LINE韓国NAVER傘下のままでの東京証券取引所第一部・ニューヨーク証券取引所への同時上場

日本の会社として値をつけられるか、世界のテック企業として並べられるか——親会社の持分を8割強残したまま日米の市場に出た資本政策

時期 2016年6月
意思決定者(推定) 出澤剛(社長)・李海珍 取締役会長、NAVER取締役会議長
論点 上場市場の選択と親子上場
概要
2016年7月14日(現地時間)にニューヨーク証券取引所へ、翌15日に東京証券取引所市場第一部へ、LINEが同時に上場した経営判断。日本企業が東証とニューヨークに同時上場した初の例で、公開価格は3,300円、報道ベースの調達額は1,320億円と、2016年最大の新規株式公開となった。
背景
2013年10月に日本経済新聞が伝えた「2014年夏をめど」の上場計画は、2014年9月に親会社である韓国NAVERの判断で見送られた。その後の2年間でLINEは日本・台湾・タイ・インドネシアの4か国へマーケティングを集中させ、2016年3月末には月間アクティブユーザー(MAU)2億1,800万人のうち1億5,200万人をこの4か国が占めた。
内容
2016年6月10日、東証が上場を承認し、同日、米国証券取引委員会へ米国預託株式の登録届出書(Form F-1)を提出した。国内外あわせて3,500万株を募集し、公開価格は仮条件上限の3,300円、米国預託株式は32.84ドルに決まった。ニューヨークでのティッカーは「LN」であった。
含意
上場前にNAVERが100.0%を保有していた株式は、上場後も8割強が親会社に残った。東証1部への新規上場は原則35%以上の流通を求めるが、海外市場への同時上場では個別に判断する特例があり、LINEはこれに拠った。市場での評価を求めながら、親子上場の形は上場後も動かなかった。
筆者の見解

誰に値をつけてもらうかという選択

上場前のLINE株は、NAVERが100.0%を保有していた。上場後も8割強が親会社の手元に残り、市場に出回る株式は東証1部の原則である35%に遠く届かない。それでも東京とニューヨークの両方に名を出したのは、資金を集めるためというより、どの市場の誰に値をつけてもらうかを選ぶためだった。「私たちのような会社は日本市場には存在しない」という舛田淳氏の言葉は、比較される相手の不在を訴えている。国内最大のIPOであることよりも、世界のテック企業として並べられることを、この会社は上場の意味に据えていた。

ただ、初日の終値4,345円は初値を555円下回り、公開価格を48%上回った熱は同じ日のうちに冷めた。流通株式の少なさは海外同時上場を理由に特例で認められたもので、李海珍氏が語った「段階を経て」の持分低下も、市場を通じては進まなかった。親子関係が動いたのは、ソフトバンクとの経営統合と上場廃止という別の経路においてである。世界基準で評価されるという選択は、評価してくれる市場に居続けられる限りで成り立つ。4年半という在位期間が、その条件を後から示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

一度は取り下げられた上場計画

2013年10月25日、日本経済新聞は、LINEが東京証券取引所へ上場する方針を固めたと伝えた。時期は2014年夏をめど、時価総額は1兆円規模になる可能性があるという見通しであった。同社はその年の4月にNHN Japanから商号を改めたばかりで、コミュニケーションアプリ「LINE」の月間アクティブユーザー数が1億人を超えたのは、報道の3か月前にあたる7月であった。ところが2014年9月、親会社である韓国のNAVERは、年内の上場を見送ると公表した[1][2]

見送りの理由として、NAVERの黄仁埈CFOは、業績を一段と拡大することで企業価値をさらに高められるという考えを挙げた。李海珍氏は2年後の取材で、当時をこう振り返っている。「最初に検討した当時は、メッセンジャーアプリの競争が非常に激しかったので、戦略的な増資をするのか、あるいは上場を目指すのか、あらゆる可能性について準備はしておくべきだと考えました」。上場は決まった予定ではなく、資金調達の選択肢の一つとして手元に置かれていた[3][4]

4か国への集中と、100%の親会社

上場を先送りした2年間に、LINEは事業の的を絞った。2015年から日本・台湾・タイ・インドネシアへマーケティングを集中させ、2016年3月末には月間アクティブユーザー(MAU)2億1,800万人のうち1億5,200万人をこの4か国が占めた。半面、4か国以外のMAUは減少しており、上場申請の書類はその減少が続く可能性を自ら記していた。広げることをやめて絞る選択が、上場を待った2年間の中身であった[5][6]

