ゆうちょ銀行全国銀行データ通信システム接続:郵便局網の中で完結していた送金に、銀行間の決済網を重ねた選択
更新:
- 概要
-
2009年1月、全国銀行データ通信システムによる他の金融機関との内国為替の取扱を始めた。2007年10月の民営化で銀行法に基づく免許を得てから1年3か月後にあたる。
郵便為替・郵便振替に由来する送金の仕組みを郵便局のネットワークの中に残したまま、そこへ銀行間の決済網を重ね、他行あての送金(仕向)と他行からの送金(被仕向)の双方が通るようにした。為替業務は、預入限度額内での貯金業務・有価証券投資業務と並ぶ銀行の固有業務にあたる。
- 背景
-
郵便為替事業は明治8年1月、郵便振替事業は明治39年3月に創業し、以後130年余り、送金は郵便局の窓口と自前の仕組みの中で完結していた。国の直営から日本郵政公社を経て、2007年10月に承継会社として開業したことで、銀行法の枠組みの下で為替業務を営む立場に変わった。
日本郵便は郵便の役務とあわせ、簡易な貯蓄と送金・債権債務の決済の役務を利用者本位の簡便な方法であまねく全国で公平に利用できるようにする責務を負い、郵便局19,875局・簡易郵便局4,004局が当行の代理店になっている。
- 内容
-
接続後の取扱状況は、仕向と被仕向に分けて開示された。2017年3月期は仕向が27,897千口・21兆5,165億円、被仕向が92,705千口・20兆7,984億円で、被仕向の口数は仕向の3.3倍にあたる。他行へ送るためというより、他行から入ってくる資金の受け皿として使われた。
通常貯金・定額貯金・定期貯金と並び、普通為替・定額小為替・通常払込み・電信振替は銀行窓口業務契約でユニバーサルサービスの対象に残り、郵便時代からの独自の送金手段は廃止されていない。
- 含意
-
受入為替手数料は2016年3月期の609億円から2026年3月期には1,017億円となり、役務取引等収益1,957億円の半分を占める。運用収益に頼らない稼ぎの柱が、決済の取扱量そのものから立ち上がった。
他方で、他の金融機関へ支払う為替手数料が36億円から41億円へ増え、窓口の事務を担う日本郵便へは送金決済その他役務の提供事務等として取扱件数に単価を乗じた額を払う。2025年度の基本委託手数料2,978億円のうち送金等は1,219億円にのぼる。
独自網を守らずに、普通の銀行の土俵へ出た
この接続で起きたのは、送金の経路が増えたことではなく、ゆうちょの口座が他の金融機関から見て「振り込める口座」になったことだったとみられる。郵便為替と郵便振替の系譜に立つ独自の仕組みは、郵便局の窓口の数がそのまま強みになる閉じた世界で、他行と接続しなければ手数料を外へ払う必要もなかった。その優位を守る道もあり得たはずだが、選ばれたのは共通の決済網に乗ることだった。被仕向の口数が仕向の3.3倍という偏りは、その帰結をよく表しているように見える。給与や年金が他行から流れ込む受け皿として使われる口座は、閉じた網の中では成立しない。
もっとも、独自の送金手段を捨てたわけではない点は見落とせない。普通為替・定額小為替・通常払込み・電信振替は今もユニバーサルサービスの対象として残り、二つの仕組みを併存させたまま運ばれている。受入為替手数料が1,017億円へ伸びて役務取引等収益の半分を占める一方、その事務を担う郵便局網へは送金等だけで1,219億円を払う構図でもある。決済で稼ぐ額と、決済を全国で成り立たせるために払う額が同じ桁で並ぶ状態をどう均していくかは、なお開かれた問いとして残っているのではないか。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
決済網へ接続した条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 接続した先 | 全国銀行データ通信システム | 銀行間の内国為替を担う決済網。当行の情報通信システムはここと常時通信している |
| 取扱の開始 | 2009年1月 | 2007年10月の民営化による開業から1年3か月後にあたる |
| 扱えるようになった取引 | 他の金融機関との内国為替 | 仕向(他行あての送金)と被仕向(他行からの送金)の双方 |
| 業務上の位置づけ | 銀行法に基づく固有業務 | 預入限度額内での貯金業務、有価証券投資業務と並ぶ。新規業務の認可の対象ではない |
| 残した独自の送金手段 | 普通為替・定額小為替・通常払込み・電信振替 | 通常貯金等とあわせ、銀行窓口業務契約でユニバーサルサービスの対象に置かれている |
| 取扱の規模 | 仕向27,897千口・被仕向92,705千口 | 2017年3月期。金額は仕向21兆5,165億円、被仕向20兆7,984億円 |
| 窓口の担い手 | 郵便局19,875局・簡易郵便局4,004局 | 2016年3月31日現在。ほかに当行の直営店が全国234箇所 |
