上原家のMBOによる上場廃止(2023年・大正製薬HDの決断)2023年 | 大正製薬HDの決断

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何をなぜ決めたか:買付代金7,077億円の大手門のTOBと、先行投資を優先する非公開化

概要
概要

2023年11月24日、上原茂副社長が代表を務める大手門は、大正製薬ホールディングスの全株式を取得して非公開化するMBOの一環として、1株8,620円のTOBを決定した。提案者は上原明社長と上原茂副社長である。買付予定数は82,100,050株、買付代金は7,077億円で、下限を54,650,900株に設定し、上限は設けなかった。

買付期間は2023年11月27日から2024年1月15日までで、応募は60,034,194株と下限を5,383,294株上回り、TOBは成立した。買付後の所有割合は73.12%、実際の買付代金は5,175億円となる。応募しなかった株主の持分は株式併合で現金化し、株主を大手門1名にする手順へ進んだ。

背景
背景

連結の経常利益は2002年3月期の67,472百万円から2022年3月期には18,412百万円へ減少した。医薬事業は2022年3月期に1,319百万円、2023年3月期に4,513百万円のセグメント損失を計上した。セルフメディケーション事業のセグメント利益は2019年3月期の30,287百万円から2022年3月期に14,128百万円へ減少し、2023年3月期は抗原検査キットの需要増や感冒薬の特需があった市場で29,388百万円へ回復した。

提案者が挙げた非公開化の理由は、資金ではなく時間軸である。上場を続ける限り短期の利益確保と分配への配慮が要り、先行投資や構造改革の足枷になるとした。予定した施策は、店頭中心の営業体制の見直しと自社ECサイトの拡大、生産管理への投資、海外OTC医薬品のブランド買収、外部との新薬開発、人事制度の見直しの5つである。2011年の上場以来、株式市場からの資金調達は実施していない。

内容
内容

価格は6回提案された。2023年10月20日の7,400円から7,600円、7,800円、8,050円と引き上げ、対象者が11月15日に8,900円を要請すると、8,450円を経て11月21日の最終提案8,620円で11月22日に受諾された。対象者は少数株主の過半の応募を成立条件とするマジョリティ・オブ・マイノリティ条件も求めたが、大手門は成立が不安定になるとして設定しなかった。交渉を監督した特別委員会は社外監査役2名と外部有識者1名で組織し、9回開催した。

上原家側の応募契約は33,043,400株、所有割合40.24%に及ぶ。このうち2つの公益財団法人の23.02%は対価相当額の全額を無議決権のA種優先株式へ再出資し、議決権は上原茂氏ら3名の普通株式に集約する設計とした。資金は三井住友銀行の融資証明7,272億円を裏付けとし、タームローン1,958億円とブリッジローン5,314億円で構成した。担保は対象者が保有する子会社株式等である。

沿革:意思決定前後の出来事12件
考察:資金ではなく時間を取得した非公開化
考察

考察:資金ではなく時間を取得した非公開化

上原明社長と上原茂副社長が非公開化を選んだのは、資金に困っていたからではない。2011年の上場以来、株式市場から資金を調達しておらず、提案者の見立てでは上場の効用は信用と採用に限られていた。他方で、先行投資を続ければ短期の利益と配当が下がり、株主の評価にさらされる。事業計画の営業利益も2024年3月期は20,500百万円で、2028年3月期でも33,666百万円にとどまる。上場を維持する案より、株主を入れ替えて回収の時間を確保する案を選んだとみられる。

しかし、同じ構図が価格の問題を生む。上原家は売り手の経営者であると同時に、買い手の出資者でもある。株価が低いほど買い手には有利になるため、特別委員会は8,900円を要請し、少数株主の過半の応募を条件に加えることも求めた。結果は8,620円で、条件は設定されなかった。56.30%のプレミアムは類似事例に遜色がなくても、1株当たり純資産は14.93%下回る。手続きを尽くしても、この利益相反そのものは解消できない。

到達点は二つに分かれた。応募は下限を超え、契約外の株式の55.16%が8,620円を受け入れた。一方で大手門を除く議決権の64.24%は株式併合に反対しており、価格への評価は一致しなかった。事業の転換については、上場廃止後の連結の実績を開示で確認できず、計画の営業利益と比べることができない。投資家の評価を外して時間を確保した決断は、外部から成否を検証する手段も同時に減らしたといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

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数値:意思決定前後の事業数値4件

大正製薬HD:連結の売上高と営業利益

売上高(百万円)営業利益率(%)
(百万円)売上高営業利益
2019年3月期261,55131,211
2020年3月期288,52721,137
2021年3月期281,98019,965
2022年3月期268,20310,743
2023年3月期301,38123,018
大正製薬HD:連結の売上高と営業利益
(百万円)売上高営業利益備考
2019年3月期261,55131,211
2020年3月期288,52721,137UPSAとハウザン製薬を連結
2021年3月期281,98019,965
2022年3月期268,20310,743
2023年3月期301,38123,018開示で照合できる最後の期
出所:大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8〜12期【連結損益計算書】 / 大正製薬ホールディングス 意見表明報告書(2023年11月27日提出)【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由】
出所:大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8〜12期【連結損益計算書】 / 大正製薬ホールディングス 意見表明報告書(2023年11月27日提出)【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由】

