3Dの経営批判に対峙(2025年・日本製鉄の決断)

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論点 多角化批判と再任反対にどう応じるか
日本製鉄:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
コングロマリットディスカウント論と社長再任反対キャンペーンへの反論

何をなぜ決めたか:コングロマリットディスカウント論と社長再任反対キャンペーンへの反論

概要

2025年6月、シンガポールの投資ファンド3Dインベストメント・パートナーズが、日本製鉄のコングロマリットディスカウントと資本規律の欠如を批判するプレゼンテーションを公表し、6月24日の第101回定時株主総会で今井正社長と副会長の森高弘氏の再任に反対票を投じるよう株主に推奨した。両氏とも再任されたが、今井正社長の賛成率は87.11%と候補10名で最も低く、次に低い橋本英二会長の94.01%をさらに7ポイント下回った。同じ総会には別の株主から子会社管理に係る定款変更など3議案が提出され、いずれも否決されている。

背景

日本製鉄のPBRは1倍割れが常態化し、2025年5月末時点で約0.5倍にとどまっていた。3Dは、日鉄ソリューションズなど多くの上場子会社の保有が深刻なコングロマリットディスカウントを招いているとして、その解消をプレゼンテーションで求めた。USスチール買収の約2兆円に追加投資と脱炭素投資を合わせ10兆円規模と想定される投資計画は、当時の時価総額約3兆円をはるかに超えていた。

内容

3Dは2024年11月から書簡と面談で対話を求めたが、社長・会長との面談は実現しなかった。2025年3月に日鉄ソリューションズ株主への公開書簡で親会社への預け金961億円と利益相反を突き、6月10日にプレゼンテーションを公表して今井正社長・森高弘副会長の再任反対を推奨した。

3Dが選んだのは株主提案ではなく、会社提案の取締役選任議案に反対票を集める方法であった。可決の要件が特別決議となる定款変更を避け、候補者ごとに賛否が割れる選任議案へ争点を移す形である。日本製鉄は、親子上場は事業シナジーを勘案してケースバイケースで判断すると応じ、体制と方針を変えなかった。

含意

会社提案の3議案はいずれも可決され、株主提案の3議案は反対86.19〜94.95%で否決された。反対票が集まったのは今井正社長ひとりで、ほかの9名は94.01〜98.17%の賛成を得ている。

2026年、3Dは日鉄ソリューションズへ預け金の禁止と開示を求める株主提案を出し、否決されたものの少数株主の約6割が賛成した。同じ6月の日本製鉄の総会にも上場子会社戦略検討委員会の設立を求める定款変更が提出され、反対94.84%で否決されている。今井正社長の賛成率は95.21%へ戻った。

いつ何が起きたか 9件
当時の取締役 15名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:説明の水準を測られる10兆円
考察

考察:説明の水準を測られる10兆円

このキャンペーンの核心は、USスチール買収の是非そのものではなく、巨額投資を正当化する説明の水準にあると思われる。3Dが繰り返し求めたのは、資本コストを上回るリターンの定量的な説明であり、上場子会社については自社がベストオーナーかどうかの検証であった。株主提案ではなく取締役選任議案への反対票を集める道を選んだことで、批判は制度の可否ではなく経営者個人の信任へ収れんした。候補10名のうち今井正社長だけが87.11%に沈み、翌年には95.21%へ戻った振れ幅は、投資の規模に説明の密度が釣り合っているかを測る市場の視線がどこに向いているかを示している。

もっとも、親子上場の是正は、東京証券取引所の市場改革以降、日本の資本市場に共通する論点となっている。日鉄ソリューションズの総会で少数株主の約6割が3D提案に賛成した事実は、提案が否決されてもなお、親会社と少数株主の利益相反への視線が退かないことを示している。日本製鉄の総会でも、上場子会社の戦略を検討する委員会を求める定款変更が2026年に出てきた。10兆円規模の投資を選んだ日本製鉄が、残る上場子会社と政策保有をどう説明し、どう動かすか——コングロマリットディスカウントの解消をだれの手で行うかという問いは、次の総会にも持ち越されている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

