freee課金機能が未完成のままの会計ソフトfreeeの投入と、「無料期間」としての先行公開

機能がそろうのを待つか、無料と称して先に出すか——日本初を掲げた統合型クラウド会計の売り出し方

時期 2013年3月
意思決定者(推定) 佐々木大輔 CFO株式会社(現・フリー株式会社) 社長
論点 製品投入の時期と課金の設計
概要
2013年3月、CFO株式会社(現・フリー株式会社)が全自動クラウド型会計ソフト「freee」をリリースした。佐々木大輔社長は後年、この時点で製品に課金機能がなく、公には「今は無料期間中です」と告知しながら裏側で課金機能を作っていたと明かしている。
背景
佐々木社長はALBERTで経理担当執行役員を務めた際に紙を回す経理処理の煩わしさに直面し、経理自動化の着想を得た。請求・入金・レジ・支払いをこなせば自動的に帳簿がつく「統合型」を日本で初めて投入する構想で、開発の難易度は高かった。
内容
無料は6月までとし、7月以降は青色申告に対応する個人事業主プランが月額980円、会社法に対応する法人プランが月額1,980円とした。従来の代表的な同種クラウドサービスの半額である。会計を扱う会社が、自社の課金の仕組みを持たないまま製品を先に出した。
含意
リリースから2か月で3,300事業所が登録し、2013年5月下旬のIVSローンチパッドでは出場12社のうち優勝を果たした。同年7月、有料プランの開始に合わせて商号をCFO株式会社からフリー株式会社へ改め、製品名を社名に据えている。
筆者の見解

順番を先に決めるということ

会計ソフトを売る会社が、自社が代金を受け取る仕組みを最後に回した。2013年3月に出たfreeeには課金機能がなく、佐々木大輔社長は「今は無料期間中です」と告知しながら裏で課金機能を作っていた。統合型という設計は、請求も入金もレジも支払いも一本につなぐことを前提としており、作り込みに時間がかかる。中核を先に仕上げ、代金の回収を後ろへ置く。この順番は、製品が受け入れられるかどうかを価格より先に確かめる選択だった。

2か月で3,300事業所という登録は、無料の期間に積まれた。7月から月980円と1,980円を払い続けた事業者がどれだけ残ったかは、当時の誌面からは辿れない。無料で集めてから課金へ移す売り方は、移した先で人が減れば何も残らない。それでも会社は2014年10月に給与計算、2015年6月に会社設立へと対象業務を広げた。開発難度が高いと佐々木社長自身が認める統合型を、絞るのではなく広げる側で通した。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

経理を担当した創業者が見た、紙を回す実務

佐々木大輔氏は会計士でも技術者でもなかった。1980年生まれ、2004年に一橋大学商学部を出て博報堂に入り、CLSAキャピタルパートナーズを経て、2007年から2008年までレコメンドエンジンのALBERTで経理担当執行役員を務めた。そこで紙を回す前近代的な経理処理の煩わしさに直面し、経理を自動化するという着想を得た。その後2012年までグーグル日本法人に勤め、退職して起業した[1]

freeeが置いた前提は、帳簿を人が書くものとしない点にあった。請求書を出し、入金を確かめ、レジを打ち、支払いをする——会社が必ずやる業務をこなしていれば自動的に帳簿がつき、その帳簿が経営分析にも決算書にも確定申告にもつながる。佐々木社長はこれを「統合型」と呼び、日本で初めて投入するところから会社の歴史が始まったと後年説明した。提供のための開発難易度は高いとも認めていた[2]

スモールビジネスという顧客の置き方

統合型を必要とする相手として佐々木社長が見ていたのは、全国に630万ある個人事業主と中小企業であった。中小企業庁の統計で日本の事業者の99.7%を占めるこの層は、経理の専任者を置く余裕を持たない。原体験は自身の実家にあり、祖父が始めた美容院は、美容師は女性がやる仕事といわれた時代に男性美容師ばかりを集めて地域で流行った。しがらみのない小さな事業者こそ新しいことに挑む存在だという見方が、顧客の置き方を決めていた[3]