大正製薬HD:事業セグメント別の売上高と利益

セルフメディケーション売上高(百万円)医薬事業売上高(百万円)医薬事業利益率(%)
(百万円)セルフメディケーション売上高セルフメディケーション利益医薬事業売上高医薬事業利益
2019年3月期180,12330,28781,4282,685
2020年3月期220,02718,69468,5004,144
2021年3月期226,87819,39555,1012,495
2022年3月期229,65914,12838,543△1,319
2023年3月期263,71129,38837,669△4,513
大正製薬HD:事業セグメント別の売上高と利益
(百万円)セルフメディケーション売上高セルフメディケーション利益医薬事業売上高医薬事業利益備考
2019年3月期180,12330,28781,4282,685
2020年3月期220,02718,69468,5004,144
2021年3月期226,87819,39555,1012,495
2022年3月期229,65914,12838,543△1,319
2023年3月期263,71129,38837,669△4,513医薬事業は2期連続のセグメント損失
出所:大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8〜12期【セグメント情報等】
出所:大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8〜12期【セグメント情報等】

大正製薬HD:純資産と総資産

総資産(百万円)純資産率(%)
(百万円)純資産総資産
2019年3月期724,137821,782
2020年3月期739,778864,974
2021年3月期758,406876,923
2022年3月期767,957888,159
2023年3月期809,343941,490
大正製薬HD:純資産と総資産
(百万円)純資産総資産備考
2019年3月期724,137821,782
2020年3月期739,778864,974
2021年3月期758,406876,923
2022年3月期767,957888,159
2023年3月期809,343941,490買付代金7,077億円は当期末の純資産を下回る
出所:大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第12期(2023年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第12期(2023年3月期)【主要な経営指標等の推移】

大正製薬HD:価格提案の推移

(円)提案価格基準日の終値
2023年10月20日7,4005,913
2023年10月30日7,6005,995
2023年11月2日7,8006,076
2023年11月10日8,0505,844
2023年11月17日8,4505,452
2023年11月21日8,6205,517

6回の提案で価格は7,400円から8,620円へ1,220円上昇

大正製薬HD:価格提案の推移
(円)提案価格基準日の終値備考
2023年10月20日7,4005,913プレミアム25.15%。対象者は類似事例の水準を下回るとして引上げを要請
2023年10月30日7,6005,995プレミアム26.77%。下限は議決権の3分の2とする案を回答
2023年11月2日7,8006,076プレミアム28.37%。対象者は近年のMBO案件の水準に近くないと回答
2023年11月10日8,0505,844プレミアム37.75%。対象者は11月15日に8,900円を要請
2023年11月17日8,4505,452プレミアム54.99%。対象者は算定の下限を上回るがなお引上げを要請
2023年11月21日8,6205,517プレミアム56.24%。最終提案で、対象者は翌日に受諾
出所:大手門 公開買付届出書(2023年11月27日提出)【買付け等の目的】
出所:大手門 公開買付届出書(2023年11月27日提出)【買付け等の目的】
人物:意思決定前後の取締役8名

取締役8名(2023年6月株主総会決議)

役員名役職
取締役業務執行担当領域
上原明取締役:代表取締役業務執行:社長担当:
上原健取締役:取締役業務執行:担当:
上原茂取締役:取締役業務執行:副社長担当:
植村裕之金融取締役:取締役業務執行:担当:
渡邊哲取締役:取締役業務執行:担当:
國部毅金融取締役:取締役業務執行:担当:
黒田潤取締役:取締役業務執行:担当:
北谷脩取締役:取締役業務執行:担当:
この一覧は2023年6月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

  • 大正製薬ホールディングス 臨時株主総会 議決権行使結果(2024年3月18日開催)
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第12期(2023年3月期)【セグメント情報等】
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8期・第11期・第12期【セグメント情報等】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第12期(2023年3月期)【沿革】
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8期(2019年3月期)【沿革】【連結損益計算書】
  • 大正製薬ホールディングス 臨時株主総会 議決権行使結果(2024年3月18日開催)・意見表明報告書(2023年11月27日提出)【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由】
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8〜12期【連結損益計算書】
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第8〜12期【セグメント情報等】
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書 第12期(2023年3月期)【主要な経営指標等の推移】
  • 大手門 公開買付届出書「公開買付届出書【買付け等の目的】【買付け等の期間、買付け等の価格及び買付予定の株券等の数】【買付け等に要する資金】」
  • 大正製薬ホールディングス 意見表明報告書「意見表明報告書【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由】」
  • 大手門 公開買付報告書「公開買付報告書【買付け等の結果】」
  • 大正製薬ホールディングス 株主総会資料「臨時株主総会 議決権行使結果」
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書「第12期(2023年3月期)【主要な経営指標等の推移】【沿革】【セグメント情報等】」
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書「第9期(2020年3月期)【注記事項】」
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書「第8期(2019年3月期)【従業員の状況】【注記事項】【連結損益計算書】」
  • 大正製薬ホールディングス 有価証券報告書「第7期(2018年3月期)【注記事項】」
  • 大正製薬 有価証券報告書「第97期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】」

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