トーセイシンガポール証券取引所メインボードへのセカンダリー上場と東証との同時上場

顧客の大半が外資系機関投資家という中堅不動産会社が、東京の外にもう一つの上場市場を持った2013年の判断

時期 2013年3月
意思決定者(推定) 山口誠一郎 社長
論点 海外投資家との接点と資本市場の使い方
概要
2013年3月27日、トーセイは東証一部への上場を保ったままシンガポール証券取引所メインボードへセカンダリー上場した。証券コードはS2D。日本企業によるシンガポール証取への上場は2000年以来13年ぶりで、不動産業界では初であった。
背景
リーマンショック後の中期経営計画「Charge up 2011」で総資産を783億円から599億円へ絞り、自己資本比率を27.9%から41.6%へ戻したうえで、2012年からの「Next Stage 2014」は海外展開を重点テーマの一つに据えた。2012年1月には初の海外現地法人Tosei Singapore Pte.Ltd.を設けていた。
内容
アジアの国際金融センターで上場することにより、世界の不動産投資家へトーセイグループと東京の不動産を訴求し、海外資金を東京へ誘致する狙いを掲げた。上場に伴い国際会計基準(IFRS)を適用し、開示資料は日本語と英語を同時に出す体制へ移した。
含意
上場3か月経過後に可能となる新株式発行を2013年7月9日に決議し、260万株で19億33百万円を調達した。受託資産残高は2012年11月期末の3,000億円から2024年8月末の2兆4,500億円へ拡大し、その7割弱を海外投資家の案件が占める。
筆者の見解

東京の物件を、東京の外の値付けに晒す

二つの取引所に載ることは、それ自体では株価を上げない。この上場で取れた資金は、同じ期の売上高に照らせば控えめな額にとどまった。この判断の実利は資金より、外資系機関投資家を主要顧客とする事業と、株主・開示の作りを揃えた点にあったとみられる。IFRSの適用も日英同時開示も、上場に付随した事務ではなく、顧客と株主が同じ言語で同じ会社を読める状態を作る作業であった。首都圏の中小ビルを扱う会社が、その物件の値打ちをアジアの投資家の物差しで説明する側に回っている。

山口誠一郎社長は2024年の取材で、日本のイールドギャップは今や世界一であり、アジア太平洋地域向けファンドの未消化予算のうち中国へ向かっていた分が日本へ流れていると語った。その資金の受け皿として、トーセイの受託資産残高は2024年8月末で2兆4,500億円、うち7割弱が海外投資家の案件を占める。2013年に取ったS2Dという4文字の証券コードは、13年後の決算説明資料の表紙にも8923と並んで刷られている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

財務を絞り直したうえでの次の三か年

2008年9月のリーマンショックを在庫圧縮済みで迎えたトーセイも、その後の市場収縮からは逃れられなかった。2009年11月期の連結売上高は前期比34%減の336億円、経常利益は同90%減の6.6億円まで落ちた。中期経営計画「Charge up 2011」では新規仕入を止めて在庫を売り、シンジケートローンと新株予約権で資金を作って、有利子負債を596億円から352億円へ減らした。総資産は783億円から599億円へ絞り、自己資本比率は27.9%から41.6%へ戻った[1][2]

財務の修復を終えた2012年、トーセイは「Next Stage 2014」を始めた。重点テーマはエンドユーザー向け商品の拡大、投資市場向け商品の投資再開、そして海外展開の三つである。同年1月には初の海外現地法人Tosei Singapore Pte.Ltd.を置き、海外投資家との関係を厚くして新規ファンド組成へ資金を呼び込むことを目的に掲げた。同年11月には商用不動産仲介の世界大手NAI Globalとメンバーシップ契約を結び、翌12月にはNAI・トーセイ・JAPANを設立している[3][4]

顧客の大半が外資という事業構造

海外へ向かう理由は事業の側にあった。トーセイが2001年2月にアセットマネジメント業へ入った時点で、狙っていた相手は外資系ファンドと海外投資家である。潤沢な資金を持っていても、日本語の書類、借地契約の商慣習、登記に関わる法令、明文化されていない取引慣行までは代われない。日本で不動産の管理や運用を安心して任せられるパートナーを外資は探しており、当時のアセットマネジメント事業は企業規模を問わずほぼ横一線であった[5]

実績を出せば資金が来るという手応えも、早い時期に得ていた。2002年に組成した第1号私募ファンドは世田谷区砧の4億円の物件が対象で、銀行借入3億円と出資1億円のうち5〜6,000万円をスイスのファンドが引き受けた。数カ月後に5億2,000万円で売却し、出資者へ1億円を返した。その翌日、同じファンドから10億円を振り込むという連絡が入った。非上場で名も知られていなかった会社の評価は、一度の結果で変わった。受託資産残高は2012年11月期末に3,000億円を超えた[6][7]

