフォームが占めるに至った。据置と携帯を分けない形は、そのまま会社の収益構造を1本にする選択でもあった。

筆者の見解

二本立てを畳むということ

据置と携帯を1台にするのは、遊び方の提案である以上に、開発資源の置き場を1か所に決める判断だったとみることができる。任天堂は長く2つのラインを並行して抱え、それぞれに専用のソフトを供給し続けてきた。Wii Uのソフト本数が1年で46%落ちたのは、市場が離れたというより、限られた開発力が2つに割れていたことの帰結であろう。1台へ集約すれば、作ったソフトはどちらの遊び方でも売れる。翌期に販売実績が579%増えた事実は、新しい機械が売れたというより、供給が1本に揃ったことの効きだったように思われる。

もっとも、集約したぶん逃げ場はなくなった。2021年3月期には全社の販売実績1兆7,589億円のうち1兆6,664億円、94.7%を1つのプラットフォームが占めている。前世代の二本立てには、片方が転んでももう片方が支えるという構造があった。それを畳んだのだから、次にこの1本が世代交代を迎えるとき、会社の売上はまるごとその成否に晒される。2025年3月期の売上高が1兆1,649億円へ30.3%落ちたのは、後継機を待つ端境期に入ったことの現れであり、1本化の代償が周期として姿を見せた期でもある。

Yutaka Sugiura

投入の条件

科目 概要 備考
発売日 2017年3月3日 全世界で同日発売。2017年3月期の期末まで29日を残す時点にあたる
位置づけ 家庭用据置型テレビゲーム機 プレイスタイルを多様化させる新しい機種として投入した
同時発売ソフト 『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』ほか 『1-2-Switch』も同時発売。前者はWii U版も同じ日に出している
初年度のハードウェア販売台数 274万台 発売から2017年3月31日までの29日間
初年度のソフトウェア販売本数 546万本 『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』が276万本。Wii U版を含め384万本
初年度の生産実績 142,583百万円 販売価格による算出。同期の生産実績合計432,499百万円の33.0%
初年度の販売実績 110,951百万円 同期の販売実績合計489,095百万円の22.7%
研究開発費 591億円 2017年3月期。スマートデバイス向けの開発体制の構築を含む
併存した前世代機 ニンテンドー3DS・Wii U 3DSはハードウェア727万台で前期比7%増、Wii Uはソフト1,480万本で46%減
翌期の販売実績 753,409百万円 前期比579.0%増。全社の販売実績は1,055,682百万円へ

出所:任天堂 有価証券報告書 第77期(2017年3月期)・第78期(2018年3月期)【業績等の概要】【生産、受注及び販売の状況】【研究開発活動】

任天堂:プラットフォーム別の販売実績

(百万円) Nintendo Switchニンテンドー3DSWii U 備考
2012年3月期 携帯ゲーム機本体・ソフト等の区分で、プラットフォーム別の開示はない
2013年3月期
2014年3月期
2015年3月期
2016年3月期
2017年3月期 110,951247,94964,383 Switchは3月3日発売の29日分。Wii Uは前期比67.5%減
2018年3月期 753,409188,269 Wii Uの区分がなくなる。Switchは前期比579.0%増
2019年3月期 1,027,93763,035
2020年3月期 1,219,32718,056
2021年3月期 1,666,405 3DSの区分もなくなる。全社の販売実績1,758,910の94.7%を占めた
2022年3月期 1,602,725
プラットフォーム別の販売実績
Nintendo Switch(百万円)ニンテンドー3DS(百万円)

出所:任天堂 有価証券報告書 第72期〜第82期【生産、受注及び販売の状況】(販売実績)

任天堂:業績の推移

(百万円) 売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2012年3月期 647,652△37,320△43,204
2013年3月期 635,422△36,4107,099
2014年3月期 571,726△46,425△23,222
2015年3月期 549,78024,77041,843
2016年3月期 504,45932,88116,505
2017年3月期 489,09529,362102,574 純利益はシアトルマリナーズ運営会社の持分売却益645億円を含む
2018年3月期 1,055,682177,557139,590 売上高は前期比115.8%増
2019年3月期 1,200,560249,701194,009
2020年3月期 1,308,519352,370258,641
2021年3月期 1,758,910640,634480,376
2022年3月期 1,695,344592,760477,691
売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:任天堂 有価証券報告書 第72期〜第82期(連結損益計算書)

出典・参考
  • [object Object]
  • 任天堂 有価証券報告書「第77期(2017年3月期)【業績等の概要】【生産、受注及び販売の状況】【研究開発活動】」
  • 任天堂 有価証券報告書「第78期(2018年3月期)【生産、受注及び販売の状況】」
  • 任天堂 有価証券報告書「第81期(2021年3月期)【業績等の概要】」

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