オープンアップグループジャスダック上場から東証二部・一部へ、6年半かけた市場区分の引き上げ
2007年6月6日の新規上場から2013年12月3日の一部指定まで、二度の株式分割を挟んで進んだ段階的な移動
- 概要
- 2007年6月にジャスダック証券取引所へ新規上場した株式会社トラスト・テックが、2013年8月22日に東京証券取引所市場第二部へ市場変更し、同年12月3日に市場第一部へ指定された経営判断。単一の年に収まらず、6年半をかけて段階的に進められた。
- 背景
- 上場直後に世界的な金融危機が重なり、連結売上高は2008年6月期の123億円から2010年6月期の112億円へ縮んだ。2010年4月にはジャスダック証券取引所と大阪証券取引所の合併に伴い大証JASDAQへ移り、自社の意思によらない市場の移動が続いていた。
- 内容
- 2010年7月に1株を5株へ、2013年7月に1株を100株へ分割して売買単位を下げ、同年8月に東証市場第二部へ市場変更、12月3日に市場第一部へ指定された。市場変更にあたっては監査法人へアドバイザリー業務を委託し、非監査業務報酬225万円を支払っている。
- 含意
- 2014年6月期の連結売上高は176億円、自己資本利益率は21.8%に達した。株主構成では金融機関の持株比率が1年で0.8%から8.2%へ上がり、2015年以降の連続買収を支える資本市場での立ち位置ができた。
移動の半分は自分で決めたものではなかった
6年半で5つの市場名を渡り歩いた経路のうち、会社が自ら決めたのは2013年8月と12月の二段だけであった。2010年4月の大証JASDAQ移行も、2022年4月のプライム移行も、取引所側の再編に伴う受け身の移動にあたる。自分で決められる部分が限られているからこそ、決められる二段のために1株を100株に割り、監査法人へ225万円のアドバイザリー報酬を払うという段取りが組まれた。
引き上げの効果は、株価より株主名簿に早く出た。金融機関の持株比率0.8%から8.2%への変化は、上場区分が投資家の側の投資可能範囲を規定していることを示している。そしてこの株式は、2021年に804億円の合併対価としてそのまま使われた。市場第一部への指定は、資金を集めるための一手ではなく、8年後に自分より大きくない会社を株式だけで買うための準備として効いた。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
上場した翌年に来た金融危機
2007年6月6日、株式会社トラストワークスはジャスダック証券取引所へ株式を上場した。新株発行により資本金は13億3,500万円から14億6,900万円へ、資本剰余金も同額の1億3,400万円増えている。上場関連費用21百万円を営業外費用に計上したうえで、第3期(2007年6月期)の連結売上高は91億331万円、経常利益は5億2,683万円であった。設立から10年、技術労働者派遣を持ってからは2年での新規上場となる[1][2]。
上場の翌年に世界的な金融危機が来た。製造業の減産は派遣と請負に直接響き、連結売上高は2008年6月期の123億8,470万円から2010年6月期の112億6,254万円へ落ちている。同期の経常利益は3億7,006万円、連結従業員は2,904名であった。労働者派遣法の改正で登録型派遣の禁止が見込まれ、製造系の請負・派遣事業には制度の側からも圧力がかかっていた。上場企業としての最初の3年は、伸びるより耐える時間に費やされた[3][4]。
自分では選べない市場の移動
上場先も動いた。2010年4月、ジャスダック証券取引所と大阪証券取引所の合併に伴い、株式は大阪証券取引所JASDAQ市場へ移り、同年10月12日からは大証JASDAQ(スタンダード)となった。会社が何かを決めた結果ではなく、取引所の再編に運ばれた移動である。株価の記載も、ジャスダック証券取引所、大証JASDAQ、大証JASDAQスタンダード、東証二部、東証一部と、6年間で5つの市場名を並べることになる[5]。
2010年8月の会社説明会資料は、3カ年計画として2013年6月期に連結売上高240億円・営業利益率7.5%、営業所30拠点・採用拠点9ブロックという数値目標を掲げた。実際の2013年6月期は連結売上高149億1,596万円・経常利益8億488万円で、売上は目標の6割強にとどまっている。掲げた成長像と足元の規模の差が残るなかで、市場区分だけは自らの判断で動かせる領域であった[6][7]。
決断
