株式10分割と自社株買い(2022年・任天堂の決断)

論点積み上がる手元資金をどう還元するか
任天堂:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
自己株式の消却と1株10株の分割による、投資単位の引き下げ

何をなぜ決めたか:自己株式の消却と1株10株の分割による、投資単位の引き下げ

概要

2022年5月10日、任天堂が取締役会で自己株式の取得と株式分割を同時に決議した経営判断。翌11日に東京証券取引所の自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)で899,500株を506億9,582万円で買い戻し、9月30日を基準日として1株につき10株に分割、10月1日に発行済株式総数を12億9,869万株とした。定款を変え、発行可能株式総数も4億株から40億株へ引き上げている。

背景

Nintendo Switchの普及で手元資金は積み上がっていた。2021年3月期の営業活動によるキャッシュ・フローは6,121億円、現金及び現金同等物の期末残高は9,320億円に達する。

株価は1株6万円に迫り、100株の売買単位を買うのに600万円が要る水準となっていた。所有株式数に占める外国法人等の割合は2021年3月期に52.89%まで上がる一方、個人その他の株主は2万6,189人まで減少している。

内容

買い戻しに先立ち、2019年3月に1,000万株、2021年9月に180万株を消却している。発行済株式総数は1億4,166万9,000株から1億2,986万9,000株へ8.3%減少した。2021年8月には1,000億円の枠を決議し、180万株を950億5,504万円で取得している。分割の目的に挙げたのは、投資単位の水準の引き下げによる流動性の向上と投資家層のさらなる拡大である。配当方針は切り上げの単位を10円未満から1円未満へ改めただけで、連結営業利益の33%または連結配当性向50%の高い方という基準は動かしていない。

含意

分割の効いた2023年3月期、個人その他の株主は2万6,189人から13万9,900人へ5.3倍に増加し、所有株式数の割合も14.05%から17.38%へ戻した。外国法人等の割合は49.78%から45.98%へ下がったが、翌2024年3月期には50.20%へ復している。投資単位を10分の1にして増加したのは個人の頭数で、株式の過半を海外の法人が握る構図そのものは動いていない。

いつ何が起きたか8件
当時の取締役10名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 古川俊太郎:社長
  • 宮本茂:フェロー
  • 高橋伸也:専務執行役員
  • 塩田興:上席執行役員
  • 柴田聡:上席執行役員
  • 野口直樹:取締役(監査等委員・常勤)
  • 梅山克啓:取締役(監査等委員)
  • 山嵜正雄:取締役(監査等委員)
  • 新川麻:取締役(監査等委員)
  • ChrisMeledandri:取締役
考察:10分の1にして呼び込んだもの
考察

考察:10分の1にして呼び込んだもの

1,000万株と180万株の消却で発行済株式の8.3%を消し、その先で1株を10株に割った。順序が逆でないところに、この資本政策の性格が出ている。先に株数を減らして1株の重みを増し、そのうえで売買単位を10分の1に下げたのだから、狙いは希薄化の緩和ではなく、単純に窓口の幅を広げることにあったと推察される。1株6万円という株価は、100株単位でしか買えない市場では600万円の壁である。壁を崩すのに増資は要らず、既にある株を割ればよい。手元に1兆円の現金を抱えた会社が、資金調達ではなく分母の刻み方だけを動かしたのは、そういう判断であろう。

もっとも、増加したのは頭数であって重みではない。個人その他の株主は5.3倍の13万9,900人になったが、所有株式数の割合は14.05%から17.38%へ3.33ポイント動いただけで、翌期には15.36%へ戻っている。外国法人等の割合も一度45.98%まで下がったのち50.20%へ復した。株式の過半を海外の法人が握る構図は、分割の前後で変わっていない。投資家層の拡大という目的は、株主名簿の行数としては達せられ、議決権の分布としては達せられなかった。日本の個人が任天堂の株を保有しやすくなったことと、任天堂の株主が日本の個人になったことは別の話である。

