東誠ビルディングのMBO(1994年・トーセイの決断)

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論点 ビル賃貸の会社を経営者自ら引き継ぐか
経営者による賃貸・管理会社の承継と、分譲マンションへの事業拡大

何をなぜ決めたか:経営者による賃貸・管理会社の承継と、分譲マンションへの事業拡大

概要

1994年6月、取締役の山口誠一郎氏が東誠ビルディングの代表取締役社長に就任した。経営陣が株式を取得して会社を引き継ぐMBO(マネジメント・バイアウト)による承継で、山口誠一郎社長は2011年の東証一部指定替えの祝賀会で 『MBOで会社を引き継いだが一部指定替えの実現はスタッフや皆さまのおかげ。これを機に更なる成長を目指す』 と挨拶している。会社は1994年を「第二創業」の年と位置づけ、設立年の1950年と並べて掲げる。

MBOの取得価格や持株比率は、手元の会社資料に記載がない。就任から4か月後の1994年10月、分譲マンション「THEパームス」シリーズの販売を開始した。ビルの賃貸と管理を営んできた会社が、住宅の企画と分譲に参入した最初の事業である。

背景

東誠ビルディングの法人の母体は、1950年2月に大分市で飲食業を目的に設立したユーカリ興業にある。1964年6月に不動産の売買・仲介・賃貸・管理を事業目的に加え、1973年3月に宅地建物取引業免許を取得した。1983年3月に東誠ビルディングへ商号を変更し、1986年4月に本社を千代田区岩本町へ移した。

同じ「東誠」の名を持つ東誠商事は、1964年に銀行店舗の用地買収から事業を始めた。1987年時点では中小ビルの開発を主力とし、年商は100億円を超えていた。保有ビルは子会社の東誠ビルディングの分を含めて11棟で、ビル開発が増えるにつれて借入金への依存も高まっていた。東誠商事の創業者は、銀行支店や自社ビル向けの特定地の買収を20年以上専門に手がけてきた。

内容

山口誠一郎氏は1961年1月生まれで、1983年4月に三井不動産販売へ入社した。1986年4月に東誠商事へ移り、1990年8月に東誠ビルディングの取締役となった。社長に就任した1994年6月の時点で33歳である。

経営陣には東誠商事の出身者が続いた。1986年4月に東誠商事に入社した小菅勝仁氏は1996年1月に取締役となり、1995年5月に東誠商事の取締役となった平野昇氏は2001年3月に東誠不動産の経理部へ移った。2人とも2006年2月に取締役専務執行役員に就任し、事業部門と管理部門をそれぞれ統括した。

含意

承継後の会社は、賃貸と管理の上に事業を重ねた。1996年3月に東誠不動産へ商号を変更し、翌4月に中古ビルを再生して販売する不動産流動化事業を始めた。2001年2月にアセットマネジメント事業、2002年8月に自社組成の第1号ファンドを立ち上げている。1999年11月期の売上高3,818百万円のうち、開発分譲事業が2,527百万円と66%を占めた。

株式市場へも段階を踏んで進んだ。2004年2月に店頭登録、同年12月にジャスダックへ上場し、2006年11月に東証二部、2011年9月に東証一部へ上場した。1994年の第二創業から2009年11月期まで、赤字決算は一度もない。2025年11月期の売上高は94,688百万円となり、1999年11月期の約25倍に達した。

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考察:賃貸と管理の会社を土台にした再出発
考察

考察:賃貸と管理の会社を土台にした再出発

なぜ新しい会社を設立せず、東誠ビルディングを引き継いだのか。この会社は1973年に宅地建物取引業免許を取り、ビルの賃貸と管理で売上を立てていた。新会社なら免許の取得から始め、取引先も一から集めなければならない。既存の法人を引き継げば、免許と賃貸・管理の収入をそのまま事業の土台にできる。山口誠一郎氏は1986年から東誠商事と東誠ビルディングで働き、どの事業が残せるかを内側から見ていた。MBOは、その見立てに経営者自身が株主として責任を負う選択だったと思われる。

もっとも、賃貸と管理だけでは会社は大きくならない。1999年11月期でも管理事業の売上高は816百万円、賃貸事業は438百万円にとどまった。売上高3,818百万円の66%を占めたのは、1994年に始めた分譲事業である。引き継いだ土台は会社をつなぎ、伸ばす力は新しい事業が担った。ただし分譲マンションは市況の影響を受けやすく、在庫を抱えれば借入が膨らむ。1987年時点の東誠商事も、ビル開発が増えるにつれて借入金への依存を強めていた。同じ弱みを持つ事業へ、改めて参入したことになる。

結果からみれば、この承継は成功だった。1996年に始めた不動産流動化事業と、2002年に立ち上げたファンドが分譲事業の弱みを補った。1994年の第二創業から2009年11月期まで赤字決算は一度もなく、2011年9月には東証一部へ上場した。2025年11月期の売上高は94,688百万円で、1999年11月期の単体の3,818百万円の約25倍にあたる。会計基準も連結の範囲も違うが、差はそれを大きく上回る。規模の小さい会社を引き継いだからこそ、事業の組み替えを素早く決められたのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
概況
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図と表

トーセイ:事業別売上高の推移

トーセイ:事業別売上高の推移
(百万円) 売上高開発分譲事業管理事業賃貸事業不動産流動化事業 備考
1999年11月期 3,8182,52781643835 第50期・単体。内訳の和は3,816で、売上高と2の差がある
出所:東誠不動産 FACT BOOK(2003年)財務ハイライト
出所:東誠不動産 FACT BOOK(2003年)財務ハイライト
参考文献

参考文献

参考
  • トーセイ 当社掲載記事のご紹介「トーセイ、東証一部上場で記念祝賀会」(2011年10月)
  • トーセイ 有価証券報告書 第76期(2025年11月期)【沿革】
  • 『ビル賃貸業の競争力分析 1987(JSK競争力分析シリーズ no.21)』東誠商事の項(住宅産業研究所, 1987年5月)
  • 今西定雄『不動産業成功の秘訣 : 明日への挑戦者たち』(住宅新報社, 1978年9月)
  • 東誠不動産 FACT BOOK(2003年)財務ハイライト
  • トーセイ 2009年11月期 期末決算説明会資料(2010年1月)
  • トーセイ 有価証券報告書 第76期(2025年11月期)【主要な経営指標等の推移】
  • トーセイ 決算説明会資料「2009年11月期 期末決算説明会」
  • トーセイ 掲載記事「当社掲載記事のご紹介「トーセイ、東証一部上場で記念祝賀会」」
  • 東誠不動産 ニュースリリース「ビル管理部門を東誠コミュニティ株式会社に吸収分割」
  • 東誠不動産 ファクトブック「FACT BOOK 2003」
  • トーセイ ファクトシート「ファクトシート(2026年)」
  • 東誠不動産 有価証券報告書「第56期(2005年11月期)【役員の状況】」
  • トーセイ 有価証券報告書「第76期(2025年11月期)【沿革】【主要な経営指標等の推移】」

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