会社は2012年7月、東京都港区にCFO株式会社として資本金100万円で設立された。製品の投入までには8か月かかっている。統合型は、金融機関やクレジットカード会社との連携を先に組み込まなければ成り立たない。クレジットカード番号を登録して決済をカード経由にまとめれば、入金管理と帳簿の書き込みが自動で進む——2013年3月に出た製品はそういう作りであり、単機能の記帳ソフトより手間のかかる設計であった[4][5]

決断

課金の仕組みを持たないまま出す

2013年3月、CFO株式会社は全自動クラウド型会計ソフト「freee」をリリースした。このとき製品に課金機能はなかった。佐々木大輔社長は2021年6月の発表会で、会計ソフトfreeeを一番最初にリリースした際は課金機能なしで提供を始め、公には「今は無料期間中です」「無料でご利用いただけます」と言いながら、裏側で一生懸命に課金機能を作っていたと明かしている。代金を受け取る側の仕組みだけが、製品に間に合っていなかった[6]

課金機能を後回しにした理由を、佐々木社長は難度の高さに置いている。有料でサブスクリプション課金を受け取る機能は簡単そうに聞こえて実際は複雑であり、業務用のアプリを開発する会社にとって大きなボトルネックになる、というのが後年の説明である。利用者が触る統合型の中核を先に仕上げ、自社が代金を受け取る側の仕組みを後ろへ回す。佐々木社長は開発の順番をそう置いた[7]

無料期間の終わりに置いた価格

会社は無料期間を6月までと区切った。7月以降の料金は、青色申告に対応する個人事業主プランが月額980円、会社法に対応する法人プランが月額1,980円で、従来の代表的な同種クラウドサービスの半額である。3か月あまりの無料期間は、課金機能の開発期間であると同時に、価格を出す前に利用者を積む期間でもあった。半額という水準は、経理の専任者を置けない層をまとめて取りにいく構えだった[8]

2013年5月下旬、札幌で開かれたインフィニティ・ベンチャーズ・サミットのローンチパッドに、佐々木社長率いるCFOが出場した。スタートアップの創業者がビジネスアイデアを6分で話すこの催しで、出場12社のうち優勝を果たした。有料化を1か月あまり後に控えた時期に、ベンチャーの集まる場で製品の名前が知られた。課金の仕組みは、この1か月あまりのうちに間に合った[9]

結果

2か月で3,300事業所と、社名の付け替え

反応は数で表れた。リリースから2か月で、3,300事業所がfreeeに登録している。佐々木大輔社長は当時、2か月で3,300事業所から登録があり想定は間違っていなかったとほっとしている、と語った。課金機能のないまま出した製品が、価格を示す前に一定の利用者を集めた。統合型を自動化の道具として受け入れる事業者がいるかどうかを、freeeは価格を示す前に確かめた[10]

2013年7月、会社は商号をCFO株式会社からフリー株式会社へ改めた。有料プランが始まる月に、社名を製品名へ合わせた。製品の並びも会計の外へ広がり、2014年10月にクラウド給与計算ソフトfreee、2015年6月に会社設立freeeを出した。設立から3年で、会計ソフトの会社という枠を自ら外した。統合型のかたちをとるのは今でもfreeeだけだと、佐々木社長は2021年に述べた[11][12]

出典・参考
  • freee 新戦略発表会 説明・質疑応答(2021年6月22日)
  • 週刊東洋経済 2013年6月7日号「特集 起業100のアイデア 金融 家計簿や決済、経理、資産管理をネットのフル活用で効率化」
  • フリー株式会社 有価証券報告書【沿革】
  • フリー株式会社 有価証券報告書(2016年6月期・単体)

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