数字で見る3表

数字で見る

図と表

任天堂:株主数の推移

個人その他(人)
任天堂:株主数の推移
(人)個人その他金融機関外国法人等(法人)備考
2018年3月期36,332771,007
2019年3月期48,22298998
2020年3月期35,780871,105
2021年3月期28,6381061,296
2022年3月期26,1891131,212分割前。1単元100株を買うのに600万円近くを要した
2023年3月期139,9001221,2162022年10月の分割後、最初の基準日。個人その他は前期の5.3倍
2024年3月期117,0041121,276
2025年3月期114,2191131,276
出所:任天堂 有価証券報告書 第78期〜第85期【所有者別状況】
出所:任天堂 有価証券報告書 第78期〜第85期【所有者別状況】

任天堂:所有株式数の割合の推移

任天堂:所有株式数の割合の推移
(%)外国法人等(法人)金融機関個人その他備考
2018年3月期47.9325.2921.34
2019年3月期49.2226.4717.9
2020年3月期50.9927.7515.65
2021年3月期52.8926.414.32外国法人等が過半を占めた期
2022年3月期49.7829.8214.05
2023年3月期45.9830.3217.38分割後。個人その他が3.33ポイント戻し、外国法人等は3.80ポイント下がった
2024年3月期50.228.8915.36
2025年3月期51.0229.2514.95
出所:任天堂 有価証券報告書 第78期〜第85期【所有者別状況】
出所:任天堂 有価証券報告書 第78期〜第85期【所有者別状況】

資本政策の条件

資本政策の条件
科目概要備考
取締役会の決議日2022年5月10日自己株式の取得、株式分割、定款の一部変更、配当方針の変更を同じ日に決議した
自己株式の取得枠1,000,000株・563億6,000万円取得期間は2022年5月11日の1日のみ
取得した自己株式899,500株・506億9,582万円東京証券取引所の自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)。未行使割合は10.1%
分割の割合1株につき10株基準日は2022年9月30日、効力発生日は2022年10月1日
分割前の発行済株式総数129,869,000株分割により1,168,821,000株増加し、1,298,690,000株となった
発行可能株式総数4億株から40億株へ定款第6条の変更。効力発生日は分割と同じ2022年10月1日
資本金の額変更なし株式分割に際して資本金の額は動かしていない
分割の目的投資単位の水準の引き下げ株式の流動性の向上と投資家層のさらなる拡大を図る
配当方針連結営業利益の33%または連結配当性向50%高い方を1株当たり年間配当金とする。切り上げの単位を10円未満から1円未満へ改めた
2021年の取得1,800,000株・950億5,504万円2021年8月5日決議。取得期間は8月6日から9月15日、枠は1,000億円
2021年の消却1,800,000株・316億877万円2021年9月16日実施。発行済株式総数は131,669,000株から129,869,000株へ
2019年の取得1,000,000株・309億9,994万円2019年2月22日決議、枠は330億円。取得期間は3月13日から4月12日
2019年の消却10,000,000株2019年3月29日実施。発行済株式総数は141,669,000株から131,669,000株へ
出所:任天堂 有価証券報告書 第79期(2019年3月期)・第82期(2022年3月期)・第83期(2023年3月期)【自己株式の取得等の状況】【株式の総数等】【重要な後発事象】
出所:任天堂 有価証券報告書 第79期(2019年3月期)・第82期(2022年3月期)・第83期(2023年3月期)【自己株式の取得等の状況】【株式の総数等】【重要な後発事象】
当時の取締役10名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 古川俊太郎:社長
  • 宮本茂:フェロー
  • 高橋伸也:専務執行役員
  • 塩田興:上席執行役員
  • 柴田聡:上席執行役員
  • 野口直樹:取締役(監査等委員・常勤)
  • 梅山克啓:取締役(監査等委員)
  • 山嵜正雄:取締役(監査等委員)
  • 新川麻:取締役(監査等委員)
  • ChrisMeledandri:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • 任天堂 有価証券報告書 第78期〜第85期
  • 任天堂 有価証券報告書「第82期(2022年3月期)【重要な後発事象】」
  • 任天堂 有価証券報告書「第82期(2022年3月期)【自己株式の取得等の状況】」
  • 任天堂 有価証券報告書「第79期(2019年3月期)【自己株式の取得等の状況】【株式の総数等】」
  • 任天堂 有価証券報告書「第83期(2023年3月期)【所有者別状況】【株式の状況】」

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