日本製鉄:取締役選任議案の候補者別賛成率

日本製鉄:取締役選任議案の候補者別賛成率
(%) 2024年6月総会2025年6月総会2026年6月総会 備考
今井正 88.787.1195.21 3Dが再任反対を推奨した2025年に候補10名で最低となり、翌年は95.21%へ戻った
橋本英二 87.5494.0195.73 会長。2024年は今井正社長より低く、候補10名で最低だった
森高弘 93.0497.2596.5 副会長。3Dが再任反対を推奨したもう1名だが賛成率は上がった
佐藤直樹 93.0597.2796.52
廣瀨孝 96.7197.2796.51
船越弘文 96.7197.2496.51
湊博之 96.6897.2796.54
藤田展弘 −96.8296.55 2025年6月の総会で新たに選任された
冨田哲郎 91.6794.97− 社外取締役。2026年6月の総会では候補となっていない
浦野邦子 98.6798.17− 社外取締役。2026年6月の総会では候補となっていない
出所:日本製鉄 臨時報告書(第100回・第101回・第102回定時株主総会 議決権行使結果)
出所:日本製鉄 臨時報告書(第100回・第101回・第102回定時株主総会 議決権行使結果)

日本製鉄:株主提案に投じられた反対の割合

日本製鉄:株主提案に投じられた反対の割合
(%) 反対の割合 備考
2024年総会 第6号議案 78.52 定款の一部変更。賛成1,360,462個・反対5,114,790個で否決
2024年総会 第7号議案 76.99 定款の一部変更。賛成1,460,292個・反対5,016,515個で否決
2024年総会 第8号議案 72.02 定款の一部変更。賛成1,784,339個・反対4,692,990個で否決
2025年総会 第4号議案 86.19 子会社管理に係る定款変更。賛成953,817個・反対6,518,429個で否決
2025年総会 第5号議案 94.95 代表取締役への譲渡制限付株式報酬の付与と報酬構成比の変更。否決
2025年総会 第6号議案 89.15 代表取締役の業績連動報酬へのクローバック条項の追加。否決
2026年総会 第4号議案 94.84 上場子会社戦略検討委員会の設立に係る定款変更。賛成1,717,985個で否決
出所:日本製鉄 臨時報告書(第100回・第101回・第102回定時株主総会 議決権行使結果)
出所:日本製鉄 臨時報告書(第100回・第101回・第102回定時株主総会 議決権行使結果)

総会の議案と議決の条件

総会の議案と議決の条件
科目 概要 備考
対象の総会 第101回定時株主総会(2025年6月24日) 第100期(2024年4月1日から2025年3月31日まで)の定時株主総会
3Dが反対を推奨した候補 今井正、森高弘の2氏 会社提案第2号議案の取締役10名のうちの2名。株主提案という形はとっていない
会社提案の議案 第1号から第3号議案の3件 期末の剰余金配当/取締役10名選任/業績連動型株式報酬の額及び内容の決定
株主提案の議案 第4号から第6号議案の3件 子会社管理の定款変更/代表取締役への譲渡制限付株式報酬/業績連動報酬へのクローバック条項
株主提案の可決要件 出席株主の議決権の3分の2以上 定款変更の第4号議案のみ。第5号・第6号議案は出席株主の議決権の過半数
会社提案の議決の結果 3議案とも可決 賛成の割合は剰余金配当98.43%、業績連動型株式報酬94.59%
株主提案の議決の結果 3議案とも否決 反対の割合は第4号86.19%、第5号94.95%、第6号89.15%
今井正社長の賛成率 87.11% 候補10名で最低。次に低い橋本英二会長は94.01%、最高は浦野邦子氏の98.17%
森高弘副会長の賛成率 97.25% 3Dが反対を推奨したもう1名。候補10名の中位で、前年の93.04%から改善した
出所:日本製鉄 臨時報告書(第101回定時株主総会 議決権行使結果・2025年6月26日提出)/3Dインベストメント・パートナーズ「日本製鉄の企業価値最大化に向けて」(2025年6月10日)
出所:日本製鉄 臨時報告書(第101回定時株主総会 議決権行使結果・2025年6月26日提出)/3Dインベストメント・パートナーズ「日本製鉄の企業価値最大化に向けて」(2025年6月10日)
当時の取締役 15名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 日本製鉄 2025年3月期 第2四半期決算説明会 質疑応答
  • 日本製鉄 2025年3月期 決算説明会 質疑応答
  • 日本製鉄 臨時報告書「第100回定時株主総会 議決権行使結果」
  • 日本製鉄 臨時報告書「第101回定時株主総会 議決権行使結果」
  • 日本製鉄 臨時報告書「第102回定時株主総会 議決権行使結果」

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