二度の株式分割で売買単位を下げる
引き上げの準備は株式の側から始まった。2010年7月1日、普通株式1株につき5株の割合で株式分割を実施している。さらに2013年7月1日、1株につき100株の分割を行った。第8期末に345円80銭であった1株当たり純資産が示すとおり、二度の分割で1株の重みは大幅に下がり、発行済株式総数は9,516,000株になった。市場第一部の指定基準は株主数と流通株式の広がりを問うため、単価を下げて買いやすくする作業が先に要る[8][9]。
分割の1カ月半後、2013年8月22日に東証JASDAQスタンダードから東京証券取引所市場第二部へ市場変更した。そして12月3日、市場第一部への指定を受けている。二部での滞在はわずか3カ月半であった。同期の有価証券報告書は、監査法人への非監査業務報酬225万円について「東京証券取引所市場変更のアドバイザリー業務に関するもの」と記載している。外部の助言を買ってまで、上場区分の移動を工程として管理していた[10][11]。
業績が追いついた時期を選ぶ
市場変更の時期は、業績の回復と重なっている。連結売上高は第8期(2012年6月期)154億5,947万円、第9期149億1,596万円と足踏みしたのち、第10期(2014年6月期)に176億4,547万円へ伸びた。経常利益は6億6,739万円、8億488万円、13億1,906万円と各期で増え、自己資本利益率は10.9%、13.6%、21.8%と上がっている。連結従業員も3,495名から4,170名へ増えた[12][13]。
株価にも反応が出た。株価収益率は第8期12.4倍、第9期12.5倍から第10期20.2倍へ上がり、2014年6月の株価は最高1,825円・最低1,553円を付けている。当時の経営課題として同期の有価証券報告書が第一に挙げたのは新規案件の獲得、次いで有効求人倍率の上昇下でのマッチング精度向上であった。人を採れるかどうかが成長の制約になる業種で、上場区分は求職者と顧客に対する信用の目印としても働く[14][15]。
結果
1年で入れ替わった株主構成
変化は株主名簿にはっきり出た。2013年6月30日時点の所有者別持株比率は、金融機関0.8%、外国法人等(個人以外)31.7%、個人その他66.5%で、株主数は2,954人であった。市場第一部への指定を挟んだ2014年6月30日時点では、金融機関8.2%、外国法人等31.2%、個人その他54.7%となり、株主数は2,771人へ減っている。株主の頭数はむしろ減ったのに、金融機関の持株比率は1年で10倍を超えた[16][17]。
資本市場での立ち位置が固まると、会社の使い道も変わった。2015年7月の株式会社フリーダム子会社化と株式会社テクノパワーからの事業譲受を皮切りに、同年10月の株式会社トラィアル、2016年8月の英国MTrec Limited、2017年3月の株式会社フュージョンアイ、同年12月の英国1998 Holdings Limitedと子会社5社と、国内外の買収が毎年続く。連結売上高は2017年6月期に430億円、2018年6月期に654億円へ伸びた[18]。
引き上げた区分のその後
到達した市場第一部という区分そのものは、8年半で消えた。2022年4月の東京証券取引所の市場区分見直しにより、市場第一部からプライム市場へ移っている。このときの移行は2010年の大証JASDAQ移行と同じく、取引所の制度変更に伴うものであった。自らの判断で上げた区分と、制度に運ばれた区分の移動が、同じ会社の沿革に交互に並んでいる[19]。
一方で、引き上げの過程で整えた株式の流通性は残った。2021年4月の株式会社夢真ホールディングスとの経営統合では、支払対価804億5,600万円のほぼ全額が自社の普通株式の交付で賄われている。現金を用意せずに同規模の上場企業を取り込めたのは、流動性のある株式を持つ上場会社であったからにほかならない。2013年12月の指定は、その8年後の合併通貨を用意した工程でもあった[20]。
- 株式会社トラストワークス 有価証券報告書(2008年6月期)
- 株式会社トラスト・テック 有価証券報告書(2013年6月期)
- 株式会社トラスト・テック 有価証券報告書(2014年6月期)
- 株式会社トラスト・テック 会社説明会資料(2010年6月期決算概要・2011年6月期業績予想・中期経営計画)
- 株式会社夢真ビーネックスグループ 有価証券報告書(2022年6月期・連結・IFRS)
- オープンアップグループ 有価証券報告書【沿革】