ゆうちょ銀行日本郵政の第2次売出しと自己株取得:1,500億円の自己株式取得で親会社の持分を約89%から61%へ下げ、新規業務の認可規制が外れる要件へ近づいた選択

更新:

時期 2023年2月
意思決定者(推定) 池田憲人 取締役兼代表執行役社長
論点 親会社持分の引き下げと新規業務規制の緩和
概要

2023年2月27日、ゆうちょ銀行が取締役会で総額1,500億円を上限とする自己株式の取得及び消却を決議した経営判断。翌3月、親会社の日本郵政が当行普通株式1,112,166,200株を処分し、普通株式の第2次売出しを実施した。日本郵政の当行に対する議決権所有割合は売出し実施前の約89%から60.63%へ下がり、発行済株式総数は2度の消却を経て3,617,602,420株となった。

背景

郵政民営化法は、日本郵政が保有する当行株式について、その全部を処分することを目指し、当行の経営状況とユニバーサルサービスの提供への影響等を勘案しつつ、できる限り早期に処分するものとしている。日本郵政はJPビジョン2025で、中期経営計画期間中(2021年度〜2025年度)のできる限り早期に金融2社株式の保有割合を50%以下とする方針を打ち出していた。

当行は2022年4月にプライム市場へ移行したものの、上場維持基準のうち「流通株式比率35%以上」に適合せず、2021年11月12日に提出した計画書による経過措置の適用を受けていた。

内容

自己株式の取得は2枠に分かれた。第1枠は80,000,000株・700億円を上限に、3月1日から10日までを取得期間とする自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)で、59,523,800株・69,999百万円を初日のうちに取得し、同月17日に消却した。

第2枠は90,000,000株・800億円を上限に、3月22日から5月12日までの取引一任契約に基づく市場買付で、72,418,800株を取得して5月31日に消却した。日本郵政が自己株式の取得に応じて売り付けたのが3月3日、本売出しの期間が3月20日から31日までである。

含意

流通株式比率は売出し実施前の約10.6%から34.5%まで改善したが、プライム市場の上場維持基準35%には僅かに届かなかった。郵政民営化法第110条が定める新規業務の認可は、日本郵政が当行株式の2分の1以上を処分した旨を総務大臣に届け出た日以後、届出制へ移る。第2次売出し後の保有割合60.63%はその要件に届かず、規制の緩和は2025年3月の第3次売出しを経て実現した。

筆者の見解

資本の距離が業務の自由度に化けるまで

この売出しは、資金を調達する取引ではない。売り手は親会社の日本郵政で、当行に入る金はなく、むしろ1,500億円を払って自社株を引き取る側に回っている。それでも当行がこれを自らの経営判断として決議したのは、親会社の持株比率が、当行にとって業務の自由度そのものだったからであろう。郵政民営化法第110条は、新規業務のたびに内閣総理大臣及び総務大臣の認可を求める。この鎖が外れる条件は、当行の業績でも計画でもなく、日本郵政が持分の2分の1以上を手放すことだけである。自社の努力が届かない場所に自由度の鍵が置かれている以上、親が売る機会をとらえて自ら現金を出す以外に、近づく方法がなかったのだとみることができる。

もっとも、この一手は目標をどちらも取り逃がしている。流通株式比率は約10.6%から34.5%まで上がったが、プライム市場の上場維持基準35%には届かなかった。持分も60.63%で止まり、認可制が外れる2分の1の線までは遠い。規制が実際に緩んだのは2年後、第3次売出しを経た2025年6月27日である。上場から8年を要してようやく届出制に移ったという事実は、この銀行の自由度が経営の巧拙ではなく、親会社の処分の歩みに従属して決まってきたことを示している。第2次売出しは、その長い階段の一段だったというべきかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

