日新製鋼を子会社化(2016年・日本製鉄の決断)

更新:
論点 鋼材デフレ下で高炉をどう集約するか
日本製鉄:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
鋼材デフレ下での国内4位の取り込みによる高炉再編

何をなぜ決めたか:鋼材デフレ下での国内4位の取り込みによる高炉再編

概要

2016年2月1日、鉄鋼国内最大手の新日鐵住金が、国内4位の日新製鋼との間で、2017年3月を目途に同社を子会社化することを検討する旨の覚書を取り交わした。同年5月13日に子会社化等に関する契約を締結し、公開買付けを経て2017年3月13日に議決権の51%を取得した経営判断。

背景

有価証券報告書は当時の環境を、中国における内需の減少が続き、アセアン諸国でも鋼材需要が停滞し、原油市況の低迷によりエネルギー分野向けの需要も減少したと記す。国際市況については中国鉄鋼メーカーによる供給圧力が高く、2015年夏以降に大幅に下落したとしている。国内の鉄鋼需要も設備投資の伸び悩み等により弱含みで推移していた。

内容

公開買付価格は1株1,620円、買付予定数の上限は46,896,300株とし、既に保有していた8.31%と併せて発行済株式総数の51.00%に至る取得を図った。一連の取引後も日新製鋼の東証一部上場は維持する方針とし、子会社化を前提に新日鐵住金が日新製鋼へ鋼片を継続的に供給することも合意された。取得原価は907億円、発生したのれんは16億円にとどまった。

含意

買付けは国内外の競争法に基づく手続きを終えることを条件としていた。子会社化から1年2か月後には株式交換による完全子会社化が決議され、日新製鋼は2018年12月26日に上場を廃止した。もっとも2020年2月には旧日新製鋼の呉製鉄所の一貫休止が決まり、同社の事業用資産に787億円の減損損失が計上されている。

いつ何が起きたか 10件
考察:生き残りのための取り込みが問うたもの
考察

考察:生き残りのための取り込みが問うたもの

この判断の核心は、需要が縮む国内市場で高炉をどう集約するかにあった。同業を取り込んで稼働率を上げ、ステンレスの重複を整理する——集約それ自体は、中国発の供給過剰に追われる最大手にとって理にかなった一手であったとみられる。ただ、支払った907億円に対して計上されたのれんは16億円にとどまり、受け入れた資産6,696億円に対して負債は4,810億円を数えた。買ったのは将来の超過収益力というより、設備と負債を抱えた生産能力そのものであった。

取り込んだ相手の中核設備が、数年後には閉鎖の対象になった経緯は、鉄鋼の再編が持つ論理を映している。稼働率を保つために引き受けた高炉は、需要がさらに細れば今度は集約の候補になる。2020年2月に呉製鉄所の一貫休止が決まり、事業用資産には787億円の減損損失が計上された。買収は生産規模の維持を掲げて始まったが、その先で問われたのは、どの高炉を残しどれを畳むかという選別であった。日新製鋼の子会社化は、供給過剰の時代に国内鉄鋼業が一社へ収斂していく過程の、一つの通過点だったと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

数字で見る

図と表

日本製鉄:のれん・有利子負債・総資産の推移

総資産(百万円)有利子負債(百万円)
日本製鉄:のれん・有利子負債・総資産の推移
(百万円) のれん有利子負債総資産 備考
2011年3月期 20,7791,297,6955,000,860
2012年3月期 15,7131,327,7524,924,711
2013年3月期 48,0652,480,8817,089,498 2012年10月に新日本製鐵と住友金属工業が合併した期
2014年3月期 41,4762,239,2737,082,288
2015年3月期 50,0461,533,4947,157,929
2016年3月期 41,7561,609,5026,425,043 2016年2月1日に検討開始の覚書、5月13日に子会社化等の契約を締結した期
2017年3月期 38,6521,676,1407,261,923 日新製鋼等の子会社化で有利子負債が2,618億円増。のれんの計上は16億円
2018年3月期 42,2632,157,7557,526,351
2019年3月期 52,8032,369,2318,049,528 1月に完全子会社化。第94期より日本基準に替えてIFRSを適用している
2020年3月期 45,4862,488,7417,444,965
2021年3月期 46,3412,559,2317,573,946
出所:新日鐵住金・日本製鉄 有価証券報告書 第86〜96期(連結貸借対照表・連結財政状態計算書)
出所:新日鐵住金・日本製鉄 有価証券報告書 第86〜96期(連結貸借対照表・連結財政状態計算書)

