この判断の核心には、上場企業の資本政策が支配権争いの手段になりうるという緊張がある。増資は本来、事業の資金を市場から募る行為であり、その正当性は資金使途の合理性に支えられる。だが今回の増資は、拒否権を握る創業家の持ち分を薄めるという目的が透けて見え、司法もその存在を認めた。それでもなお増資が止められなかった点に、資金調達の自由と株主の平等をどこで線引きするのかという、決着のつきにくい問いがうかがえる。
一方で、この一手がなければ統合は進まなかったであろうことも確かである。3分の1の拒否権を握る創業家と経営陣が正面から対峙するかぎり、対話だけで合併へたどり着く道は細かった。拒否権を失わせて初めて、村上世彰氏の仲介による歩み寄りが生まれ、統合は成立へ向かった。創業の理念を掲げる大株主と、規模の競争に追われる上場企業の論理と——出光の統合劇は、その二つが正面からぶつかったときに何が優先されるのかを、今日なお問うているだろう。