売出しと自己株式取得の条件

科目 概要 備考
売出しの主体 日本郵政株式会社(親会社) 売出し実施前は発行済株式(自己株式を除く)の約89%を保有していた
取締役会の決議日 2023年2月27日 総額1,500億円を上限とする自己株式の取得及び消却を決定した
売出しの目的 流通株式比率の改善への寄与 当行の株価、日本郵政の資金需要、同社の連結業績への影響等を勘案した
自己株式取得(第1枠) 80,000,000株・70,000百万円が上限 取得期間2023年3月1日〜3月10日。自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)
第1枠の取得実績 59,523,800株・69,999百万円 2023年3月1日をもって終了。同月17日に全株を消却した
自己株式取得(第2枠) 90,000,000株・80,000百万円が上限 取得期間2023年3月22日〜5月12日。取引一任契約に基づく市場買付
第2枠の取得実績 72,418,800株 当事業年度20,277,700株、当期間52,141,100株。4月27日に終了
自己株式の消却 2023年3月17日・5月31日 それぞれ59,523,800株と72,418,800株を消却した
発行済株式総数 3,749,545,020株→3,617,602,420株 2023年5月31日の消却後。有価証券報告書提出日現在の総数
日本郵政が処分した株式数 1,112,166,200株 所有株式数は3,337,032,700株から2,224,866,500株へ減った
自己株式の取得に応じた売付け 2023年3月3日 日本郵政側の企業結合日。ToSTNeT-3による当行の買付けに応じた分
本売出しの期間 2023年3月20日〜3月31日 日本郵政側の企業結合日。現金を対価とする株式の一部の売却
売出価格 有価証券報告書に記載なし 売出しの主体は親会社で、価格の条件は当行の開示に載らない
日本郵政の議決権所有割合 約89%→60.63% 2023年3月末日現在。大株主の状況では2,224,866,500株・60.62%
流通株式比率 約10.6%→34.5% プライム市場の上場維持基準35%に僅かに届かなかった
日本郵政の持分変動 資本剰余金1,532,635百万円の減少 非支配株主との取引として処理した日本郵政側の会計処理
規制緩和の要件 日本郵政による2分の1以上の処分 総務大臣への届出日以後、新規業務は認可制から届出制へ移る

出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第17期(2023年3月期)【沿革】【事業の内容(参考)】【事業等のリスク】【株式等の状況】【自己株式の取得等の状況】 / 日本郵政 有価証券報告書 第18期(2023年3月期)【企業結合等関係】

ゆうちょ銀行:日本郵政の所有株式数と発行済株式総数の推移

(株) 発行済株式総数日本郵政の所有株式数 備考
2018年3月期 4,500,000,0003,337,032,700 発行済株式(自己株式を除く)の総数に対する所有株式数の割合は88.99%
2019年3月期 4,500,000,0003,337,032,700 割合88.99%
2020年3月期 4,500,000,0003,337,032,700 割合88.99%
2021年3月期 4,500,000,0003,337,032,700 割合88.99%
2022年3月期 3,749,545,0203,337,032,700 2021年9月に自己株式750,454,980株を消却。割合88.99%
2023年3月期 3,690,021,2202,224,866,500 第2次売出しと消却により割合60.62%。議決権では60.63%
2024年3月期 3,617,602,4202,224,866,500 2023年5月の消却で分母が減り、割合は61.50%へ戻った
2025年3月期 3,604,335,5201,802,167,900 第3次売出しにより割合50.04%。議決権では50.05%
2026年3月期 3,575,878,7201,777,115,400 割合49.87%
2027年3月期 第21期は未到来
2028年3月期
発行済株式総数に占める日本郵政の所有株式数
日本郵政の所有株式数(株)日本郵政以外の所有株式数(株)

出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第12期〜第20期(【株式等の状況】発行済株式、発行済株式総数・資本金等の推移、大株主の状況)

ゆうちょ銀行:自己資本と総資産の推移

(百万円) 自己資本総資産 備考
2018年3月期 11,521,217210,629,821
2019年3月期 11,357,397208,974,134
2020年3月期 8,993,311210,910,882 その他有価証券評価差額金の縮小による
2021年3月期 11,370,088223,870,673
2022年3月期 10,270,220232,954,480
2023年3月期 9,615,094229,582,232 自己株式の取得により株主資本が減少した期
2024年3月期 9,666,829233,907,990
2025年3月期 9,040,153233,601,531 第3次売出しに伴う自己株式取得を実施した期
2026年3月期 9,213,449226,571,574
2027年3月期 第21期は未到来
2028年3月期
自己資本と自己資本比率
自己資本(百万円)自己資本率(%)

出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第12期〜第20期(【主要な経営指標等の推移】連結総資産額、普通株式に係る期末の純資産額)

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出典・参考
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第17期(2023年3月期)【沿革】【事業の内容(参考)】【事業等のリスク】【株式等の状況】【自己株式の取得等の状況】」
  • 日本郵政 有価証券報告書「第18期(2023年3月期)【企業結合等関係】」
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第19期(2025年3月期)【沿革】」
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第20期(2026年3月期)【沿革】【事業の内容(参考)】」
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第12期〜第20期(【主要な経営指標等の推移】【株式等の状況】)」

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