決断

東証を離れず、もう一つの市場に載る

2013年3月27日、トーセイはシンガポール証券取引所メインボードへセカンダリー上場した。証券コードはS2Dで、東証一部の8923と並ぶ二つ目の番号を持った。日本企業によるシンガポール証取への上場は2000年以来13年ぶりであり、不動産業界からは初であった。掲げた目的は、金融と不動産におけるアジアの国際金融センターで上場することでアジアにおけるプレゼンスを高め、世界の不動産投資家へトーセイグループと東京の不動産の魅力を訴求すること、そして海外からの投資資金を東京へ誘致して不動産マーケットの活性化に貢献することであった[8][9]

東証一部の上場は手放さなかった。二つの市場に同時に載る以上、開示の作り方も揃える必要がある。トーセイはこの上場に伴って国際会計基準(IFRS)を適用し、四半期ごとの数値は遡及修正の関係で一度連続性を欠いたものの、以後は税引前利益を軸にした開示へ移った。決算資料も日本語と英語を同時に出す体制へ改めている。売上高351億円、従業員227名という規模の会社が、海外投資家の読める言語と会計基準で自社を説明する側に回った[10][11]

上場と調達を切り離した段取り

上場と資金調達は同時ではなかった。シンガポール証取の規則では、上場から3か月を経たのちに新株式の発行が可能になる。トーセイは2013年7月9日にこの発行を決議し、7月26日から同取引所で自社の普通株式の流通を始めた。発行株式数は260万株、調達額は19億33百万円であった。3月の上場は市場に載る手続き、7月の発行は資金を取る手続きと、二段に分けた運びとなる[12]

調達した資金は年内に半分強が使われた。2013年11月末時点の累計使用額は11億77百万円、残額は7億55百万円である。同期の現金及び現金同等物は前期末比53億円の増加となり、その理由として物件売却による資金回収が仕入支出を上回ったことと並んで、シンガポール証券取引所での資金調達が挙げられた。19億円という額は、同じ期の連結売上高351億円に対して大きな比率ではない。それでも、東京以外の市場から株式で資金を取る経路を持ったこと自体に意味があった[13][14]

結果

受託資産残高2兆4,500億円と、海外投資家7割弱

上場後、資金調達より効いたのは投資家との接点であった。受託資産残高は2012年11月期末の3,000億円から、2021年8月末に1兆3,000億円を超え、2024年8月末には2兆4,500億円に達した。同業他社が系列の上場・私募リートからの受託を中心とするのに対し、トーセイは受託資産の約8割を外資系ファンドから預かる構造となった。2019年7月には米ブラックストーン・グループから首都圏の物流施設800億円超、同年12月にはドイツのアリアンツから賃貸マンション82棟・約1,300億円の運用を受託している[15][16]

株主の顔ぶれも変わった。2015年11月末の所有株数別構成比は個人・その他43.88%に対し外国法人等が28.33%で、13,679,090株を海外勢が握っていた。二重上場は一過性の催しに終わらず、2026年1月時点の決算説明資料の表紙にも、東証プライム市場の8923とシンガポール証券取引所メインボードのS2Dが並んで印刷されている。シンガポールの現地法人は後年、同国金融管理局が認可したデジタル証券プラットフォームADDXでのセキュリティ・トークン発行という別の使い道も生んだ[17][18]

「Next Stage 2014」の三年と、J-REITという二つ目の出口

シンガポール上場を組み込んだ「Next Stage 2014」は、2014年11月にもう一つの上場を伴って終わった。トーセイ・リート投資法人が東京証券取引所に上場し、連結子会社のトーセイ・アセット・アドバイザーズが運用を担う体制が整った。私募ファンドで組成した物件を自社運用のJ-REITへ渡す経路ができ、再生した不動産の出口が一つ増えた。海外市場での上場と国内J-REITの組成が、三年のあいだに続けて実行された[19]

三か年の成果は、決算説明会で売上高2倍、当期利益4倍、投資市場向け売上4倍と総括された。連結売上高は2012年11月期の242億円から2015年11月期の430億円へ伸び、当期純利益は15億円から41億円になった。リーマンショック後に在庫を吐き出して縮んだ会社が、海外市場での上場と自社リートの組成を挟んだ三年で、規模を取り戻した[20][21]

出典・参考
  • トーセイ 決算説明資料(2012年11月期)
  • トーセイ 決算説明資料(2013年11月期)
  • トーセイ 決算説明資料(2015年11月期)
  • トーセイ 決算説明資料(2025年11月期)
  • 週刊東洋経済 2021年11月6日号「発見! 成長企業 【8923】トーセイ 顧客は外資系ファンドが8割 不動産運用1兆円超に急拡大」
  • 週刊東洋経済 2024年11月30日号「トップに直撃 トーセイ 社長 山口誠一郎 『日本の“利回り”は世界一 不動産価格はまだ上がる』」
  • 倒産から3つの上場へ 見えない扉をひらけ!(山口誠一郎 著, 日経BPコンサルティング, 2019)
  • トーセイ 有価証券報告書(連結・IFRS)/同【沿革】

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