日本製鉄:製鉄セグメントの推移

売上収益(百万円)セグメント利益率(%)
日本製鉄:製鉄セグメントの推移
(百万円) 売上収益セグメント利益 備考
2013年3月期 3,745,49141,522 合併は2012年10月で、住友金属工業の損益は下期のみ含まれる
2014年3月期 4,827,826321,287
2015年3月期 4,892,257401,987
2016年3月期 4,241,521160,088 国際市況の下落でセグメント利益は前期の4割に減少した
2017年3月期 4,016,670138,017 企業結合日が期末のため、日新製鋼の損益は含まれていない
2018年3月期 4,983,335245,708 日新製鋼の損益が通期で加わった最初の期
2019年3月期 5,408,633274,672
2020年3月期 5,207,033△325,341 減損損失4,126億円を計上。うち日鉄日新製鋼の呉製鉄所分が787億円
2021年3月期 4,190,34863,522
出所:新日鐵住金・日本製鉄 有価証券報告書 第89〜96期(セグメント情報・外部顧客への売上収益)
出所:新日鐵住金・日本製鉄 有価証券報告書 第89〜96期(セグメント情報・外部顧客への売上収益)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 日新製鋼株式会社 事業の内容は製鉄事業(鉄鋼製品の製造・販売)
企業結合を行った主な理由 経営資源を持ち寄り相乗効果を創出 『総合力世界No.1の鉄鋼メーカー』の地位を強化し持続的な成長を図るとした
検討開始の覚書 2016年2月1日 子会社化と、それを前提とした鋼片の継続供給について検討を開始する内容
子会社化等に関する契約 2016年5月13日 締結により2月1日の覚書は同日失効した
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式取得 公開買付けと、不足時に備えた第三者割当増資の組合せで51.00%を目指した
公開買付価格 1株当たり1,620円 買付予定数の上限は46,896,300株(株式所有割合42.69%)
企業結合日 2017年3月13日 当期末をみなし取得日とし、当期は貸借対照表のみを連結した
取得した議決権比率 51% 企業結合直前に所有していた議決権比率は8%、結合日に43%を追加取得した
取得企業を決定した主な根拠 議決権の51%を取得したため 現金を対価とする株式取得による
取得原価 90,753百万円 結合直前に保有していた株式の時価14,781と追加取得に支出した現金75,972
段階取得に係る差益 10,027百万円 取得原価と、取得に至った取引ごとの取得原価の合計額との差額
取得関連費用 627百万円 アドバイザリー費用等
受け入れた資産・負債 資産669,622百万円・負債481,073百万円 流動資産250,595・固定資産419,026、流動負債224,318・固定負債256,754
のれん 1,696百万円 5年間にわたる均等償却。時価純資産を取得原価が上回ったことで発生した
取得のための支出(純額) 52,892百万円 取得価額90,753から既保有株式分と日新製鋼の現金23,079等を差し引いた額
通期換算した業績への影響 売上高525,563百万円 経常利益5,998百万円。期首に完了したと仮定した概算額で、監査証明は受けていない
株式交換契約の締結 2018年5月16日 完全子会社化を決議。日新製鋼の臨時株主総会は2018年12月10日に承認した
株式交換比率 日新製鋼1株に対し当社0.71株 保有していた日新製鋼株56,020,563株には株式の割当てを行っていない
交付した株式数 38,159,482株 当社が保有する自己株式を充当し、新株式の発行は行っていない
日新製鋼株の上場廃止 2018年12月26日 東京証券取引所市場第一部。最終売買日は2018年12月25日
完全子会社化の効力発生日 2019年1月1日 簡易株式交換により当社の株主総会の承認は要しなかった
完全子会社化後の商号 日鉄日新製鋼株式会社 2019年4月1日に日新製鋼から商号変更した
出所:新日鐵住金 有価証券報告書 第91期(2016年3月期)【重要な後発事象】・第92期(2017年3月期)【企業結合等関係】・第94期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】
出所:新日鐵住金 有価証券報告書 第91期(2016年3月期)【重要な後発事象】・第92期(2017年3月期)【企業結合等関係】・第94期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】
参考文献

参考文献

参考
  • 新日鐵住金 有価証券報告書 第91期(2016年3月期)・第92期(2017年3月期)
  • 新日鐵住金 有価証券報告書 第94期(2019年3月期)
  • 日本製鉄 有価証券報告書 第95期(2020年3月期)・第96期(2021年3月期)
  • 「第91期(2016年3月期)有価証券報告書【重要な後発事象】」
  • 「第92期(2017年3月期)有価証券報告書【企業結合等関係】」
  • 「第92期(2017年3月期)有価証券報告書【経営上の重要な契約等】」
  • 「第94期(2019年3月期)有価証券報告書【経営上の重要な契約等】」
  • 「第95期(2020年3月期)有価証券報告書【減損損失】」

次に読む決断

免責事項およびポリシー