絞り込みが進む一方で、資本の構えは動かなかった。上場前のLINE株は、NAVERが1億7,499万2,000株、比率にして100.0%を握っていた。役員も重なっており、NAVER取締役会議長の李海珍氏がLINE取締役会長を、LINE取締役CFOの黄仁埈氏がNAVER取締役を兼ねていた。上場申請の書類は、方針決定を「独自の意思決定によって進めております」と書きつつ、両社の間に事業の棲み分けに関する契約は存在しないとも記していた[7][8]

決断

日米同時上場という選択

2016年6月10日、東京証券取引所がLINE株式の新規上場を承認し、同社は同日、米国証券取引委員会へ米国預託株式の登録届出書(Form F-1)を提出すると併せて公表した。リリースは理由を「アジア市場での優位性を確固たるものにし、また、グローバル展開により一層積極的に取り組んでいくべく、新たな挑戦として、日米両国において新規上場を行う」と記している。ニューヨーク証券取引所への上場は7月14日(現地時間)、東証への上場は7月15日と定められた[9]

なぜ日本だけで済ませなかったのか。取締役CSMOの舛田淳氏は上場後の取材で「私たちのような会社は日本市場には存在しない」と述べ、グローバル企業としての透明性の担保を挙げている。李海珍氏も「最初から、日米での同時上場が良い形だと思っていました」と語った。日本企業が東証とニューヨークに同時上場した例はこれが初であり、値をつける相手を、国内の投資家だけに限らなかった[10][11]

2014年ではなく2016年だった理由

2年の遅れについて、李海珍氏の説明は明快であった。「安定的で継続性のある収益を上げられる体制が確立していないままIPOをして、一般の株主の方々から資金を得るというのは、責任感のないことだと思います」。舛田氏も、2014年の時点では「ユーザーベースだけを闇雲に拡げていくことに何も意味はないのではないか」と考えていたと述べ、上場を可能にした条件として、アジアへの集中、各国の文化への適合、生活全般の入り口となるサービス設計の3つを挙げた[12][13]

一方で、NAVERの持分を大きく減らす道は選ばれなかった。上場後もNAVERはLINE株の8割強を保有し、市場に出回る株式は少なかった。東証1部への新規上場は原則として35%以上の株式が市場に流通することを求めるが、海外市場に同時上場する場合は個別に判断する特例があり、LINEはこれに拠った。李海珍氏は、NAVERの持分を下げることについて「いずれは、段階を経て、そのようになっていくのだと思っています」と述べるにとどめている[14][15]

結果

公開価格3,300円と、初日の1兆円

6月28日に決めた仮条件2,900〜3,300円は7月4日に変更され、7月11日、公開価格は上限の3,300円に決まった。米国預託株式は1株32.84ドルで、米側の仮条件28.5〜32.5ドルを上回っている。上場承認の時点では想定発行価格2,800円・想定時価総額5,880億円と伝えられており、需要は当初の見込みを超えた。国内外あわせた募集は3,500万株、報道ベースの調達額は1,320億円で、2016年最大の新規株式公開であった[16][17]

7月14日、ニューヨーク証券取引所でティッカー「LN」の初値は42.00ドルとなり、公開価格を28%上回った。翌15日の東証では、午前10時36分に公開価格を48%上回る4,900円で初値がつき、時価総額は約1兆円に達した。もっとも、株価は一時5,000円まで買われた後に伸び悩み、初日の終値は4,345円で初値を555円下回っている。売買代金は1,049億円であった[18][19]

上場企業として過ごした4年半

上場後最初の通期となった2016年12月期は、売上収益1,407億円(前期比16.9%増)、営業利益198億円、親会社の所有者に帰属する当期利益75億円で、前期の赤字から黒字に転じた。7月15日のリリースは、上場を通じて「企業の透明性と社会的責任を高め、更なる事業展開の加速を図ってまいります」と述べており、決算と開示の相手は日米の投資家へ広がった。ただしNAVERの持分は8割強のまま動かず、親子上場の形は上場後も残った[20][21]

その資本構造は、市場のなかでは解かれなかった。2019年11月、LINEはソフトバンク傘下のZホールディングスとの経営統合で基本合意し、2020年12月29日をもって上場を廃止した。証券コード3938の法人が消えたわけではない。2021年3月にAホールディングス株式会社へ商号を改め、ソフトバンクとNAVERが50%ずつ出資する戦略的持株会社となった。日米の市場で値をつけられた期間は、4年半であった[22][23]

出典・参考

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