| 窓口網へ払う対価 | 取扱件数 × 単価 | 送金決済その他役務の提供事務等の算定式。2019年度から現行の方式に改めた |
| 送金決済に係る委託手数料 | 1,219億円 | 2025年度の基本委託手数料2,978億円の内訳。ほかに総預かり資産1,337億円 |
| システムの位置づけ | 事業にとって極めて重要な機能 | 郵便局ネットワークや全国銀行データ通信システム等との通信が止まれば業務が停止する |
出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第10期(2016年3月期)【沿革】【事業の内容】【事業等のリスク】【業務の状況】/第11期(2017年3月期)【業務の状況】/第20期(2026年3月期)【経営上の重要な契約等】
ゆうちょ銀行:全国銀行データ通信システムによる内国為替の取扱状況
| (千口) | 仕向(他行あての送金) | 被仕向(他行からの送金) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2009年3月期 | − | − | 2009年1月に取扱を開始した期。当時の有報は手元になく、口数を照合できていない |
| 2010年3月期 | − | − | |
| 2011年3月期 | − | − | |
| 2012年3月期 | − | − | |
| 2013年3月期 | − | − | |
| 2014年3月期 | − | − | |
| 2015年3月期 | 24,252 | 67,192 | 金額は仕向21兆7,691億円、被仕向15兆4,152億円 |
| 2016年3月期 | 26,793 | 79,485 | 金額は仕向23兆5,862億円、被仕向17兆6,259億円 |
| 2017年3月期 | 27,897 | 92,705 | 金額は仕向21兆5,165億円、被仕向20兆7,984億円。口数の開示はこの期まで |
| 2018年3月期 | − | − | 連結ベースの記載に改まり、内国為替の口数は開示されていない |
| 2019年3月期 | − | − |
出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第10期(2016年3月期)【業務の状況】内国為替の状況 / ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第11期(2017年3月期)【業務の状況】内国為替の状況
ゆうちょ銀行:役務取引等収益と為替手数料の推移
| (百万円) | 役務取引等収益 | 受入為替手数料 | 支払為替手数料 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2016年3月期 | 123,019 | 60,921 | 3,653 | 単体。役務取引等収益の大部分が為替・決済業務と投資信託販売手数料 |
| 2017年3月期 | 119,465 | 60,991 | 3,814 | |
| 2018年3月期 | 130,041 | 61,289 | 4,098 | |
| 2019年3月期 | 138,794 | 63,591 | 4,400 | |
| 2020年3月期 | 160,564 | 82,352 | 4,789 | 受入為替手数料が前期比で188億円増え、8百億円台に乗る |
| 2021年3月期 | 157,376 | 86,754 | 5,096 | |
| 2022年3月期 | 157,710 | 85,458 | 3,926 | |
| 2023年3月期 | 174,834 | 91,048 | 2,839 | |
| 2024年3月期 | 181,084 | 89,583 | 3,231 | |
| 2025年3月期 | 184,109 | 91,192 | 3,715 | |
| 2026年3月期 | 195,717 | 101,746 | 4,105 | 受入為替手数料が1,017億円。役務取引等収益に占める割合は52% |
出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第10期〜第20期(損益計算書)
同じ問いに直面した会社
- ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第10期(2016年3月期)【沿革】【事業の内容】【事業等のリスク】【業務の状況】【経営上の重要な契約等】」
- ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第11期(2017年3月期)【業務の状況】内国為替の状況」
- ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第20期(2026年3月期)【経営上の重要な契約等】【損益計算書】」